機関銃の奥に立つ男
西郷たちの足音が、試掘坑の奥へ遠ざかっていった。
友丸は作業室の出入口で足を止めた。壁際には、救出班が拘束した四人が座らされている。こちらを窺ってはいるが、逃げようとする者はいない。
正面の通路から、足音が近づいてきた。
ほどなく、走ってきた二人の男が姿を現す。先頭の男は、壁際に座らされた仲間を見て足を止めた。
「人質はどこだ!」
銃口が友丸へ向く。
友丸は一歩踏み込み、男の腹へ拳を叩き込んだ。
男は声も出せずに崩れ落ち、手から離れた銃が床を滑る。友丸はすでに、後ろの男へ目を向けていた。
後ろの男が発砲する。
友丸は飛んできた弾を左手で掴み、そのまま相手へ踏み込んだ。弾を捨て、銃を持つ腕を押し上げる。男が次の弾を撃つより先に、右の拳を顎へ叩き込んだ。
男は壁に背中をぶつけ、床へ崩れ落ちた。手から銃が滑り落ちても、拾おうとはしなかった。
友丸は二人の銃を回収し、作業室へ戻った。拘束された四人から離れた場所へ銃を置き、再び出入口へ向かう。
その先は、採掘区画から管理棟へ続く、幅の広い搬出路だった。
中央には運搬用のレールが延びている。空の運搬車が一台停まっており、その向こうに機関銃が据えられていた。
機関銃を構えた男が友丸に気づき、銃口を向けてくる。
通路へ踏み出した途端、機関銃が火を噴いた。
途切れない銃声が岩壁に反響する。床が削られ、レールに当たった弾が火花を散らした。胸や腹にも次々と命中したが、纏った魔力と遺跡スーツに阻まれ、潰れた弾が足元へ落ちていく。
友丸は顔へ向かう弾を次々と掴み、床へ捨てた。歩みを止めず、機関銃へ近づく。
男の顔が引きつった。それでも引き金を放さず、撃ち続ける。隣の男は、帯状につながった銃弾が引っかからないよう、両手で支えていた。
警備の冒険者たちも、この銃撃を浴びたのか。
友丸は仮面の下で眉を寄せた。異界を占拠するために、こんなものまで持ち込んでいる。
運搬車の横を通り過ぎた。機関銃まで、あと数歩。
そのとき、足を下ろしかけた先の床が爆ぜた。
「っ!」
友丸は軸足で床を蹴り、後ろへ跳んだ。追うように、運搬車の脇でも床が吹き飛ぶ。飛び散った岩を浴びながら、金属の荷台へ着地した。
爆薬を仕掛けていたのか。
機関銃の銃口が、荷台の上まで追ってくる。
友丸は狙いをつけ直される前に荷台を蹴り、撃っている男の目の前へ飛び込んだ。
銃身を掴み、銃口を左の岩壁へ押し向ける。撃ち出された弾が壁を削り、砕けた石が飛び散った。
友丸は銃口を壁へ向けたまま、男の胸を蹴りつけた。
男が後ろへ吹き飛ぶ。引き金から手が離れ、ようやく銃声が途切れた。
背中から床に叩きつけられた男は、起き上がってこなかった。友丸は掴んでいた銃身を折り曲げ、機関銃を使えなくした。
「ガリンさん!」
弾帯を支えていた男が、通路の先へ叫ぶ。
友丸はその胸ぐらを掴んで引き寄せ、腹へ拳を叩き込んだ。男が苦悶の声を漏らして前屈みになる。その顎へもう一発入れると、男は弾帯を放し、足元へ倒れた。
機関銃よりさらに管理棟側に、一人の男が立っていた。
右手を岩壁につけ、こちらを睨んでいる。名前も顔も知らないが、呼ばれたガリンと言うらしい。
その指先が岩肌を滑り、掌が壁を強く押した。
友丸の背後で、床が爆発する。
岩の破片が背中を叩いた。友丸は前へ踏み出し、ガリンとの距離を詰めた。
ガリンも壁から手を離し、顔へ拳を振ってくる。
友丸は小太刀を鞘ごと腰から抜き、その拳を受けた。
重い。
鞘を握る手に衝撃が伝わる。銃を持っていた連中とは、身体の使い方からして違う。ガリンは拳を引かず、肩ごと押し込んできた。
友丸は半歩横へずれ、鞘で脇腹を打った。
ガリンの息が詰まる。それでも退かず、左腕で鞘を押さえた。右手を壁へ伸ばし、指先で岩を二度叩く。
掌を押しつけた途端、友丸の足元が砕けた。
友丸は後ろへ跳び、崩れた床を避けた。壁から手を離したガリンが、そこへ拳を突き出す。顔を狙った一撃を鞘で弾くと、男は深追いせず、再び壁際へ退いた。
友丸は、その右手を見た。
爆薬ではない。触れた岩盤を通して、離れた場所を爆破している。足元を狙い、避けた先まで壊したのも、こいつの仕業だ。
「こんなところで爆破するな。坑道が崩れるだろ」
