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その日暮らしのおじさんの冒険  作者: よろず


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俺、そこそこ有名なんだけどな


 友丸が機関銃のそばに倒れた男たちの拘束を終えたとき、運搬車から鎖の擦れる音がした。


 ガリンが目を開けていた。腕に巻かれた鎖を見て身体を起こそうとし、顔をしかめる。


「動くな。肩の傷が開くぞ」


 友丸が近づくと、ガリンは布の巻かれた右肩へ目を落とした。


「……お前がやったのか」


「血を流したままにしておくわけにもいかないだろ」


 ガリンは鎖を一度引いたが、友丸と目が合うと力を抜いた。


「あいつらは?」


「生きてる。お前と同じように、拘束した」


 ガリンは横を向き、少し離れた場所にいる男たちを確かめた。それから、友丸の仮面を見る。


「猫の仮面……撮影者だな」


「ああ」


「俺のこと、知ってるか?」


「知らない」


「マジか。俺、元数持ちなんだけどな。そこそこ有名だぞ」


「そうなのか」


「もうちょっと驚けよ」


 友丸は荷台の脇に立った。


「その元数持ちが、どうして反異界連盟に入ったんだ?」


 ガリンの口元から笑みが消えた。


「遺跡で、仲間を死なせた」


 天井へ視線を戻し、言葉を続ける。


「数持ちだった頃だ。何度も通った遺跡に、見たことのない魔物の群れが出た。俺が一体を止めてる間に、別の奴が仲間を襲った。助けに行こうとしたら、今度は後ろからだ。退けと叫んだが、間に合わなかった」


「何の魔物だったんだ?」


「分からん。あとで調べたが、その異界の記録には載ってなかった。どこから来たのかもな」


 荷台の上でガリンの指が曲がり、鎖が小さく鳴った。


「俺が一緒だから大丈夫だと思ってた奴もいただろうな」


 友丸は黙って聞いていた。


 イタリアの遺跡で突然転移したときは、友丸も反応できなかった。強ければ何が起きても対処できるとは、言い切れない。


「報告はしたんだろう?」


「ああ。遺跡は立入禁止になった。だが、ほかの場所では採掘も、新しい場所の探索も続けてた」


 ガリンが友丸へ顔を向けた。


「あの魔物が、別の場所に出ないとは言えないだろ。何が起きたかも分かってないのに、ほかの場所は安全だって、何を根拠に言えるんだ。一度入場を止めて、調査を優先するべきだと言ったが聞き入れてもらえなかった」


「それで、連盟に入ったのか」


「冒険者を辞めたあとにな。異界から撤退しろと訴えてる連中となら、一緒に活動できると思ったんだ」


「今回、千葉へ来たのは誰の指示だ?」


「俺の派閥の幹部だ。ここへ行けと命令された」


「本部は占拠を批判してると聞いたぞ」


「そうだろうな。人質を取って、施設まで壊したんだ。認められるわけがない」


 ガリンは壁に残った弾痕へ目をやった。


「だが、金は欲しいんだよ。あいつらも」


「金?」


「活動資金だ。世界中の拠点を維持して、人を動かす。生活に困ってる連盟員もいる。寄付がなけりゃ、続けられん」


「現役の冒険者もいるんだろ?」


「いる。だが、そいつらだけで全員を食わせられるか? 俺たちみたいな元冒険者は、異界へ入るにも許可が要る。元数持ちだからって、勝手に入って稼げるわけじゃない」


 ガリンは友丸を見た。


「寄付する奴らも、本気で異界をなくしたい連中ばかりじゃない。ここの採掘が止まれば、喜ぶ奴らがいる」


「ほかの国で、異界資源を扱ってる連中か」


「ああ。日本からの供給が遅れれば、自分たちの商品が売れる。施設が壊れれば、再開も遅れる。そういう連中が金を出すんだよ」


 久世の話にも、国外から流れ込む大口の資金が出てきた。その窓口を握っている者たちもいるという。


「異界を利用してる連中から、反異界連盟へ金が入るのか」


「千葉の採掘が止まった時点で、一部が支払われる。そういう話になってると聞いた。俺たちを批判しながら、その金で活動を続けるんだろうな」


 ガリンは乾いた笑いを漏らした。


「救援を送ってくれる約束だったんだ。だが、来なかった。連絡しても返事がない。その間に本部は声明を出した」


「見捨てられたってことか」


「怪しいとは思ってた。集められたのが、幹部と揉めた奴や、指示を無視して動く奴ばかりだったからな」


「お前も、幹部と揉めてたのか」


「何度もな」


 ガリンはあっさり答えた。


「派閥が違っても、困ってる奴が来れば世話をしてた。仕事を探したり、住む場所の相談に乗ったりな。おかげで、あちこちから俺を頼ってくる奴がいた」


「ずいぶん忙しそうだな」


「忙しいぞ。お前と違って、俺を知ってる奴は多いからな」


 少しだけ笑ったあと、ガリンは声を落とした。


「上の連中には、鬱陶しかっただろうな」


「戦力としては、欲しいはずだろ」


「何でも黙って従う奴の方が、使いやすいだろうよ」


 ガリンは一度、深く息を吐いた。


「ここを占拠させれば採掘は止まる。金も入る。俺たちが捕まっても、現場が勝手にやったことだと言えばいい。幹部に文句を言う奴も、一緒にいなくなる」


「ずいぶん都合がいいな」


「あいつらにはな」


 友丸は、拘束した男たちへ目を向けた。


「応援が来ないと分かったときに、引き揚げようとは思わなかったのか」


「俺だけなら、出られたかもしれん」


 ガリンも仲間たちを見た。


「だが、こいつらを置いては行けなかった」


 友丸はガリンから取り上げた端末を出した。


「命令した奴の名前は?」


「そこに残ってる。入域の手配をした奴との連絡もな。顔に向けてくれ。解除する」


 画面を向けると、ロックが外れた。


 ガリンに言われたやり取りを開く。占拠への参加を指示する連絡と、入域や移動の手配。支援を求めたメッセージには、何度送っても返事がなかった。


 金の話や、幹部の狙いまで裏づけられるものではない。それでも、命令を出した相手は追える。


「今の話は、政府にもしてもらうぞ」


「ああ」


 友丸は端末をしまい、外の部隊へ連絡を入れた。


 ほどなく、搬出路に複数の足音が響いた。入ってきた隊員たちに、友丸はガリンの端末を渡す。


「負傷者がいる。こいつは右肩だ。応急処置はしてある」


 隊員たちは拘束を確かめ、男たちを連れ出し始めた。歩ける者は隊員に支えられ、意識の戻らない者は担架で運ばれていく。


 ガリンは荷台に横たわったまま、その様子を目で追っていた。


 自分の番が来ると、抵抗せず担架へ移される。


 仲間たちに続いて搬出路を運ばれていく間も、鎖を引こうとはしなかった。




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― 新着の感想 ―
経過はどうあれテロリストはテロリスト 友丸がもうちょい遅れてたらどうなってたかわからん
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