自動追尾カメラはホントに優秀
「まずは、この子の設定から説明しまーす!」
近藤が手のひらほどのリモコンを掲げた。
「メインの被写体はカエデちゃん! 私はサブ! 二人が近くにいるときは両方を映して、離れたときはカエデちゃんについていくように設定してありまーす!」
「つまり、今日は私が主役です!」
「主役の座を譲った覚えはないけどねー!」
《メインとサブの意味分かってる?》
《コンちゃん張り合うな》
《カエデをちゃんと追えるのか?》
カエデが歩き出すと、自動追尾カメラも滑らかに移動を始めた。近藤が隣へ並んでいる間は二人の全身が収まり、試しに左右へ離れると、迷うことなくカエデを追っていく。
急な方向転換にも遅れず、岩を避ける際にも画面はほとんど揺れない。
《思ったより優秀》
《カエデが急に動いてもついていってる》
《これなら一人でも配信できそう》
「それから、戦闘中は二つの映像を同時に流しまーす!」
近藤がリモコンを操作すると、配信画面が左右に分かれた。左には自動追尾カメラ、右には友丸が構えている手持ちカメラの映像が表示される。
「左が自動、右が人間! 同じ戦闘をどう撮るのか、見比べてくださーい!」
《二画面は面白いな》
《右のカメラマン、さっきのアニメ顔?》
《ちゃんと撮れる人なのか?》
しばらく浅層を進むと、前方の岩陰から数体の獣型魔物が姿を現した。
カエデと近藤にとって、苦戦するような相手ではない。ただし今回はカメラの試験が目的だ。初めから簡単に片づけることはせず、二人は左右へ分かれ、一体ずつ確実に数を減らしていった。
自動追尾カメラは、戦いが始まると二人と魔物の位置が分かる距離まで下がった。全体を広く映しながらカエデを中心に追い、その攻撃で魔物が倒れた瞬間だけ、滑らかに映像を拡大する。
近藤が画面から離れれば無理に追わず、カエデの動きを優先する。それでも二人が近づけば、自然に画角を広げた。
機械が判断しているとは思えないほど、違和感のない映像だった。
《自動カメラすごくない?》
《全体が分かりやすい》
《倒した瞬間に寄るの気持ちいいな》
一方、右側に流れている友丸の映像は、まるで別の戦いを映しているようだった。
魔物が漏らす荒い息づかい。地面を蹴るカエデの足元。攻撃を避けた二人の身体が入れ替わり、近藤の炎が魔物の表面を照らす。友丸のカメラは戦いのすぐ近くを移動し、その場にいる者しか感じられない音と動きを拾っていく。
魔物が倒れた瞬間、それまで続いていた息づかいが途切れた。
命が失われた一瞬まで、映像を通して伝わってくる。
《右、迫力が全然違う》
《カメラマン近すぎない?》
《今、魔物の横を通らなかった?》
《どうやって撮ってるんだよ》
数分後、最後の魔物が倒れた。
カエデと近藤が怪我をしていないことを確認すると、自動追尾カメラは二人を並べて映す位置へ戻った。友丸のカメラも少し遅れて、同じ二人を正面から捉える。
「一回目、終了ー! 自動カメラ、かなり優秀じゃない?」
「予想以上だね! でも、右側の映像もすごかったよ!」
《自動は見やすい》
《右は映画みたいだった》
《カメラマンが一番危ない位置にいる》
《この人、本職のカメラマン?》
異界での撮影技術は、以前ほど珍しいものではない。現在では、プロのカメラマンが異界撮影の講習をやることもあれば、冒険者を目指す学生が授業で配信や撮影を学ぶこともある。
だからこそ、視聴者にも友丸の技術が普通ではないと分かった。
《今はプロのカメラマンも異界撮影を勉強してるらしいけど》
《冒険者の学校にも撮影の授業があるぞ》
《それでもこれは上手すぎる》
《先日の炎クランの遠征じゃ、Aランクの北田さんもカメラマンしてたよな》
《戦える人が撮ると映像も変わるのか?》
コメントの流れを読んでいた近藤が、マスクをカメラへ近づけた。
「右のカメラマンについては秘密でーす! 質問されても答えませーん!」
「それ、余計に気になる言い方じゃない?」
カエデの指摘どおり、コメントはさらに速くなった。
《そういえばコンって、撮影者さんと面識あるよな?》
《前にコラボしてた》
《まさか……》
《いや、こはくがいない》
《でも、このカメラワークは怪しくない?》
配信の一部を切り抜いた短い動画が、すぐにSNSへ投稿された。
自動追尾カメラの滑らかな映像と、その隣で流れる迫力のある手持ち映像。二つを比較する動画は瞬く間に拡散され、配信を見ていなかった者まで二人のチャンネルへ集まり始める。
その後もカエデと近藤は浅層を進み、何度か魔物と遭遇した。戦闘になるたびに画面は二つへ分かれ、自動カメラは見やすく状況を伝え、友丸のカメラは戦いの中へ視聴者を引き込んだ。
自動追尾カメラを試すために始めた配信は、いつの間にか、正体不明のカメラマンまで注目を集める配信へ変わっていた。
SNSで映像が広がるたび、コンとカエデの視聴者数はさらに増えていった。




