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その日暮らしのおじさんの冒険  作者: よろず


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114/161

撮影者さん絡まれる


中層へ続く最後の通路へ入ると、岩壁の向こうから歓声が聞こえてきた。


 ザックズが大会会場へ姿を現した途端、その音は一段と大きくなる。冒険者から名前を叫ぶ声が上がり、待ち構えていた各国の報道陣も一斉にカメラを向けた。


 大型モニターでは、先ほどの戦いが早くも再生されている。


 地竜の脚を大剣で砕き、顎の下から首を斬り上げた場面。高速で動くドラゴンの進路を読み、姿を現すより先に大剣を振り抜いた瞬間。


 そこまでは、間違いなくザックズが主役だった。


 最後に、友丸が別のドラゴンを正拳突きで倒した映像まで続かなければ。


《ザックズおかえり!》


《世界三十二位強かった》


《最後のドラゴン戦は何度見てもすごい》


《そのあとの正拳まで流すのかよw》


《勝者より撮影者さんの方が目立ってない?》


 ザックズも大型モニターを見上げ、わずかに眉を寄せる。


「最後の部分は必要なのか?」


「俺に言われても困ります」


「俺の勝利を紹介する映像だろう」


「三体も狩りましたもんね」


「四体目の印象が強すぎるんだよ」


 不満を口にしながらも、ザックズの機嫌は悪くない。


 中層へ戻る間に勝利の言葉も思い出したらしく、報道陣を前にして大剣を背負い直す。先ほど言い損ねた分まで語るつもりなのだろう。


 友丸は少し後ろから、その姿を撮り続けた。


 報道陣との距離が縮まったところで、人垣の一部が左右へ分かれた。


 一人の男が、こちらへ向かってくる。


 午前中の実働比較で敗れ、世界ランキング四十九位の座を失ったレオだった。


 試合からは、すでに数時間が経っている。大会の医療班による治療を終えたあと、午後まで休息を取っていたらしい。足取りは確かで、怪我や疲労が残っているようには見えなかった。


