↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その日暮らしのおじさんの冒険  作者: よろず


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
130/160

遺体



 香菜は、先ほどの機械の腕が武器ではなく工具だったことにも触れる。


 あれは侵入者を倒すための兵器というより、元は搬送施設を維持する作業機械だった可能性がある。


 ただし、あれが何を守っていたのかまでは分からない。


「荷物か、それとも、この先にある何かか」


 友丸は、開いた扉の奥へ目を向けた。


 床の溝は暗い通路の先まで続いている。作業場から運び出された荷は、まださらに奥へ送られていたらしい。


「行きましょう。ただ、同じものが動いていても不思議ではありません」


「無理はしない。危なそうなら戻る」


 香菜が頷く。


 友丸は、先に扉をくぐった。


 通路は人が二人並んで歩ける程度の幅しかない。両側の壁には、一定の間隔で金属板が埋め込まれていた。文字はないが、作業場のものより傷が少ない。


 足元の溝は、途中からわずかに下り始めた。


 しばらく進むと、行き止まりのように見える場所へ出る。


 正面の壁には、作業場の扉よりも大きな金属の扉が埋め込まれていた。扉の下には二本の溝が続いている。しかし、固く閉じられたまま動く気配はない。


 その右側に、人ひとりが通れる細い扉があった。


 こちらは半分だけ開いている。


「人が使うなら、こっちですね」


 香菜が扉の隙間へライトを向ける。


 友丸が先に中を覗き込んだ。


 部屋は狭かった。壁際に低い机があり、その上には形の違う工具がいくつか残されている。大半は錆びもせず、薄く埃を被っていた。


 正面の壁には、小さな棚が作られている。


 そこに置かれたものを見て、友丸は足を止めた。


 床際に、人の様な骨があった。


 壁にもたれるようにして座り込んだ姿勢のまま、長い時間を経ている。


 香菜も、すぐには言葉を出さなかった。


 頭蓋は人間より少し縦に長く、指の骨は一本多い。背丈は友丸と大きく変わらないが、人間のものではあり得ないと、見ただけで分かる。


 遺骨のそばには、細長い金属板が落ちていた。作業用の道具なのか、装具の一部なのかは判断できない。


「……人、ですか」


 香菜が小さく尋ねる。


「人間じゃない。でも、この場所で働いていたんだろうな」


 友丸は遺骨の手元を見る。


 骨の指は、机の脚へ伸びていた。


 部屋の入口近くには、外側からひしゃげた金属片が積み重なっている。何かが落ちて扉を塞いだのか。それとも、ここへ逃げ込んだあとで閉じ込められたのか。


 答えになるものは、どこにも残されていない。


「十蔵さんたちが昔見つけた痕跡とは、別の場所なんでしょうか」


「たぶん。少なくとも、この区画までは来ていないと思う」


 遺骨にも、そばの金属片にも触れない。


 施設が造られた目的も、ここで何が起きたのかも分からない。それでも、異界の中に人間とは異なる誰かがいたことだけは、目の前に残されていた。


「戻ろう。ここは調査隊に任せましょう」


「はい」


 来た道を引き返す間、動く機械が現れることはなかった。


 作業場に残した機械も、頭部を失ったまま動かない。二人はその横を通り、遺跡の外へ戻った。


     ◇


 管理施設へ戻った頃には、すでに日をまたいでいた。


 連絡を受けた十蔵は、部屋へ入ってきた友丸と香菜の顔を見るなり、椅子から立ち上がった。


「無事か」


「大丈夫です」


「ならいい。詳しい話を聞かせろ」


 友丸は、船着き場の先にあった作業場、動いていた機械、さらに奥で見つけた遺骨について順に話した。


 十蔵は途中で口を挟まず、腕を組んだまま聞いていた。


 報告を終えると、しばらく室内が静かになる。


「遺骨か」


 十蔵は低く繰り返した。


「燿と俺達が見つけたのは、もっと手前の建物だったのかも知れん。あの先に、そんな場所が残っていたとはな」


「調査はどうしますか?」


「今日のうちに立入禁止区域を広げる。明日から専門の調査隊を入れるが、遺骨も装置も、お前たちが見つけた時のままにしておく」


 十蔵はすぐに机の端末を操作し、外で待機していた職員へ指示を出した。


 必要な連絡を終えると、ようやく二人へ向き直る。


「それとは別に、配信は悪くなかった」


「満足したんですか?」


「ああ。危ない場所を見せるだけじゃなく、引き返す理由まで伝わっていた。あれなら、普段は案内動画を開かん連中も見るだろう」


「そうなら、撮った意味はありましたね」


「あった。管理局としては十分なほどな」


十蔵はそこで、香菜へ視線を移した。


「お前の戦い方は、はなに似ている」


 香菜はわずかに目を瞬かせる。


「糸が通らんと分かった時、余計な手を打たなかった。あの機械を自分では止められんと見て、すぐ友丸に任せたな」


「私だけでは止められないと判断しました。友丸様なら、止められると思いましたので」


「はなも同じだ」


 十蔵は短く頷いた。


「自分にできることと、できないことを間違えん。どれだけ厄介な相手が出ても、慌てずに状況を見る。自分が出るべき時か、仲間へ任せるべき時か――あいつは、その判断がいつも冷静だった」


 香菜は少し考えてから、静かに首を振った。


「私は、まだまだです。はな様には長年積んできた場数があります。技術も、相手を誘導する駆け引きも、私には及びません」


「自分に足りないものまで見えているこれからも強くなるぞ」


 十蔵は笑った。


「少なくとも、止められない相手へ無茶をして死ぬ戦い方はしない。そこは、はなに似ている」


 十蔵は満足そうに頷いた。


 それから、報告書の端末へ視線を落とす。


「今回は助かった。燿とはなさんにも、帰ったら礼を言っておいてくれ」


「分かりました」


 友丸と香菜は立ち上がり、執務室を出た。


 廊下を歩きながら、友丸は遺跡の奥で見た遺骨を思い出す。


 こうして無事に瀬戸内海異界の調査は無事終了した。


 瀬戸内海異界で見つけたものは、これから調べることになる。


あの施設を造り、動かし、最後まで残った者がいた。


 瀬戸内海異界で見つけたのは、古い建物や使い方の分からない道具だけではない。


 人間ではない誰かが、確かにそこで生きていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ここ数話をざっと読み流しました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。