クラン専門家田中再び
それから数日後。
友丸は自宅の居間で、こはくと一緒にテレビを見ていた。
昼の情報番組では、開催の迫った世界ランキング会議が特集されている。
画面に映っているのは、国際空港の到着ロビーだ。
『世界各国のSランク冒険者が、続々と日本へ到着しています!』
レポーターの背後には、報道関係者のために設けられた取材区域が広がっていた。
集まっているのは、日本のメディアだけではない。北中米や欧州、中東、アフリカ、アジア各国のテレビ局も場所を取り、局名の入ったカメラを到着口へ向けている。
英語やスペイン語、アラビア語まで飛び交い、有名な冒険者が姿を見せるたび、何十本ものマイクが一斉に突き出された。
『南米最大級のクラン、《バロン》の一行が出てきました!』
揃いの深緑色の上着を着た十人ほどが、到着ロビーへ姿を見せる。
先頭を歩く二人のSランク冒険者へ向かって、各国の記者が質問を浴びさる。
映像が切り替わる。
今度は、欧州の有力クランに所属する世界ランカーが映し出された。別の出口では、北米を拠点に活動するSランク冒険者が、集まったファンへ手を振っている。
画面の下には、名前や所属クラン、現在の順位が次々と表示されていた。
「随分と集まったな」
「みゃ」
こはくはテレビより、テーブルに置かれた小魚へ目を向けている。
『また新たな冒険者が到着しました!』
到着口から、浅黒い肌の大男が一人で歩いてきた。
短く刈った黒髪に、鍛え上げられた大柄な体。同行者が持つ細長い武器ケースも、通常の物より一回り大きい。
男の姿を確認した各国の報道陣が、一斉に動いた。
『今回の順位決定戦に向けて、一言お願いします!』
日本人と思われるレポーターからマイクを向けられた男は、その場で足を止めた。
周囲を埋めるカメラを見回したあと、そのうちの一台を指差す。
『撮影者。日本にいるなら、俺と戦え』
突然の発言に、報道陣がどよめいた。
『自分が世界ランカーより強いと思っているのなら、隠れていないで証明してみろ』
男はそれだけ告げると、再び歩き始めた。
各国の記者があとを追い、到着ロビーが一気に騒がしくなる。
『今の方は、中東周辺で活動するSランク四十九位冒険者のレオさんです』
レポーターが、手元の資料へ目を落とした。
『レオさんは以前から、正体も経歴も公表していない撮影者が、世界ランカー以上の実力者として扱われることに異議を唱えています』
「誰だよ、それ」
「みゃ?」
「お前も知らないよな」
こはくは小魚をくわえたまま、首を傾げた。
友丸には、顔にも名前にも覚えがない。
会ったことすらない相手から、なぜ一方的に勝負を求められているのかも分からなかった。
テレビの映像が空港からスタジオへ戻る。
『ここからは、冒険者クランの事情に詳しい田中さんと一緒に、今回の世界ランキング会議について見ていきます』
コメンテーター席に座っていた眼鏡の中年男性が、カメラへ向かって頭を下げた。
以前にも、大型クランの特集で解説していた男だ。
「このおっさん、クランの専門家じゃなかったか?」
「みゃ」
『田中さんは冒険者クランの専門家ですが、今回は順位決定戦についても解説していただけるということで』
『世界ランカーの多くは、有力クランに所属していますからね。順位が変われば、クランへ届く依頼や契約にも影響します。ランキングとクランは、切り離して考えられません』
「一応、関係はあるのか」
世界ランキング会議と呼ばれているものの、五十人全員が戦って順位を決めるわけではない。
過去の功績と直近三年間の実績が審査され、それだけでは優劣をつけられない者に限って、実際に力を比べることになる。
『今回は、冒険者同士の対戦が多くなると予想されているそうですね』
『ええ。指定された魔物を討伐する方法もありますが、直接戦った方が分かりやすいですから』
『分かりやすい、ですか?』
『魔物を探すところから始めれば、発見までの運や相性も勝敗に影響します。その点、対戦なら同じ場所、同じ条件で戦える。勝敗もはっきりするので、あとに不満が残りにくい』
田中はそこで言葉を切ると、真面目な顔のまま続けた。
『何より、冒険者同士の対戦は人気があります。世界中の有名なSランクが本気で戦うわけですから、視聴率も取れます』
隣に座る女子アナウンサーが苦笑した。
『最後だけ、運営側の事情が入っていませんか?』
『注目を集めることも大切です』
「このおっさん、本当にクランの専門家か?」
「みゃ」
こはくは興味なさそうに鳴き、皿に残った最後の小魚へ前足を伸ばした。
テレビでは、先ほどの空港中継がもう一度流されている。
『撮影者。俺と戦え!』
「だから、誰なんだよ」




