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第三話

「よいしょ!」


 少し時間が経ち、吐き気も収まった四人は協力して車を縦の状態に戻す。

 重い音と共に車体は少し跳ね、元の向きに。


「ふー、一仕事終わりー」


 シノハは石の敷き詰められた地面に寝転ぶ。


「……固い」


「でしょうね」


「……それにしても、ここは城の中庭でしょうか」


 ユイナは周囲を観察する。中庭は吹き抜けで、そこからでも傍の大きな城を見上げることが出来た。


「みたいやけど……不思議やなぁ……大して荒れ果てとらんし、噴水も動いとる。ほんま綺麗や、昨日まで人がおったみたい」


 城の中庭は石畳みの地面に積まれた石壁、石の装飾や石像の他に中央の木や芝生に花の植物。噴水がインテリアとして置かれていた何年も放置されていたはずにも関わらず植物は人の手が施されているかのように美しい形を保ち、不全を起こさずに未だに水を流し続けている噴水にどこも欠けてはいない庭の石造の建築。中庭はまだ人が居たはずの頃の概観を留めているよう。

 オトギは楽しそうにそんな中庭を観察する。


「遠目からでしたが城全体もあまり朽ちたり壊れたりといった様子も無さそうでした。何か街とは差があるのでしょうか?」


「ふふーん、やっぱ魔法の力っしょ」


「アンタそればっかね……」


 魔法の力と信じて疑わず何故かドヤ顔のシノハをウミカはいつもの半眼で見据える。そんな中、場の雰囲気を切り替えるべく、ユイナは咳ばらいをする。


「おほん、さて、これからどうしましょうか皆さん。私は城を少し調査したいと思っています。城の内部もそのままで、危険も無く、ゾンビが居ないことが確認できれば、拠点にはぴったりですし、万が一のバリケードといったものも構築しやすくなります」


「いいんじゃない? 確かにゾンビは城に入ろうとして何かに弾かれて入れてなかったし、ゾンビが居ないなら拠点としては万々歳よね。人間もこの調子じゃ居ないだろうし」


 ウミカは自慢の明るいウェーブの髪をくるくると指で巻き、城を見上げながら提案に賛成する。


「いいんじゃない? さんせー」


「異議なしや~」


「食料問題も気になるけれど、安全が大事だもの。まぁ、でもレトルトとか乾パンとか車に念のためで積まれてたわよね。一応」


「はい、サンドイッチもありますよ!」


「あぁ、そうね……。サンドイッチもあったわね」


 目をきらめかせサンドイッチの存在を強調するユイナに言われウミカは食料のラインナップにサンドイッチを付け足す。

 そしてユイナはピシッと指で城の方を指すと意気揚々と作戦を宣言する。


「それでは! 満場一致というわけで、只今を持ってチーム『キャロル』、城の調査を開……!」


「あ、ちょっと待って。そこの噴水の水。私たちが利用しても大丈夫か調査したいから、それが終わってからでもいい? 思い出したけど、一応持ってきてるの水質の調査キットとパソコン」


 ウミカは持って来たものを思い出し、車に置かれたリュックを取り出す。


「し……そ、そうなんですか。助かりますウミカちゃん。で、では、調べてからということで!」


 改めて宣言するユイナ。


「っていうか、そんなの持ってきたのー? ウミカ」


「近くの川とかでも遊ぶ予定だったでしょ? だから一応ね」


「流石やなぁ~ウミちゃん」


「いや、にしても慎重すぎるでしょ、それ」


「だいぶ運転の揺れであちこち叩きつけられてたけど、起動するかしら……うん、起動した、問題なさそうね」


「それじゃあ、ウチ終わるまで待っとるな~」


 パソコンを操作するウミカをシノハは呆れ顔で見つめ、オトギは中庭の観察を再開する。


「……うう……ビシッと決まりませんでした……」


 そんな三人を眺めながら、ユイナはがっくりと肩を落とした。



 ◇◇◇



 水に見たところ問題は無いと判明し、取り敢えず水を沸かして確保した四人。喉が渇いたと言ってシノハが我先に飲み実験体になった後、四人は城の調査へ乗り出した。

 城の内部は西洋風の外観と変わらず如何にも西洋風の城らしい様相を呈していた。

 華奢で派手な装飾に高い奥行、かつて城に住んでいた者の権力の強大さを思わせる壮大な設計は四人の目を奪う。それだけではなく、食堂らしきものや、書庫、謎の設備が置かれた場所。などといった場所を四人は巡っていく。

 しばらく進むと、四人は広い空間に出る。いくつもの巨大な柱が数十メートルは上の巨大な天井を支え、緻密な装飾や何かの絵、ステンドグラスの様なモノなどが空間にところ狭しと、散りばめられており、その奥には階段の先のスペースに玉座の様なものといった造りになっていた。

