ウーバーゴーレム
動けない零型の為、ユイナたちは零型の案内で部屋を去り倉庫へと向かっていた。零型の両肩をユイナが、足の部分をシノハが持ち運びながら五人は移動する。
「通路曲がりますね、シノハちゃん」
「おけー。ふぅ、一応運べる重さで助かった……」
零型の重さは明らかに普通の少女の重さでは無かったがユイナたちが持ち運べない程の重さではなく。
「ほぅら、そろそろ元気出しぃ? ウミちゃん」
「うぅ……」
運ばれる零型の後ろでは落ち込むウミカをオトギが励ましており、そんなウミカを見かねてシノハが持ち運びながら振り向く。
「も~いい加減、しゃんとしなってー」
「はぁ……だって元居た世界とは別の世界って。どうやって生きていけばいいの……帰れないの私たち?」
「そ、そんなこと! 案外あっさり帰るすべもありかもしれませんよウミカちゃん!」
「でもこーいうのって大体いろんな理屈で戻るの難しかったりするからなー」
「シノハちゃん……」
励まそうと楽観的な案をユイナは提唱するがシノハがそれを阻む。オトギが尋ねる。
「で、実際どうなん? 零型ちゃん的には」
「現状では絶望的ですね」
「……!」
二人に運ばれながら零型が無慈悲に言い放った事実にウミカはよろめき、そこをすかさずオトギが支える。
「おっと~。まぁどうにかなるやろ~」
「あわわウミカちゃん……」
「あ、そう言えば転移装置ってやつで私たちここに連れてこられたんしょ? それじゃ帰れないの?」
シノハは運ばれている零型の顔を覗き込みながら尋ねる。
「不可能です。転移装置はあくまで『高次元へ干渉し、世界を繋ぎ、別の世界の情報量の多い物体をこちら側へ引っ張ってくる』という役割のみで開発された故。物質ではないものなら、世界をこじ開けた余波でまだ行き交いは出来るでしょうが、現段階では」
「片道切符で来ちゃったわけかぁ~。はぁ~悪いモンスターとか倒してチヤホヤされたかったな~」
「こんな時に何言ってんのよ……皆のほほんとしちゃって……うぅ」
絶望のどん底でも話を聞き逃さずツッコむウミカだが、その覇気は絶望の最中の為、まるで感じられない。
やり取りを重ねつつ零型の指示で進んでいく四人。歩いているとどこかで何かが動いたのか、そんな微かな地面の揺れを四人は感じる。
「今、何か揺れんかった~?」
「……地震でしょうか」
「っぽいよねー」
気になるような揺れでもなかった為、そこまで気には留めず一行は倉庫へ向かう。城の外側を移動している為、通路の窓から城下街が見える。何気なしにユイナは外の景色を眺める。
「……綺麗ですね」
「ホント。はぁーこんな状況じゃなかったら観光とかしたかったな。っていうかほんとだいぶ高いとこまで来たよね」
「百メートルは超えているでしょうか……」
「ゾンビこっからじゃ見えないな……っていうか街の城壁の上になんかずら~って並んでるけど……零型、あれ何か分かる?」
「ずら~ですか……」
シノハの抽象的な質問に零型は歯切れを悪くする。
「あ、良かったら見せよっか? ユイナー」
「はい、分かりましたシノハちゃん。せーの!」
ユイナは肩を持ち上げ、シノハは足を支え、窓の外の景色が見えるように零型を横に傾ける。
「どうよ!」
「これが……」
そう零型は呟くと静かに目を見開き、景色を見ながら沈黙する。
「どしたの? アレなんだけど」
そう言い、シノハはアイコンタクトで遠くの十数メートルほどの白から伸びている高さの城壁、その上に端から端まで等間隔に置かれている何かを示す。
「……いえ、ふむ。アレは線路かと」
「ほえー、線路」
「はい、物資の輸送の際、城壁を利用しその上でトロッコで輸送していたと記録にあります。もう、あまり使われてはいなかったようですが」
「記録……そういえばここに来る前それらしきものを城の内部で見かけたような」
「あーあれか!」「あれやな~」「……」
四人はこの城を探索する途中にあった大きな空間に、地面に埋め込まれた二つの石の間に何か金属で出来た板の様な物が等間隔に空間の端から端まで敷き詰められ、その両端の閉められた扉の向こうの先までありそうな何かの設備らしきモノ。
そして、何かの装置が取り付けられた鋼鉄らしき素材で出来た何かの装置が取り付けられている台にその後ろにいくつかの鋼鉄の長方形の箱の形をした、どれも人が二人乗れるかどうかの大きさをしたモノが置かれてたことを思い出す。
「トロッコだったんですね……でも車輪もないのに」
