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第五話

 動けない零型の為、ユイナたちは零型の案内で部屋を去り倉庫へと向かっていた。

 零型の上部、つまりは両肩をユイナが、下部、足の部分をシノハが持ち運びながら四人と一機は移動する。


「通路曲がりますね、シノハちゃん」


「おけー。ふぅ、一応運べる重さで助かった……」


「ほぅら、そろそろ元気出しぃ? ウミちゃん」


「うぅ……」


 運ばれる零型の後ろでは落ち込むウミカをオトギが励ましており、そんなウミカを見かねてシノハが持ち運びながら振り向く。


「も~いい加減、しゃんとしなってー」


「はぁ……だって元居た世界とは別の世界って。どうやって生きていけばいいの……帰れないの私たち?」


「そ、そんなこと! 案外あっさり帰るすべもありかもしれませんよウミカちゃん!」


「でもこーいうのって大体いろんな理屈で戻るの難しかったりするからなー」


「シノハちゃん……」


 励まそうと楽観的提案をユイナは提唱するがシノハがそれを阻む。オトギが尋ねる。


「で、実際どうなん? 零型ちゃん的には」


「現状では絶望的ですね」


「……!」


 二人に運ばれながら零型が無慈悲に言い放った事実にウミカはよろめき、そこをすかさずオトギが支える。


「おっと~。まぁどうにかなるやろ~」


「あわわウミカちゃん……」


「あ、そう言えば転移装置ってやつで私たちここに連れてこられたんしょ? それじゃ帰れないの?」


 シノハは運ばれている零型の顔を覗き込みながら尋ねる。


「不可能です。転移装置はあくまで『高次元へ干渉し、世界を繋ぎ、別の世界の情報量の多い物体をこちら側へ引っ張ってくる』という役割のみで開発された故。物質ではないものなら、世界をこじ開けた余波でまだ行き交いは出来るでしょうが、現段階では」


「片道切符で来ちゃったわけかぁ~。はぁ~悪いモンスターとか倒してチヤホヤされたかったな~」


「こんな時に何言ってんのよ……皆のほほんとしちゃって……うぅ」


 絶望のどん底でも話を聞き逃さずツッコむウミカだが、その覇気は絶望の最中の為、まるで感じられない。

 やり取りを重ねつつ零型の指示で進んでいく四人。そうして曲がった先の通路は眼下の街が通路の窓から良く見える様になっていった。そうして、歩いているとどこかで何かが動いた様なそんな微かな地面の揺れを四人は感じる。


「今、何か揺れんかった~?」


「……地震でしょうか」


「っぽいよねー」


 気になるような揺れでもなかった為、そこまで気には留めず一行は倉庫へ向かう。何気なしにユイナは外の景色を眺める。


「……綺麗ですね」


「ホントにね。はぁ~こんな状況じゃなかったら観光とかしたかったな~。ゾンビこっからじゃ見えないな……っていうか街の城壁の上になんかずら~って並んでるけど……零型、あれ何か分かる?」


「ずら~ですか……」


 シノハの抽象的な質問に零型は歯切れを悪くする。


「あ、良かったら見せよっか? ユイナー」


「はい、分かりましたシノハちゃん。せーの!」


 ユイナは上部を上げ、シノハは下部を下げながら窓の外の景色が見えるように零型を横に傾ける。


「どうよ!」


「これが……」


 そう零型は呟くと静かに目を見開き、景色を見ながら沈黙する。


「どしたの? アレなんだけど」


 そう言い、シノハはアイコンタクトで遠くの城壁までその上に端から端まで等間隔に置かれている何かを示す。


「……いえ、ふむ。アレは線路かと」


「ほえー、線路」


「はい、物資の輸送の際、城壁を利用しその上でトロッコで輸送していたと記録にあります。もう、あまり使われてはいなかったようですが」


「記録……そういえばここに来る前それらしきものを城の内部で見かけたような」


「あーあれか!」「あれやな~」「……」


 四人はこの城を探索する途中にあった大きな空間に、地面に埋め込まれ、二つ並んでそれが列の様に等間隔に置かれた宝石の間に何か金属で出来た板の様な物が宝石よりさらに短い等間隔に空間の端から端まで敷き詰められ、その両端の閉められた扉の向こうの先までありそうな何かの設備と思わしきモノ。