「だったら、おとなしく食らえよ」
ガリンの口元が歪む。友丸は小太刀を握り直した。
試掘坑へ入った人たちが、もう外へ出られたとは限らない。崩落を起こされる前に、こいつを止める必要がある。
友丸が踏み込むと、ガリンが壁に押しつけた掌へ力を込めた。
今度は、左の床が爆ぜた。
友丸は右へ避け、そのままガリンの肩を狙って、鞘に収めた小太刀を振った。
ガリンが壁から手を離し、両腕で受ける。友丸は小太刀をさらに押し込み、男を通路の中央へ追いやった。
壁から離れたガリンが、膝を曲げる。左手が床へ伸びた。
友丸はその腕を蹴り上げ、岩に触れさせなかった。
ガリンは歯を剥き、右の拳を振ってきた。友丸が顔を傾けてかわし、鞘を振り下ろすと、男は横へ跳んで避けた。そのまま右壁へ駆け寄る。
友丸が追うより先に、ガリンの掌が岩壁についた。
指先が、床のほうへ向けられる。
友丸が足元を警戒した、その頭上で轟音が響いた。
見上げると、天井から剥がれた岩塊が落ちてきていた。両腕で抱えても収まらない大きさだ。左右にも岩が降り、横へ逃げようとした先まで塞がれる。
ガリンが、壁に手をつけたまま笑った。
友丸は落下する岩塊から、ガリンの頭上へ視線を移した。
二つの位置をつなぐ。
落ちてきた岩塊が、ガリンの真上へ移った。
「――何っ!?」
ガリンの笑みが消えた。慌てて壁から手を離し、頭を守るように両腕を交差させる。
そこへ、岩塊が落ちた。
腕で受けた衝撃に、ガリンの片膝が床へつく。見開かれた目が、友丸の頭上と、自分の腕に載った岩塊を行き来した。
「何で、こっちに……!」
友丸は落石の間を抜け、ガリンへ駆け寄った。走りながら小太刀を鞘から抜く。
ガリンが岩塊を押し上げ、左へ放り出した。
その隙に、友丸は小太刀で右肩を貫いた。
刀身を引き抜くと、ガリンは呻きながら後ずさった。傷ついた右肩をかばい、今度は左手を岩壁へ押しつける。
「今のは、お前がやったのか!」
壁を探る手が、一度滑った。さっきまでの余裕はない。友丸を睨みながら、また岩が現れないかと頭上にも目を向けている。
友丸は小太刀を鞘に収め、右手で鞘を握り直した。
「まだやるのか」
「ふざけるな!」
ガリンが左の掌を岩壁へ叩きつけた。
二人の間にある床が爆発し、砕けた岩が噴き上がる。間を置かず、再び床が爆発した。今度は敷かれたレールまで跳ね上がり、岩の破片が辺りへ飛び散った。
友丸は横へかわした。
ガリンの目が、その足を追っている。
左へ踏み出すふりをすると、視線も左へ動いた。まだ足を置いていない場所が爆ぜる。
やっぱりだ。こちらの足を見て、次に踏む場所を狙っている。
友丸は進路を変え、ガリンへ真っすぐ向かった。
ガリンは左手を壁につけたまま身構える。友丸が迫っても手を離さず、足元へ視線を落とした。
あと一歩で、鞘が届く。
友丸はその一歩を踏み込む代わりに、床を蹴って跳んだ。
足を置くはずだった場所が爆発する。友丸はその上を越え、ガリンの目の前へ飛び込んだ。
ガリンが顔を上げる。その左手首を、友丸は鞘で打った。
掌が壁から離れた瞬間、胸へ蹴りを入れる。
ガリンの身体が通路の中央へ吹き飛んだ。友丸は着地すると、すぐに後を追った。
片膝をついたガリンが、身体を支えようと左手を床へ伸ばす。
その手が岩に触れる前に、友丸の鞘が左腕を打った。
ガリンが顔を上げた。友丸はその正面へ踏み込み、魔力を纏った左の拳を顎へ叩き込む。
鈍い音とともに、男の足が床から浮いた。
仰向けに落ちたガリンの両腕が、力なく床へ広がる。今度は手を伸ばすことも、起き上がることもなかった。
友丸は顔と両手を確かめてから、そばに膝をついた。
呼吸はある。呼びかけても反応せず、意識を失っていた。
上着を裂き、その布を右肩の傷に当てて縛る。出血を抑えてから男を持ち上げ、来た道を戻った。
壊した機関銃の脇を通り、運搬車へ向かう。金属の荷台の中央にガリンを寝かせ、荷を固定する鎖で両腕を縛った。鎖を荷台の金具に通し、身体も固定する。
岩壁にも、通路の床にも手が届かない。
友丸は鎖の緩みを確かめ、通路へ目を向けた。
新たな足音は聞こえてこない。
そこでようやく、友丸は息を吐いた。




