七章 蝶と三つ編み
「……三つ編みはこれでいいのだけれど、シオンも女の子だもの。せっかくだからもっとお洒落にしましょう」
カミーユが指を動かすと、私の目の前で、蝶の髪飾りがふわりと舞い上がった。意識があるかのように私の周りをふわりふわりと跳んだ蝶は、カミーユの動きに合わせて私の三つ編みの上にそっと着地する。一度ぶるりと翅を震わせた後は、もう動かなかった。
私は三つ編みが崩れないように気をつけて、髪飾りに触れた。冷たくて固い、無機質な感触が手に残った。
「似合っているわ」
カミーユは目を細めた。近くで見ないと分からないような、彼女と付き合いが長い私たちでしか気づかないような笑み。
私はこれが、彼女の最大限の喜びの表情だということを知っている。
だって、長女のカミーユと一緒にいる時間が一番長いのは次女の私だ。双子もオリヴィエも知らないような表情の微妙な変化を、私だけが感じ取ることができる。
……オリヴィエ。あの末っ子のことを考えると、落ち着かなくなるのは何故だろう。心がざわざわするのは、ふとしたときに急に恐ろしくなるのは、目を閉じたときにあの子の潰れた両目が脳裏に映って眠れなくなるのは……。
恐ろしい子。
私は口の中でその言葉を転がす。あの子は間違いなく恐ろしい。私はあの子と関わるべきではない。
「シオン」
カミーユと目が合った。
「終わったわよ」
均等に編まれた三つ編みに、ガラス細工の髪飾り。彼女に整えられた髪は、私にとても似合っている。いつもと同じはずの淡い紫のワンピースも洒落ていた。
どこかのお姫様みたいだ。そう考えて嬉しくなる。
「ありがとう、カミーユお姉さま」
もう時計は深夜を指していた。カミーユに「おやすみなさい」と告げ、部屋を出ながら考える。
せっかく彼女に綺麗に整えてもらったのだ。一直線に部屋に戻るのは、もったいない。
カミーユの部屋に差し込む月光の透明度は、いつもより高かった。今日は満月なのだろうか、とふと思う。たとえ満月でなくとも、月光の下を散歩するのはさぞ気持ちいいだろう。
中庭なら月が美しく見えるはずだ。




