↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その日暮らしのおじさんの冒険  作者: よろず


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
150/163

岩の向こうの人質


千葉異界のゲート前で、公用車が止まった。


 並んだ救急車の間を、担架を押す職員たちが行き交っている。後部の扉が開いた一台へ、負傷した冒険者が運び込まれていくところだった。


 胸当てには銃弾を受けた跡があり、脇腹に当てられた布を、救護の職員が押さえている。


 友丸は猫の仮面を着けたまま車を降りた。


「こっちだ」


 久世の後に続き、ゲートを抜ける。


 その先の管理棟は、臨時の指揮所になっていた。職員が端末を手に行き来し、奥の部屋からは、報告を求める声が聞こえてくる。


 区画図を囲む職員たちの中に、西郷がいた。東京異界の二次調査以来、顔を合わせていなかった。


「こちらが撮影者だ。救出に協力してもらう」


 久世が紹介すると、西郷が顔を上げた。


「久しぶりですね、撮影者さん」


「西郷さんも来てたんですね」


「ええ。人質の居場所を調べていたところです」


 西郷が監視画面へ向き直る。友丸も隣に立った。


「彼らの居場所は?」


 尋ねると、責任者が監視カメラに残っていた映像を再生した。


 銃を持った男たちに挟まれ、十一人が通路を歩いている。宮本の姿もあった。列の後ろで足を止めた一人が、男に背中を押され、慌てて歩き出す。


 やがて列は奥の採掘区画へ入り、カメラの外へ消えた。


「ここまでは追えました。採掘区画のカメラは壊されています」


 責任者は映像を止め、区画図の一本の通路を指した。


「正面の搬出路には、機関銃を構えた連中が待ち伏せています。警備の冒険者も、そこで撃たれました」


 友丸は搬出路を目で追った。採掘区画から管理棟へ戻るには、そこを通ることになる。


 ただ、図面の端にもう一本、細い線があった。搬出路とは別の方向から、採掘区画の裏側へつながっている。


「この坑道は?」


「古い試掘坑です。裏の作業室へ通じていますが、今は岩を詰めて塞いであります」


「岩をどかせば通れるんですね」


「通れます。ただ、重機は坑道に入りません。人が動かそうとしても、岩を崩す音が向こうへ伝わります」


 友丸は、試掘坑の先にある作業室と、正面の搬出路の位置を確かめた。


 裏から入れれば、人質を搬出路へ出さずに済む。


「俺が先に通れるか確かめます。大丈夫なら西郷さんたちを呼ぶので、入口で待機してください」


 西郷は久世を見た。久世が頷くと、それ以上は聞かずに答えた。


「分かった。俺たちは入口で待つ」


     ◇


 試掘坑に入ると、管理棟の騒がしさが遠ざかった。


 所々で照明が切れている。友丸は足元を確かめながら奥へ進み、坑道を塞ぐ岩の前で止まった。


 採掘で切り出した岩塊が、いくつも詰め込まれていた。手前の岩の隙間から覗いても、向こう側は見えない。


 友丸は振り返った。ついてくる者はいない。西郷たちには、入口で待ってもらっている。


 手前の岩と、後方の壁際にある空いた床を目で捉えた。


 二点をつなぐと、岩塊が坑道の脇へ移った。


 岩を引きずる音は立たない。空いた場所の奥には、次の岩が見えていた。


 友丸はそれも動かした。移す先は、人が通れる幅を残せる場所を選ぶ。帰りには、人質たちもここを通る。


 奥の岩までどかし終えると、細い通路が現れた。


 先へ進んだところで、男の声が聞こえた。


「立つな。座ってろ」


 友丸は姿勢を低くした。


 機械の陰へ身を寄せ、端からそっと覗いた。


 壁際に、人質たちが座らされていた。


 腰を浮かせかけた男性が、銃を持つ男に睨まれ、座り直す。隣の女性は膝を抱え、床を見つめていた。


 宮本もいる。額に傷があり、頬まで血の跡が伸びていた。顔を上げて見張りの動きを追っているから、意識ははっきりしているようだ。


 友丸は全員の姿を確かめてから、室内を見渡した。


 銃を持った男は四人。二人が人質のそばに立ち、残る二人は、正面の出入口を守っている。その向こうが搬出路だ。


 試掘坑のほうを見ている者はいない。


 友丸は機械の陰から離れ、来た道を戻った。


     ◇


「岩をどかしました。採掘機の陰まで行けば、全員が見えます」


 待っていた西郷と救出班に、友丸は室内の様子を伝えた。