 その上に置かれた、何かの装置が取り付けられた鋼鉄で出来ているような台に何かの装置が取り付けられているモノにその後ろにいくつかの鋼鉄の長方形の箱の形をした、どれも人が二人乗れるかどうかの大きさをしたモノが置かれてたことを思い出す。


「トロッコだったんですね……でも車輪もないのに」


「魔法で荷物ごと浮いて運びます。今でもボタンを押せば起動して各地を止まりながら走ると思われるので乗られてみては。持ち上げてくださり、ありがとうございました。もう大丈夫です」


 二人は零型を抱え直し、四人はまた歩き始める。


「どこまで行くの? トロッコ」


「他にも線路はいくつかありますが、どれも城を経由地点にして外壁を一周したはずです」


「へー」


 何となく興味が湧いただけなのか尋ねた質問の答えに対し気の抜けた返事をするシノハ。


「なぁ、気になったんやけど。もしかして零型ちゃん初めて見たん、線路?」


「……私も気になっていました。零型さんの話し方はどうも何というか、他人事というか……見たことは無かったんですか?」


「はい、ありませんでした」


 オトギとユイナの疑問への零型の回答に三人は目を丸くする。


「マジー? こんな城の中に居たのに?」


「私の存在は国家間を揺るがしかねない問題につき、国によりその全てが秘匿されていました。勿論、私もあの実験室から出る事や城外へ魔力回路を繋げることなど、存在が明るみに出かねない行為は全て禁じられていたので。私が行えたのは稼働状態の一日の内の小時間の会話のみで、持つ主な情報源はあらかじめ入力されていた知識と博士たちとの対話といったものに限られます」


「それは、つまり、零型さんは自分が居た頃の街も知らないということですか……」


「そらぁ、大変やったなぁ」


 移動しながら零型の頭をオトギは撫でる。


「大変、ですか」


「せやねぇ。少なくとも零型ちゃんがウチやったらそう思うよぉ? だって自分がやりたいことほとんど出来ひんもん。虎徹ちゃんだけじゃなくて武器もぜーんぶ使えへんし、愛でれへんやろ?」


「いや、そこかい」


 シノハが片手でピシッとツッコミを入れる。


「んふふ、もちろん皆といっつもおれんことも嫌やで?」


「私もそれは嫌ですね……零型さんはそれで良かったんですか?」


「それが命令でしたので。私の製造目的は人の役に立つことでした。本来の用途とは違ったかもしれませんがあの研究の日々が役に立ったというならそれで問題は無いかと」


 事も無げにそれが当然というように零型は自分の過去をそう結論づける。


「でも、零型さん自身が何か、やりたい、してみたいと思った瞬間は無かったんですか?」


「───。私にはそれがどのような感情か測りかねます。……分かりません。例え、そのような感情があったとしても、人の為になるように、それが私の使命であり存在理由。その思考は切り捨てるべき無駄な考えです」


