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終末世界で旅をして  作者: 黒桐


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7/11

変わるもの、変わらぬもの

「えぇと、動く死体といえばいいんでしょうか」


「ふむ、アンデットの様なものでしょうか」


「あ、そうです、アンデット」


 シノハが尋ねる。


「そー! 死体がわさわさ動くやつ。いるこの世界?」


「はい、この世界では生物の死体に魔力が宿り、一定の条件を満たすとアンデット化する場合があります」


「へー……弱点は?」


「基本的には白の属性の魔法が有効です」


「私たちじゃそれは無理か……とにかくそいつらに追いかけられてさー。なんでかこの城には入ってこれなかったみたいだから助かったけど」


「入ってこれなかったのはこの城にある古代魔法の特別な結界の力故でしょう」


「へー。ま、とにかくそいつらがさ街にたくさん居たんだよ。もーうじゃうじゃ……」


 シノハはここに来る前の光景を思い出しながらげんなりする。


「街にたくさん……それは変ですね」


「……おかしい、ですか?」


 零型は何かを不審に思ったのか眉をひそめ、ユイナが聞き返す。


「はい、先ほど挙げた理由からこの土地では基本的に死体は火葬され、教会を通じて魔法により死体の魔力は浄化され、大抵は地下のアンデット化を押さえる術式が備わった大きな集合墓地で埋葬されます。壁もありますし、余所からやってくることも無い。そのため、本来そのように大量に出現する訳は無いはずなのですが……術式が朽ちたのでしょうか、もしくは術式の効力を越えるアンデットが……? 見た目は」


「大体、死にたてホヤホヤでそのまま腐ってる感じ」


「ふむ」


「あ、あとなんか合体して触手みたいにうねうねしながら襲い掛かって来た、がーって」


「はぁ……ホント気持ち悪かったわ、あれ」


 片手で器用にジェスチャーを交えながらシノハは説明する。そしてウミカは死んだ目で自分の身体を抱きしめながら呟く。


「アンデットは生者を襲う習性はありますが、合体……? ……」


 零型はそのまま考え込み、少しして口を開く。


「合体の件については分かりませんが。アンデット……皆さんの言うゾンビについては心当たりが。監視装置も生きてはおらず実際に確認は出来ない為聞き伝えでの憶測ですが」


「聞かせて下さい」


 話しを促すユイナ。零型は四人に一つの説を提唱する。


「博士たちが昔喋っていた記録の中にある内容ですが、とある国が治療目的としてある生きた術式を開発するという報告が上がっていたそうです」


「なんじゃそりゃ?」


「厳密に言えばそれは生命体と魔術を融合させたかのようなどっちつかずの、他の生命の細胞に寄生し、魔力を媒介にして増殖する自己複製の構造術式を生物に付与し劇的な身体能力の向上、魔力の増加を引き起こせるようになる予定だといった内容でした」


「ん~?」


 内容を咀嚼しようとして首を傾げるオトギ。


「それは当時でも机上の空論とも言うべきもので、どの国でも話題にもならなかったようですがしばらくしてある事例がその国で起こりました」


「……」


「事例、ですか?」


「白の魔法が効きにくいアンデットの様な新種の魔物が確認されたという事例でした。ソレはすぐ誤報だという事で取り消されたらしいのですが、博士たちは前述の報告からその実験がもしかしたら関係しているのではないのかといった噂話をされていました」


 零型の話に不穏な要素を感じ取るシノハ。


「もうゾンビ映画だったらフラグ立ちまくりの嫌な感じだけど……要はそれが国の人に感染してゾンビだらけになったかもってこと?」


「あくまで憶測です。考察の一つとも思っていただければ」


「んー。真相はまだ闇の中か……にしても作った人たち、噂話とかそんなしてたの?」


 城の中を進む一行、シノハの興味は尽きないのかころころと話題を変える。


「はい、気兼ねなく意見を出し合い、雑談を交えて話し合っていたかと」


「へーてっきりやってた実験、陰気な感じっていうか結構人の心無い冷徹にやってたイメージだったけど意外と明るいっぽい?」


「どんな方たちだったんでしょうね」


 予想外のイメージに興味が湧く三人。オトギが尋ねる。


「な~。皆どんな感じだったん?」


「様々です。性別や性格それ以外も。しかし、不和も起きることなく、博士を中心に纏まっており、私とも積極的にコミュニケーションを取っていました」


「いい人たちだったんですね。何だか安心しました」


「? 安心したなら何よりですが」


「博士が計画の中心というか、主導だったのですか?」


「はい、博士が発案であり主導で国の支援を受け、開発を行っていました」


 会話の最中、また、どこかで振動が起きているのかパラパラと埃が落ちてくる。が、気には留めずシノハは会話を告げる。


「……ふーん、博士はどういう人だったの?」


「良く分からない人でした」


「なんじゃそりゃ」


「適当に見えて真面目なところは真面目で、雰囲気を和ませるが上手な、聡明で、目を離せばすぐにどこかに行ってしまうような、少し不思議な方で。旅が好きな方でよく訪れた地方のことや旅中の話をしていました」


「へー」


「そして、この街を愛していました。……博士は私にもいつかこの街を見てみてほしいとおっしゃっていました。皆さんのおかげで博士のオーダーを達成できたこと感謝します」


「どういたしましてー。で、どうだった? 街」


「……荒廃してると感じました」


「いや、そうだろうけど」


 芸人のように手で突っ込みを入れるシノハ。


「博士の言っていた街の情景も百年も経てばあのように変わってしまうのだと」


「「「……」」」


「……誤解のないように言っておきますが私は変化を憂いたわけではありません。そういった感情があったことは否定しませんが、私は嬉しかったのです。

博士の話した、石畳の街並み、行きかう人々、翻る干された服に焼き立てのパンの香り。もう今は無いものですが、あの景色を見た瞬間、博士の話していた光景が私の中に映し出されたのです。壁が壊れていても、服が干されていなくても香りは無くとも、博士と共有した景色はあの街の中に確かにあったのだと。百年という時が経とうと街が残した足跡は確かに残っていた。……見れて、良かった」


「……あったんじゃん、やりたいこと」


「? これは私の思惟とは……」


「あーもう、分かったってー」


 零型の言い分を気怠そうに断ち切るシノハ、そんな中。


 ズシン、


 と振動が起きた。そして、またズシンとそれは何度も起き、城はこまめに揺れ、地響きのような振動は強くなっていく。それは今までよりも明確に大きく。


「もー何んじゃこの音……」


 四人は揺れる通路の中、周りを見渡し。

 瞬間、ガラスをたたき割ったような何かの破壊音がけたたましい程に城に響く。


「……!? 皆さん、警戒を」


「なになに!?」


「何の音やろ」


「……?」


 四人はそれぞれ警戒しながら周りを見渡す。そして、窓から差し込んでいた光が途絶え、少し通路が薄暗くなる。


「んー?」


 そして、窓の方を見る四人。視覚外の窓の下からからゆっくりやってくるそれと目が合う。

 目が合う、といってもそれは比喩の様なものでそれに目は無く。

 あるとすれば、ただ腐り落ちた中に覗く、残る目の残骸で。土気色とも言えない濁った色。醜悪な、大量の人の死体を粘土の様に巨大な一本の触手のように固めた、ぬるりと這い上がって来たそれが窓の全面に写る。それは先程、街でユイナたちを襲ったモノにそっくりで。現われたそれは一行を覗き込むかのように近づき。


「「ギャーーーーーーーーーーッ!!!」」


 その光景に思わず、シノハとウミカはお互いの両手を取り合いながら悲鳴を城中に響かせた。

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