こはくが服を選んでる間に
こはくが最後の茶菓子を食べ終えると、香菜が小皿を下げた。
「こはく様。今から洋服を見に行きますか?」
香菜が声をかけると、こはくは友丸の膝から飛び降りた。
「行く!」
襖へ向かって二歩進み、振り返る。
「あ、いつものこはくに戻るんだね」
「ああ」
友丸が頷くと、こはくは元の小さな姿に戻った。床に残ったワンピースを友丸が畳み、香菜へ渡す。
「選ぶときには、また変身して着替えていいからな」
「みゃ!」
香菜に抱かれたこはくは、前脚を振って部屋を出ていった。
襖が閉まってから、友丸は塁へ尋ねた。
「そういえば、サイシンたちはどうした?」
『ドイツへ戻った。《ガイロン》の本拠地で鍛え直されている』
「まだ怪我人もいたはずだろ」
『治療は済んでいる。今は修練を怠っていたと、姉たちに叱られているそうだ』
「姉たち?」
『サイシンには姉が二人いる。ガイロンの最強戦力だ。どちらも腕が立ち、その取り巻きの連中も強い』
友丸は画面を見た。
「待て。サイシンが《ガイロン》のクランマスターだろ?」
『そうだ』
「マスターが姉たちに鍛えられてるのか」
『修練に関しては、あの二人が厳しい。ただ、クランの運営には向いていない』
塁は机の資料を脇へ寄せた。
『姉二人は、人を鍛えるのはうまい。だが、日々の仕事を取りまとめたり、部下の相談に乗ったりはしない。そういうことを引き受けているのがサイシンだ。兄貴肌で、下の連中にも慕われている。あいつがマスターを任されているのには、ちゃんと理由がある』
「そういう奴なのか」
遺跡でサイシンと話したときには、そこまで見えなかった。友丸が頷くと、絢香が塁を見た。
「詳しいのね」
『付き合いは長いからな』
「サイシンは、お前のライバルなんだろ?」
友丸が聞く。
『向こうが勝手に言っているだけだ』
「同い年だって聞いたぞ」
『ああ。何かをきっかけにライバル視されるようになったらしいが、何だったか覚えていない』
櫻子が「あーあ……」と呆れた顔をした。
「本人の前では言わないであげて」
『だから、覚えてない』
絢香まで加わり、塁はますます分からないという顔をする。友丸はサイシンがこの場にいなくてよかったと思った。
「それで、《ガイロン》には無傷の戦闘機械の核だけでよかったのか?」
友丸が持ち帰った核はイタリア政府に提出し、調査後に《ガイロン》へ渡ることになっている。
『上等だ』
塁は即答した。
『戦闘機械を倒せても、核はその途中の戦闘で傷つく。無傷のまま手に入れられるのは上位ランカーくらいだ。まあ、お前の異能力なら簡単だろうがな』
「十分なものなら、よかった」
友丸が頷くと、はなが友丸と向き合う。
「こはくの新しい姿は、これからどうするんだい?」
「時期を見て公表するつもりです」
友丸は襖へ目を向ける。
「今は人前ではいつもの姿でいると約束してる。いつ公表するかも、こはくと話して決めたい」
「分かったわ」
櫻子が頷いた。
塁が続ける。
『各国が持っている異界の情報は集めたい。異界人の痕跡についても、公表されていない資料がかなりあるはずだ』
「機密にしている国もあるわよ」
櫻子が言う。
『分かっている。だが、各国で小規模なモンスターパレードが起きている。自国の異界について、今より詳しく知りたい国は多いだろう』
「遺跡や異界人の痕跡と、パレードが関係しているのか?」
友丸が尋ねた。
『まだ分からん。異界そのものについて分からないことが多すぎる。各国が別々に持っている記録を照らし合わせれば、分かることもあるはずだ』
塁は櫻子へ目を向けた。
『異界を知りたいのは、全世界共通の認識だろう』
櫻子は少し考え、頷いた。
「各国へどこまで照会できるか、確認してみるわ。こはくのことは伏せたままで」
『ああ。まずは、すでに見つかっているものからだ』