 零型の意見に納得出来ないとばかりにシノハは眉を八の字にする。


「えー? 零型作った博士たちが言ってたの? そんな何もかんも自分を犠牲にしろってさぁ」


「『こんな時代でも人々の希望に成れる、人間に寄り添える、そんなゴーレムになって欲しい』と彼らは言っていました。ならば私の存在を賭してそれを実行するまででしょう」


「……んー。そんな意味で言ったわけじゃないんじゃない? 博士たち」


「……?」


 シノハの発言に疑問を浮かべる零型。そして、いきなり何かを思い出したかのようにシノハは大声を上げる。


「あ! っていうかじゃあさ、さっき見たよね街。皆が居なくなった理由も知らないってこと? それ私一番聞きたかったんだけど!」


 足を持ちながら零型の顔の方へ前のめりになるシノハ。


「はい、改めて状況は把握しました。が、その理由については私にも分かりません」


「そっかー」


 騒がしく項垂れるシノハから目線を落とし、ユイナが零型の顔を覗き込み助け舟を出す。


「じゃあ博士たちは何か……それに繋がる様な話を覚えていたりは」


「基本は計画についての内容しか話していませんでいた。王国があまり良い状況では無いという内容の世間話は記録していますが子細については何も」


「……まぁ、今の私たちにはそこまで重要な情報では無いでしょうし、後でフィールドワークも兼ねて調査でもしましょう」


 ユイナの話の結論から入れ替わる様にオトギが零型に尋ねる。


「それじゃあゾンビについても何も知らん?」


「あ、そうだよゾンビ!」


「あわ、そういえばむしろ真っ先に聞くべき問題でした……」


「先程もおっしゃっていましたがゾンビ? ですか」


 聞きなれない言葉だったのか零型は眉を八の字にして怪訝な様子。


「? あー、この世界じゃゾンビは伝わんないかー。っていうか、何で言葉普通に通じてんのさ私たち」


「この世界に来る際は、亜世界転移装置により魂に言語による意思疎通を可能にする為の翻訳の術式を付与されるはずですのでその影響かと」


「何それ怖い!」


 知らずのうちに四人は魂に手を加えられていたらしく、シノハはその衝撃の新事実に慄く。


「な、なるほど……」


「便利やな~」


「ある程度は伝わりますが、複雑な意味だったりその世界には無い概念などは翻訳は出来ません、参考までに。……それでゾンビとは」


 補足の説明をするとゾンビというワードが気になるらしい零型はユイナの顔を見上げ、食い気味に尋ねる。


「えぇと、動く死体といえばいいんでしょうか」


「ふむ、アンデットの様なものでしょうか」


「あ、そうです、アンデット」


 伝わった嬉しさから破願するユイナ、シノハが尋ねる。


「そー! 死体がわさわさ動くやつ。いるこの世界?」


「はい、この世界では生物の死体に魔力が宿り、一定の条件を満たすとアンデット化する場合があります」


「へー……弱点は?」


「基本的には白の属性の魔法が有効です」


「私たちじゃそれは無理か……とにかくそいつらに追いかけられてさー。なんでかこの城には入ってこれなかったみたいだから助かったけど」


「入ってこれなかったのはこの城にある古代魔法の特別な結界の力故でしょう」


「へー。ま、とにかくそいつらがさ街にたくさん居たんだよ。もーうじゃうじゃ……」


 シノハはここに来る前の光景を思い出しながらげんなりする。


「街にたくさん……それは変ですね」


「……おかしい、ですか?」


 零型は何かを不審に思ったのか眉をひそめ、ユイナが聞き返す。


「はい、先ほど挙げた理由からこの土地では基本的に死体は火葬され、教会を通じて魔法により死体の魔力は浄化され、大抵は地下のアンデット化を押さえる術式が備わった大きな集合墓地で埋葬されます。壁もありますし、余所からやってくることも無い。そのため、本来そのように大量に出現する訳は無いはずなのですが……術式が朽ちたのでしょうか、もしくは術式の効力を越えるアンデットが……? 見た目は」


「大体、死にたてホヤホヤでそのまま腐ってる感じ」


「ふむ」


「あ、あとなんか合体して触手みたいにうねうねしながら襲い掛かって来た、がーって」


「はぁ……ホント気持ち悪かったわ、あれ」


 片手で器用にジェスチャーを交えながらシノハは説明する。そしてウミカは死んだ目で自分の身体を抱きしめながら呟く。


「アンデットは生者を襲う習性はありますが、合体……? ……」


 零型はそのまま考え込み、少しして口を開く。


「合体の件については分かりませんが。アンデット……皆さんの言うゾンビについては心当たりが。監視装置も生きてはおらず実際に確認は出来ない為聞き伝えでの憶測ですが」


「聞かせて下さい」


 話しを促すユイナ。零型は四人に一つの説を提唱する。


「博士たちが昔喋っていた記録の中にある内容ですが、とある国が治療目的としてある生きた術式を開発するという報告が上がっていたそうです」


「なんじゃそりゃ?」


「厳密に言えばそれは生命体と魔術を融合させたかのようなどっちつかずの、他の生命の細胞に寄生し、魔力を媒介にして増殖する自己複製の構造術式を生物に付与し劇的な身体能力の向上、魔力の増加を引き起こせるようになる予定だといった内容でした」