 前を進みながらシノハは造りに圧巻され、サブマシンガンを持ちつつ見上げながら呟いた。


「にしても……デカいなー」


「そうだけど、集中しなさい、何があるか分からないんだから」


「ぶー」


 ふてくされるシノハ。注意しつつ後ろのウミカは同じくサブマシンガンを持ちながら辺りを警戒している。


「でもこれは目奪われるわぁ。ここの国の王様は昔は凄い偉かったんやろなぁ」


「えぇ……ここまでの巨大な建築、相当な権力があったんでしょうね」


 嘆息するオトギとユイナ。


「見て、王様」


「こら、何か起きたらどうするの」


 いつの間にかシノハが奥の玉座に座り王様の様にふんぞり返りポーズを決めるが、すぐにウミカが咎める。


「実際何か起きている感じはしますか?」


 問いかけるユイナ。


「いーや、何も無し! よいしょ、っと! いやーそれにしても何も無いんじゃないかなーとは思ってたけど、まさかここまで何も無いと逆に不安になるよねー」


 シノハは玉座から降り、キョロキョロと顔を動かし周りを確認しながら三人に合流する。シンと静まり返る城内は生者の気配どころか生き物の気配さえも感じはしない。


「そうね……ゾンビもやっぱり居ないみたいで一安心だけれど……というか本当何だったの、途中のアレ」


 ほぅ、と息を吐くウミカだったが、道中の四人に向かってきたワームの様なソンビを思い出し苦い顔を浮かべる。


「ほんと、ゾンビってああいうのもあるんやなぁ。世界は知らないことばっかりや」


「とはいえ、映画とかでもあんなん見たこと無かったけど……うーん……特殊個体、みたいな?」


「もう一度アレと出くわした時のために作戦を練っておく必要はありますね……とはいえ」


 ユイナは大きな空間を見渡し、かつては栄華を極めて人も多く居たであろう光景を思い浮かべながらも指示を出す。


「……もう少し、調査してみましょうか。あそこの通路の方に行きましょう、シノハちゃん、先頭を」


「おーおっけー」


 シノハに続き、ウミカ、ユイナ、そして少し離れてオトギが進んでいく。


「本当に静かですね……」


 ユイナは今はもう誰一人としていない城にどこか寂しさを感じつつ歩みを進める。

 通路から広間を抜け、窓から光が降り注ぐ、部屋の並ぶ通路へ。シノハが一番にドアを蹴り上げ突入し一つ一つ調査していき先へ進んでいく。


「おりゃ! ……おっけー! クリア」


「クリア……本当に何もないわね……」


「そうですね、次へ行きましょう……シノハちゃん、そこの広間を次を右に。こんなに大きな城だと全ての調査は難しいので、取り敢えず、これで何も無かったら本格的な調査は後にしてまずは戻りましょう。その後、今後の方針を話し合います」


「おっけー」「了解や」「分かったわ」


 通路を進むと、先程とは打って変わり、続く通路の窓から部屋の内部が覗ける開放感のある雰囲気をしており部屋の中は本や謎の文字や陣が描かれた魔方陣にフラスコの様な実験器具があちこちに置かれていた。ただし、どこも散乱しており足の踏み場もないスペースも多々見られる。


「これは……」


「おおーザ、魔法の実験室って感じ! わくわくする~!」


 シノハは目を輝かせながら通路を進む。


「ここは凄い雑多ね……何か慌ててたのかしら……」


「それか、元々こんな感じってのもありそうやなぁ。ほら、()()の研究室もこんなんやったやろ?」


「ふふ、確かに」


 オトギの発言に思わず笑みを浮かべたユイナ。


「? なんだここ」


 そうして通路を進んだ後、シノハは首を傾げた。通路を進んだ先にあったのは突き当りの扉。ただし、今までの木造や金属で作られているようなシンプルな造りの扉や構造とは違い、スチームパンクという言葉が似合うような配管と歯車が絡み合うような造りになっていた。


