RUN!RUN!RUN!
「────────────!!!!!!」
奇怪な死骸の化け物から口に相当する器官が見受けられないにも関わらず、つんざぬく様な悲鳴にも似た耳障りな絶叫が発せられ、城に響き渡る。
「「わああああああああ!!!!!」」
「わ~……」
「み、皆! 走ってください!」
ユイナの指示。シノハはうっかり落とした零型の脚を抱え上げユイナと共に走り、ウミカとオトギがそれに追走する。
触手型のゾンビは走るユイナたちを見逃さず窓を突き破り城に侵入し通路内を壊しながら五人を追う。
「来てる来てる来てる!」
「ア、アレです。私たちが襲われたのは!」
「アレが。……結界が壊され侵入を許しましたか。ふむ、結界への何らかの干渉の信号がありましたが、これだったのですね」
「知ってるんなら先言ってくんない!?」
「攻撃を知らせる術式自体は古代魔法とは違い、通常の魔法の為、劣化で常に誤反応しており判断が難しいので。……倉庫へはそこ下です」
シノハの抗議にも冷静に応対する零型。
「は、はい……ですが、向かう先は倉庫のままで良いんでしょうか!? こんな状況なら一先ず安全な場所へ……」
「いえ、結界が壊された以上、向かってくるのがあの魔物であればここに逃げ場はありません。倉庫でエネルギーさえ充填できれば、私もアレを倒せるほどの魔法も使えるようになりますので、この状況は何とかできるかと。……おそらく……きっと、多分。……あ階段降りて右側の手前から三番目の通路です」
「心配!」
ユイナの疑問に零型はどこか頼る気の出ない自負を見せ、シノハは額に汗を滲ませる。ウミカは調子が少し戻ったらしく後ろを警戒しながら零型へ呼びかける。
「というか知ってる風に言ってるけど……貴方アレが何なのか分かったの!?」
「はい、アレは死脈の龍。フルクウェールと称された魔物に一番近いかと」
「なんや強そうな名前やなぁ」
「ゾンビドラゴンってこと!?」
「厳密には違います。通常ドラゴンは……あドラゴンというものは」
「分かる! でっかい、強い、トカゲ!」
長くなりそうな説明を強引に断ち切るシノハ。
「はい、それに加え、コアと呼ばれる核を持ち、それにより莫大な魔力を身体に宿し、不浄な魔力の大気にその死骸が当てられると稀にアンデットドラゴンといった生物になりますが……アレは違います。文献に照らし合わせれば、アレはドラゴン以外の死骸も大量に残りかつ生きたコアが不浄な魔力に当てられ……と様々な要因を含めた特殊な環境でのみ現れる、コアが元のドラゴン以外の死骸以外も取り込み一種の死骸のキメラともいうべき魔物です」
「そういやよー見たら人間じゃなさそうなモンがある部分もあるなぁ」
四人は通路から広間に踊り出る。フルクウェールはなおも、通路を破壊しながらのたうち回りつつ追ってくる。
「だとしてこんな伸びるくらい大きさあるわけ!?」
広間の中、大きな窓から、先程いた地点の通路の壁面に張り付き這い上がり壊れた窓からずるずると入っていきこちらに伸びてくるフルクウェール。地上から直径数十メートルはある、死骸で出来たスライムのような外見。伸び這い上がりながら窓からだけではなく、張り付いた壁面からもユイナたちの方に伸び、にじり寄ってくる。その光景を一行は走りながら視界に入れる。
「アンデットは本能で基本生きている者を襲い、殺します。しかし、フルクウェールは特異な性質を持ち、襲い殺した生き物の死骸を自分の一部にし、他のアンデットまでも取り込んで見せたと文献にはあります。今まで相当の生物を取り込んだと推測できます。体躯を切り離して子機を使役するともありますが街に居たうろついていたゾンビは全てそれでしょう」
「あ! 街にずーっとなんか違和感感じてたけど生き物だよ! 一匹たりとも見てなかった!」
「確かに声も……あれほど荒廃しているのならむしろ繁殖していてもおかしくは!」
「確かに空飛んでたドラゴンぐらいしか見んかったなぁ」
「この街に居た魔物も何もフルクウェールが吸収したのでしょう」
何とか追いつかれずに距離を保ったまま走る一行。
「その体躯は腐った死骸で固められますが柔軟性があり、ああいう風に粘土のように可変可能でこんなところまで侵入できるという訳です。姿が見えなかったのも、地下の墓地へ身を隠していた為でしょうが皆さんの存在を認知し這い上がって来たわけですね。そこは階段を上がって奥へ」
「ゾンビドラゴンの、ふぅ、倒し方は!」
階段を上りながら、ユイナは軽く息を弾ませつつ、尋ねる。