「見張りは四人です。人質のそばに二人、正面の出入口に二人。今のところ、裏の坑道には気づいていません」


 班長が隊員たちを振り返り、短く指示を出す。


 友丸は西郷へ向き直った。


「西郷さんは人質に結界を張ってください。俺と救出班は、結界が張られたのを確認してから動きます」


「分かった」


 西郷が先に坑道へ入り、友丸と救出班が続いた。


 隊員たちは、脇へ寄せられた岩の間を一人ずつ抜けてくる。友丸は全員が通ったのを確かめ、作業室の手前で足を緩めた。


 まだ、こちらには気づかれていない。


 採掘機の陰から壁際を覗き、西郷が人質たちを見渡した。


「届く」


 小声で告げられ、友丸は頷いた。


 救出班が機械の陰で身を低くする。班長が出入口の二人を確かめ、近くの隊員へ合図を送った。


 友丸は機械の端に手を添えた。


 隣にいた隊員も身構えている。友丸は西郷を見た。


 薄く揺らぐものが、人質たちの周囲を包んだ。


 端に座る一人まで、結界に覆われている。


「今だ」


 友丸は機械の陰から飛び出した。


 近くにいた男が振り向き、銃を上げる。


「何だ、おまえ――」


 友丸は銃身を掴み、人質のいない壁側へ押し向けた。そのまま踏み込み、男の肩を押す。


 男がよろめいたところへ、救出班の隊員が駆け寄った。腕を背中へ回され、男は床に押さえつけられる。


 もう一人が銃を構えた。


 狙ったのは友丸ではなく、壁際の人質だった。


 乾いた銃声が、作業室に響く。


 人質たちが身をすくめた。しかし、弾は結界に遮られ、誰にも届かなかった。


「……何だ?」


 男が銃口の先を見た。その間に、友丸は距離を詰めていた。


 銃を持つ腕を掴み、足を払う。男が背中から床へ倒れると、友丸はその手から銃を取り上げた。


 正面の出入口では、救出班が残る二人に取りついていた。


 一人は銃を上げかけたところで腕を掴まれ、壁へ押さえつけられる。もう一人は通路へ逃げようとしたが、回り込んだ隊員に行く手を塞がれた。


 引き返す間もなく、後ろから両腕を押さえられる。


「室内、確保しました!」


 班長の声が上がった。


 隊員たちは男たちから銃を取り上げ、両手を背中へ回して拘束した。友丸も、足元の男を引き起こし、人質から離れた壁際へ座らせる。


 西郷は人質たちの前へ進んだ。


「俺も一緒に行く。救出班の指示に従って、坑道を出てくれ」


 それでも、すぐには立ち上がらなかった。人質たちは銃を取り上げられた男たちを見て、それから西郷を見る。


「……帰れるんですか」


 一人が尋ねた。


「ああ。ここから出よう」


 西郷が答えると、男性はようやく肩の力を抜いた。


 近くの隊員が手を差し出す。その手を借りて立ち上がったものの、足がふらつき、隊員が脇から支えた。


「歩けますか?」


「はい。大丈夫です」


 そう答えた声は震えていた。隊員は腕を支えたまま、試掘坑へ付き添う。


 他の人たちも立ち上がり始めた。まだ床に座っている人には、別の隊員が声をかける。


「こちらです。足元に気をつけてください」


 人質たちが採掘機の裏へ誘導されていく。西郷はそのそばを歩き、結界を維持していた。


 宮本が、友丸の前を通った。


 猫の仮面を見て、足を緩める。


 目が合った。友丸が坑道のほうを示すと、宮本は小さく頷き、何も言わずに救出班の後へ続いた。


 正面の通路から、怒号が聞こえた。


「おい、何があった!」


 複数の足音が近づいてくる。銃声に気づいた占拠者たちが、こちらへ向かっているらしい。


 出入口にいた隊員が振り返った。友丸はそちらへ歩き、代わりに通路を見た。


「先に行ってください」


 隊員は頷き、人質たちを追って試掘坑へ入った。


 西郷が、まだ室内にいる人たちを坑道へ送り出す。最後の一人が採掘機の裏へ回ると、友丸へ向き直った。


「俺が施設の外まで連れていく。ここは頼んだ」


「残りは俺が片づけてくる。人質は頼んだ」


 西郷が頷き、坑道へ入る。


 友丸はその背中を見送り、正面の通路へ一人で歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いやいや、隊員たちはここからが本職だろ 一冒険者にここまでやってもらってさらに命を懸けさせんなよ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。