《レオだ》


《午前中に負けた人だよな》


《これでランキング外になった》


《撮影者さんに文句を言ってた人》


《わざわざ待ってたのか?》


 ザックズが足を止めた。


「午前の試合は見た。惜しかったな」


「結果がすべてだ。惜しかったかどうかに意味はない」


「身体は大丈夫か?」


「治療も検査も終わっている」


 レオは言い訳をしなかった。


 自分を破った相手への不満も、審判の判定に対する異議も口にしない。ただ、その視線はザックズではなく、カメラを構えている友丸へ向けられていた。


「ようやく会えたな、撮影者」


「レオか」


「名前を覚えていたとは意外だな」


「大会が始まる前、テレビに映っていたからな」


「なら、俺が何を言ったかも覚えているな?」


「俺と戦いたいんだろ」


 友丸がカメラをレオへ向ける。


 レオは止めようとしなかった。


 周囲の報道陣も二人の様子に気づき、中継カメラの向きを変えている。ザックズの勝利を祝っていた会場も、何が始まったのかと静まり始めた。


「俺は午前の試合で負けた。四十九位の座も失った。今の俺はランキング外だ」


「そうなのか」


「だが、負けたことから逃げるつもりはない。今日の相手が俺より上だった。それだけのことだ」


「潔いな」


「だからこそ、お前を認められない」


「話がつながっていない」


 レオの眉が動いた。


「俺たちは実力を示すために戦い、勝った者が順位を得る。だが、お前はどうだ。世界ランカー以上だと持ち上げられながら、名前も顔も隠し、正式な勝負には出てこない」


「俺が世界ランカー以上だと言ったことはない」


「周囲が勝手に騒いでいるだけか?」


「ああ」


「随分と都合のいい立場だな」


 レオが一歩、友丸との距離を詰めた。


「なら、俺と戦え。お前が本当に世界ランカー以上なのか、ここで確かめてやる」


「断る」


 あまりに早い返答に、レオが言葉を失う。


「俺は大会へ参加しに来たわけじゃない。撮影の仕事は終わったから帰る」


 友丸はレオからカメラを外し、出口へ向かおうとした。


「逃げるのか!」


「そう思いたければ、それでいい」


「今日断っても無駄だ。お前が勝負を受けるまで付きまとうぞ」


 友丸の足が止まった。


「本気で言ってるのか?」


「ああ」


「それは迷惑だな」


「なら、今ここで終わらせろ」


 友丸は振り返り、レオの顔を見た。


「俺が勝ったら、二度と絡むな」


「俺が負けると思っているのか?」


「勝敗の話はしていない。約束できるのかと聞いている」


 レオは友丸を睨んだまま、しばらく黙っていた。


 やがて、口元へ薄い笑みを浮かべる。


「いいだろう。お前が勝てば、これまでの発言もすべて撤回する。二度とお前の実力に異議を唱えない」


「分かった。なら、やる」


 静まり返っていた会場が、爆発したような歓声に包まれた。


《受けた!?》


《撮影者さん対レオ!》


《元世界四十九位と戦うのか》


《ドラゴンを正拳で倒した人だぞ》


《どっちが勝つんだ?》


《これ、大会の予定にないよな?》


 ザックズが二人を見比べる。


「本気で受けるのか?」


「つき回られるのも面倒ですしね」


「その理由で元世界ランカーと戦う奴は、初めて見たぞ」


「今日で終わるなら楽でしょう」


 ザックズは呆れた様子で息を吐き、今度はレオへ顔を向けた。


「今の約束は世界中へ流れている。負けたあとで忘れたとは言えないぞ」


「承知している」


「身体の状態も問題ないんだな?」


「何度言わせる。午前中に治療を終え、医療班の許可も得ている」


 レオの立ち姿に無理をしている様子はない。


 午前の試合から時間も空き、怪我も体力も回復している。どちらが勝っても、疲労を理由に結果が曖昧になることはなさそうだった。


『面白い』


 片耳につけたイヤホンから、塁の声が届いた。


 同じ声が会場にも流れ、観客たちが大型モニターへ顔を向ける。


『双方に戦う意思があるなら、エキシビションとして組めばいい』


『い、今からですか?』


 実況者の声がわずかに裏返った。


『本日の日程は、すでに終了していますが……』

 

実況者が戸惑いながら返す。


『だから都合がいい。第三競技区画はまだ撤収前だ。設備も残っているだろう』


『しかし、大会日程にない試合です。運営の許可が必要になります』


『今から確認すればいい。レオは医療班の検査も終えているのだろう?』


 塁に尋ねられ、大会本部の担当者が慌てて資料を確認する。


『はい。午前の試合後に治療を受け、再検査も通過しています。現在の身体状態に問題はありません』


『撮影者の戦闘許可も出ている。残るのは運営の判断だけだな』


「面白がっているだけだろ」


 友丸がイヤホン越しに言う。


『それ以外に何がある?』


「少しくらい隠せよ」


『元世界ランカーと撮影者のどちらが強いのか、世界中が知りたがっている。双方も同意している。断る理由はないだろう』


《塁、完全に楽しんでる》


《また撮影者さんと普通に話してるぞ》


《本当にどういう関係なんだ》


《世界二位が試合を組み始めた》


《運営の人たちが慌ててるw》


 突然決まった試合を前に、大会本部が動き始めた。


 今回友丸は日本政府の身元保証を受け、深層での撮影許可だけでなく、身を守るための戦闘を伴う同行資格も得ている。レオもランキングから外れたとはいえ、今回の大会へ正式に参加した冒険者だ。


 双方が同意し、競技区画と審判を確保できるなら、エキシビションとして開催することは可能だった。


 運営の協議は、十分もかからなかった。


 大型モニターへ、特別試合の開催を告げる文字が表示される。


『運営から正式な許可が下りました! 一時間後、第三競技区画にて、レオ選手と撮影者さんによるエキシビションマッチを行います!』


 先ほどのザックズの勝利にも劣らない歓声が、会場全体を揺らした。


《本当に決まった!》


《元世界四十九位対撮影者!》


《一時間後か》


《世界中が見るぞ》


《撮影者さん、今日は撮る側じゃなかっ》


「俺が勝ったら、約束は守れよ」


 友丸が右手を差し出す。


 レオはその手を見下ろしたあと、強く握り返した。


「俺に勝ってから言え」


「そのつもりだ」


 二人は短く手を交わし、同時に離す。


「遅れるなよ」


「分かってる」


 友丸は手を下ろし、第三競技区画へ続く通路へ向かった。試合開始までに、装備の確認を済ませるつもりなのだ。


     ◇


 一時間後。


 第三競技区画を囲むマスコミ、冒険者は、立ち見が出るほど埋まっていた。


 急遽決まったエキシビションにもかかわらず、各国の放送局が中継予定を変更し、試合開始を待っている。配信の同時視聴者数も、今なお勢いよく増え続けていた。


 友丸が競技区画へ入る。


 猫の仮面と黒いスーツの遺物はそのまま。手にしている武器は、普段から使っている黒いナイフ一本だけだった。


 反対側には、すでにレオが立っている。


 装備を整え、午前中の敗北を引きずっている様子はない。友丸の姿を認めると、手にしていた武器を握り直した。


 そして、二人の間には審判を務める若い男が立っていた。


 二十代半ばほどだろうか。これから始まる試合を前にしても緊張した様子はなく、友丸に気づくと明るい笑顔で片手を上げる。


『今回、特別エキシビションの審判を務めるのは、《シスタ》所属――世界ランキング十一位、ライシンさんです!』


 その名が告げられた途端、観客席からひときわ大きな歓声が上がった。


《審判まで世界ランカー!?》


《しかも十一位》


《普通の審判じゃ止められないってことか》


《シスタから連れてきたのか》


 友丸はライシンの顔を見ると、わずかに眉を寄せた。


「お前が審判か」


「久しぶりに顔を合わせたのに、最初の言葉がそれですか?」


《久しぶり!?》


《また知り合いが増えたぞ》


《世界十一位とも普通に話してる》


《撮影者さん、シスタとどういう関係なんだ》


《正体より人脈の方が分からなくなってきた》

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― 新着の感想 ―
人脈世界ランキング1位は撮影者だな
負け犬が偉そうに 勝った勢いでならまぁわかるけど、これじゃピエロだわ
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