十八章 ワイン
「まずは食前酒ね」
美しい女王が華奢な腕を振る。それぞれの席の前に、夢のようにワイングラスが現れた。
儀式では毎回使用する、とっておきのリーデルだ。ややくびれたリムが美しく、薄いガラスは歪んだ炎を映している。高貴な婦人が姿を変えたかのようなそれは、曇り一つなく磨き上げられていた。
「ワインをそれぞれ自分のグラスに注ぎましょう」
テーブルの中央には、ワインの瓶がいつの間にか置かれていた。
儀式のワインは、地下のワインセラーの中で最も質が良いものを選ぶ。今年は赤い包装が鮮やかな、プルミエ・クリュの「クロ・デ・イサール」。
まず長女のカミーユが手に取る。栓を開けると、新鮮な赤いチェリーの上品なアロマの香りが、鼻をくすぐった。瓶を傾けると、血のように真っ赤な液体がとろりと流れる。特別な杯も、華々しい赤に染まった。
私も慎重に注ぐ。とくりとくりと液体がグラスに満ちる、いつもは聞く機会のない音に、ああ今は大事な儀式なのだと、改めて背筋が伸びる。強い香りを吸い込むだけで、アルコールを口にしたかのような気分になった。
最後は双子だ。二人で一つの彼女らは、二人で瓶を持ってそれぞれのグラスに順番に注いでいく。真剣なのだろう。彼女らには珍しい無表情でワインを見つめる姿は、火に照らされて陰影が深まった顔と相まって、職人が丹精込めて作ったからくり人形だ。
瓶が再びテーブルの中央に戻る。カミーユは小骨のような指で、ゆっくりとグラスを持ち上げた。妖しい光を宿した瞳が私と双子を順に見る。
彼女の視線が、動作が、声が、ダイニングルームを支配する。
乾杯の合図。目の高さまでグラスを掲げ、相手の顔を見ながら軽く会釈を。
「愛しき隣人、ザムザに」
乾杯。
一気にワインを呷った。喉を伝っていく熱い塊にくらりとする。もぎたての果実を凝縮したような瑞々しさと濃い甘みの中で、ピュアな酸味が舌を刺激した。夢の中にいるような余韻が長く続いた。唇をぺろりと舐め上げ、息を吐く。それだけで酔ってしまいそうなほどの濃度を持つ香りが、鼻を抜けていった。
かちりと私の中で何かのスイッチが切り替わった音がした。
とろりとした目でカミーユと双子を盗み見る。双子はほんのりと頬を染めているが、カミーユは最初この部屋に入ってきたときと全く変わらない無表情だ。
いつもの屋敷で、いつものディナーのお供として飲んでいれば、ほんの少しの量だけでうっとりしてしまう最高の赤ワイン。しかし今は儀式で、ワインはあくまでも儀式を速やかに進行するための飾りに過ぎない。それをカミーユも双子も心得ている。
それでも私は酔ってしまう。この場にいる喜びが、優越感が、アルコールを体に回りやすくする。中身のない幸福感に脳が満たされる。
この儀式は、私にとって一種の祝いなのだ。特別な姉妹たちと共に杯を酌み交わす許可が下ろされた、共に重要な儀式を行う仲間に選ばれたことへの祝い。この世のものとは思えないほど美しい彼女らの視界に、私がいる。それだけで私は自分の存在を確かに感じることができる。
このお飾りのワインも、私が飲めば祝宴の主役になる。
神が設計したかのように整っている姉の顔が、いつもよりずっと神々しく私の目に映っていた。私は溶けた頭で、その肌に自分の唇を押し当てることを想像する。彼女とのキスは一体どんな味がするのだろうか。
目を伏せていたカミーユが瞬きをした。今度は空中で何かを掴み上げるように手を動かす。闇の中を舞う掌は、私が今まで捕えてきたどの蝶よりも軽やかだ。