「ん~?」


 内容を咀嚼しようとして首を傾げるオトギ。


「それは当時でも机上の空論とも言うべきもので、どの国でも話題にもならなかったようですがしばらくしてある事例がその国で起こりました」


「……」


「事例、ですか?」


「白の魔法が効きにくいアンデットの様な新種の魔物が確認されたという事例でした。ソレはすぐ誤報だという事で取り消されたらしいのですが、博士たちは前述の報告からその実験がもしかしたら関係してるんじゃないのかといった噂話をされていました」


 シノハは半眼で不穏な要素を感じ取る。


「もうゾンビ映画だったらフラグ立ちまくりの嫌な感じだけど……要はそれが国の人に感染してゾンビだらけになったかもってこと?」


「あくまで憶測です。考察の一つとも思っていただければ」


「んー。真相はまだ闇の中か……にしても作った人たち、噂話とかそんなしてたの?」


 城の中を進む一行、シノハは興味は尽きないとばかりに別の話題を投げかける。


「はい、気兼ねなく意見を出し合い、雑談を交えて話し合っていたかと」


「へーてっきりやってた実験、陰気な感じっていうか結構人の心無い冷徹にやってたイメージだったけど意外と明るいっぽい?」


「どんな方たちだったんでしょうね」


「な~。皆どんな感じだったん?」


 予想外のイメージに興味が湧く三人。気になるとばかりにオトギが尋ねる。


「様々です。性別や性格それ以外もしかし、不和が起きることなく皆さんよく笑顔でコミュニケーションを取りあっており、博士を中心に纏まっていました」


「やはり博士がその計画の中心というか、主導だったのですか?」


「はい、博士が発案であり主導で国の支援を受け、開発を行っていました」


 会話の最中、また、どこかで振動が起きているのかパラパラと埃が落ちてくる。が、気には留めずシノハは会話を告げる。


「……ふーん、博士はどういう人だったの?」


「良く分からない人でした」


「なんじゃそりゃ」


「適当に見えて真面目なところは真面目で、雰囲気を和ませるが上手な、聡明で、目を離せばすぐにどこかに行ってしまうような、少し不思議な方で。そして、旅が好きでよく旅の話をしており……この街を愛していました。……博士は私にもいつかこの街を見てみてほしいとおっしゃっていました。ずいぶん時間は経ちましたがソレは叶いました、皆さんには感謝しています」


「えへへ……っていうかあったんじゃん、やりたいこと」


 照れて頭を掻いたと思ったら口を尖らせるシノハ。


「? これは創造主による提案から発生する自立思考による好奇心の発生であり関係ないと思いますが……それに先程も言いましたがそのような思考は私には不要です」


 零型は理解できないといった様子で首を傾げる。


「……えーそういうもんじゃない?」


「えぇ、いい事が知れました。零型さんは博士さんと周りの方々のことが好きだったんですね」


「? 私は好意を明確にするような発言はしていませんでしたが……」


 好意と結論付けるユイナに零型は少し不満げな様子を浮かべる。


「えー? 言ってるようなものだったじゃん」


「言ってませんが」


 譲らない零型。

 そして、ズシン、と振動が起こる。それは今までよりも明確に近く。


「なに強情……っていうか何ーこの音……」


 シノハはしつこく鳴る振動に辟易して周りを見渡し。

 瞬間、ガラスをたたき割ったような何かの破壊音がけたたましい程に城に響く。


「……!?」


「なんかむっちゃうるさくパリンって言わなかった!?」


「……なんなの……」


「なんや、どっから鳴ったんやろ」


 四人はそれぞれ警戒しながら周りを見渡す。そして、窓から差し込んでいた光が途絶え、少し通路が薄暗くなる。


「んー?」


 そして、窓の方を見る四人。視覚外の窓の下からからゆっくりやってくるそれと目が合う。

 目が合う、といってもそれは比喩の様なものでそれに目は無く。

 あるとすれば、ただ腐り落ちた中に覗く、残る目の残骸で。土気色とも言えない醜悪な、大量の人の死体を粘土の様に巨大な一本の触手のように固めた、ぬるりと、這い上がって来たそれが窓の全面に写り、一行を覗き込むが如く現るそれ。


「「ギャーーーーーーーーーーッ!!!」」


 その光景に思わず、シノハとウミカはお互いの両手を取り合いながら悲鳴を城中に響かせた。

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