「魔法で荷物ごと浮いて運びます。今でもボタンを押せば起動して各地を止まりながら走ると思われるので乗られてみては。持ち上げてくださり、ありがとうございました。もう大丈夫です」
二人は零型を抱え直し、四人はまた歩き始める。
「どこまで行くの? トロッコ」
「他にも線路はいくつかありますが、どれも城を経由地点にして外壁を一周したはずです」
「へー」
興味が湧いただけなのか尋ねた質問の答えに対し気の抜けた返事をするシノハ。
「なぁ、気になったんやけど。もしかして零型ちゃん初めて見たん、線路?」
「……私も気になっていました。零型さんの話し方はどうも何というか、他人事というか……見たことは無かったんですか?」
「はい、ありませんでした」
オトギとユイナの疑問への零型の回答に三人は目を丸くする。
「マジー? こんな城の中に居たのに?」
「私の存在は国家間を揺るがしかねない問題につき、国によりその全てが秘匿されていました。勿論、私もあの実験室から出る事や城外へ魔力回路を繋げることなど、存在が明るみに出かねない行為は全て禁じられていたので。私が行えたのは稼働状態の一日の内の小時間の会話のみで、持つ主な情報源はあらかじめ入力されていた知識と博士たちとの対話といったものに限られます」
「それは、つまり、零型さんは自分が居た頃の街も知らないということですか……」
「そらぁ、大変やったなぁ」
「大変、ですか」
「せやねぇ。少なくとも零型ちゃんがウチやったらそう思うよぉ? 武器ちゃんも愛でれへんし」
「……零型さんはそれで良かったんですか?」
「それが命令でしたので。私の製造目的は人の役に立つことでした。本来の用途とは違ったかもしれませんがあの研究の日々が役に立ったというならそれで問題は無いかと」
ユイナへ、事も無げにそれが当然というように零型は自分の過去をそう結論づける。
「でも、零型さん自身が何か、やりたい、してみたいと思った瞬間は無かったんですか?」
「───。私にはそれがどのような感情か測りかねます。例え、そのような感情があったとしても、人の為になるように、それが私の使命であり存在理由。その思考は切り捨てるべき無駄な考えです」
零型の意見に納得出来ないとばかりにシノハは眉を八の字にする。
「えー? 零型作った博士たちが言ってたの? そんな何もかんも自分を犠牲にしろってさぁ」
「『こんな時代でも人々の希望に成れ、寄り添え合えるそんなゴーレムになって欲しい』と彼らは言っていました。ならば私の存在を賭してそれを実行するまででしょう」
「んー。そんな意味で言ったわけじゃないかもよ、博士たち」
「……?」
シノハの発言に疑問を浮かべる零型。そして、いきなり何かを思い出したかのようにシノハは大声を上げる。
「あ! っていうかじゃあさ、さっき見たよね街。皆が居なくなった理由も知らないってこと? それ私一番聞きたかったんだけど!」
足を持ちながら零型の顔の方へ前のめりになるシノハ。
「はい、改めて状況は把握しました。が、その理由については私にも分かりません」
「そっかー」
項垂れるシノハから目線を落とし、ユイナが零型の顔を覗き込み助け舟を出す。
「じゃあ博士たちは何か……それに繋がる様な話を覚えていたりは」
「基本は計画についての内容しか話していませんでいた。王国があまり良い状況では無いという内容の世間話は記録していますが子細については何も」
「……まぁ、今の私たちにはそこまで重要な情報では無いでしょうし、後でフィールドワークも兼ねて調査でもしましょう」
ユイナの話の結論から入れ替わる様にオトギが零型に尋ねる。
「それじゃあゾンビについても何も知らん?」
「あ、そうだよゾンビ!」
「あわ、そういえばむしろ真っ先に聞くべき問題でした……」
「先程もおっしゃっていましたがゾンビ? ですか」
聞きなれない言葉だったのか零型は眉を八の字にして怪訝な様子。
「? あー、この世界じゃゾンビは伝わんないかー。っていうか、何で言葉普通に通じてんのさ私たち」
「この世界に来る際は、亜世界転移装置により魂に言語による意思疎通を可能にする為の翻訳の術式を付与されるはずですのでその影響かと」
「何それ怖い!」
知らずのうちに四人は魂に手を加えられていたらしく、シノハはその衝撃の新事実に慄く。
「な、なるほど……」
「便利やな~」
「ある程度は伝わりますが、複雑な意味だったりその世界には無い概念などは翻訳は出来ません、参考までに。……それでゾンビとは」
補足の説明をするとゾンビというワードが気になるらしい零型はユイナの顔を見上げ、食い気味に尋ねた。