「コアです。核を破壊すれば身体を魔力で保てず消えますが、莫大な魔力に浸された死骸はコアの中心に近いほど高い防御力を有し壊すのは容易ではありません」
「……もう! これなら、どう!」
ウミカは持っていた手りゅう弾のピンを引き、下の迫って来るフルクウェールに投げつける。時間差で爆弾は爆ぜ、爆発と共に死骸が粘液のように飛び散る。衝撃によりギィと音を鳴らし少し怯んだかに見えたが爆発で焼けた個所はすぐに他の死骸に覆われ、何事もなかったかのようにすぐにまた四人を追いなおす。
そして、魔物は新たな動きを起こす。その死骸の体躯からスライムのように溶けている死骸で作った小さな細い触手をいくつか生やしこちらへと伸ばしてくる。
「キモッ!」
「ッ!!」
思わず叫ぶシノハ。ウミカは階段を上がりつつサブマシンガンのボルトを引き、小さな触手に向けて放つ。短い間隔で連射しつつ伸ばされた触手をウミカは全て破壊する。流れ弾が本体の方にも着弾するが軽く表面が始める程度でその光景にウミカは苦虫をかみつぶしたような顔をする。
「やっぱ全然効かない感じっぽいよねぇ……」
冷や汗をたらすシノハ。ユイナとオトギも思わず眉を寄せる。
階段を上がり、走る勢いを上げる一行。奥歯を噛みしめるウミカ。
「どうするどうするの……!? 虎徹でもいけるかどうか……というかコア自体は弾でも壊せるの」
「金属程の堅さはありますが物理手段でも破壊は可能で、本体であるコアは皆さんに惹かれある程度近いはずです」
「せやかてゾンビドラゴンの何処にあるかも分らんとなぁ」
「厳密にはゾンビでもドラゴンでもありませんが……」
ぼやくオトギに浸透しつつあるゾンビドラゴンの名称に物申す零型。奥の今度は下へと続く階段を一行は降り、シノハは辺りを見回した。
「あわわ、だいぶさっき来たところ戻ってきてるけど、どーすんの!?」
「二人ほどが倉庫への通路を外れ囮になり、二手に分かれる案もあります。恐らく生者の気配を追い全体を分散させるので逃げやすくなるかと」
「でも結構危なくない、それ!」
「……」
上へ下へと移動はしつつも段々と近づいている地上。このまま地上へ行けばなおのこと、フルクウェールがこちらを追いやすくなると考え、ユイナは仲間を危険にさらすかどうかを逡巡するも答えはすぐには思い浮かばない。
「でも、そっちの方が倉庫行きやすくなるなら、ウチらが気張らんと……! せやろ、ウミちゃん。……ウミちゃん?」
「……私たちここで終わるのかしら」
「ウ、ウミカちゃん、頑張って!」
ウミカの再びの後ろ向きな発言にユイナは励まそうとするが、ウミカは必ず弱音を吐く。
「だってあんなの零型は倒せるだなんて言うけれど、本当に倒せるの」
「いえ、倒せるとは言ってません」
「こらこら……」
気持ちを汲まない零型の発言に呆れ顔を見せるシノハ。ウミカはますます暗い顔を見せる。
「やっぱり無理よぉ……。うぅ……せっかく戦いも終わってこれからってときにこんな世界に……」
「もー! しっかりしなって!」
その様子をしばらく黙って見ていたオトギ。やがて、いつもの穏やかな表情とは違う表情を引き締めた真っ直ぐな瞳で語り掛ける。
「……ウミちゃん。ホントにええの? ここで終わったら、ウミちゃんの大好きなミステリー小説の続きも見れなくなるで?」
「!」
オトギの言葉に俯きながら走っていたウミカはビクッと体を震わせる。
「『ローズの華麗な事件簿』やったっけ。確か、クライマックスで因縁の敵との最終決着やったやろ? それだけやないで。スイーツも二度と食べれんのよ? ケーキにパフェにお団子に……いつか喫茶店で優雅にスイーツ食べながら本読むのが憧れ言うとったろ?」
「……」
声に鳴らない言葉が漏れ、
「ここで諦めへんかったら、帰れる手段も見つかるかもしれん。けれどここで諦めたらホントに帰れへんよ? ウミちゃん」
「……! ……あーーー! もう! 分かったわよ! こうなったらやってるやるわよ!ゾンビでも!竜でもなんでも!」
オトギの説得により吹っ切れたのか、顔を上げ半ばやけくそ気味にウミカは啖呵を切る。
「なるようになれよ!!! ユイナ、囮は任せなさい!」
「……! ……分かりました、ウミカちゃん。気を付けて」
囮を買って出るウミカ。ユイナはそんなやけっぱちの覚悟を了承する。
「考えがあるの! ついてきてなさい、オトギー!」
「お~! 土壇場でのやけっぱち、それでこそウミちゃんや~」
吹っ切れたテンションで道を外れ、走るウミカ。そんな彼女を誉め言葉かどうか分からない評価を下しながらオトギが後を追っていく。