「気を付けて、シノハちゃん。戻っても構いませんよ」


「おー……でもちょい近づいてみるわ……」


 ユイナに賛同しつつ冒険心を出し、ジリジリと近づくシノハ。すると、扉はプシューという音を立て、


「おわ!」


 ガコンと両側が奥に移動すると壁側にスライドし通路が出現した。シノハは驚きながらもサブマシンガンを構えて通路の先へ銃口を合わせている。

 通路の先も先程の部屋と同じようなものになっているらしく、散乱した紙や実験器具が見える。


「……どーするよ」


「うーん、先も同じみたいだし今は行かなくていいんじゃないかしら」


「いえ……行ってみましょう」


 先へ進むことに後ろ髪を引かれるシノハとウミカだが、ユイナは足を一歩踏み出す。


「……行くん?」


「えぇ……オトギちゃん。何だか予感がするんです。行った方がいいって。三人は一応待機していてください」


 それはユイナ自身でも不思議なほど、導かれているかのような衝動に動かされている確信。ユイナは目に光を灯しながら通路の中へ足を踏み入れる。


「じゃあ私も行く! こういう時のユイナの勘って結構当たるし」


「せやねぇ、私も行くわ」


 ユイナに続き通路へ進むシノハとオトギ。


「……あぁもうしょうがないわね」


 おっかなびっくりでウミカも通路へと足を踏み入れる。四人が入っても通路は特に何の反応も示さない。

 通路の壁は扉の様な配管と歯車などが入り乱れる通路の造りとなっており、さらに奥に進むと、


「これは……」


 そこは少し広い空間になっていた。先の見えない曇った窓から城の間を縫って光が差し込み、壁に入り乱れる、配管と歯車、机の上に山の様に置かれた何かの用紙と本に何かの文字が書かれたボードの様なものに実験器具と先程と同じ研究室にも似つつもどこか違う異様な雰囲気を感じさせる。


「!」


「ぐえっ」


「どうしたん? ユイちゃん……ってこれ」


 部屋へ入った直後、急にユイナは足を止めたため、シノハはユイナの背面にゴツンとぶつかる。オトギはそんな止まったユイナを不思議がり、止まって何かに驚いている様子の彼女の視線の先を見やり、目を丸くする。


「もー急に止まんないでよー……って、え」


「? どうしたの……」


 そんな二人の視線の先を見てシノハは驚き、遅れて部屋に入ったウミカは三人と同じ部屋の奥を見ると、その先の光景に目を向けた。

 通路から覗いていたのは部屋の右側の部分だったらしく、部屋に入れば、その部屋の左側の部分、つまりは奥の方も確認できた。そんな部屋の奥、その先で一際、異彩を放つのは、部屋へ入る前は見えなかったとあるモノ。構造の入り組んだ台座の様な造りにその表面に描かれた魔方陣らしき物、そして、その上にいる管が身体に刺さった、所々肌から機械の様な部分が見える、明らかに普通とは思えない姿形をした、中世の女性の服然とした簡易的な造りの服を着させられた十代半ば程の年頃の少女にも似た何かだった。

 その明らかに異質な何かに四人は言葉を奪われる。

 そして真っ先に驚きの声を上げるシノハ。


「な、なんじゃこりゃぁ!? ……これって、アンドロイド? いや、ファンタジーなら……オートマタ?」


「……いや、そこはどっちでもいいでしょ」


 驚きつつもシノハにツッコむウミカ。オトギは興味深そうに頬に手を当て観察する。


「お人形さんみたいや……そもそも、動くんやろか」


「……私が近づいてみます」


 ユイナはハンドガンを構えながら、ソレにゆっくりと近づく。

 身体から飛び出した管など明らかに人とは思えない部分があるにも関わらず、一本一本が確かに艶を持った銀色の長い髪に人間のような肌に端正な顔立ち。機械的な部分に目を瞑れば、本当に人間が座ってそこに眠っているかのように精巧な造りのソレ。

 近づけば近づく程、人間の様に見え機械の部分との歪さが際立ち、ユイナは冷や汗をたらす。

 台座に上がり、ゆっくりソレをユイナは観察する。


(ロボット? 綺麗……本当に眠ってるみたい……今にも目を覚ましそう)


 無意識にユイナは俯いたソレの顔にそっと触れる。


(柔らかい……まつ毛も長くて……どれだけ眠っていたんでしょう、こんな誰も居ないお城で、独りぼっちで……)


 そうユイナがソレに想いを寄せていると、プシュー、と台座が突然煙を上げた。


「「「「!」」」」


 突如起こった明らかに何かが起ころうとしている挙動に四人は驚く。

 ユイナは後ろに下がりハンドガンを構える。

 ヴヴヴヴンと台座が唸りを上げ周りの装置の様な物もピロピロと輝きだし───


『生体反応、確認。術式を想起。自立思考型ゴーレムの再起動を開始します』


 そんな音声が部屋中に鳴り響く。


「な、何これ!?」


 音声に困惑するウミカ。


「自立思考型ゴーレムとか言わなかった、今!?」


 驚きながらもワードを聞き逃さないシノハ。


「ていうか、なんで言葉分かったんやろ」


 そもそも響いた言葉が聞き取れたことに疑問を抱くオトギ。


 騒々しく鳴った装置はやがて静かになっていく、そして───

 ゆっくりと瞼を上げた、ソレ。それを見て同じく銃を向ける三人。


「ユイナ」


 ウミカに呼びかけられるユイナ。そして、ユイナは───

 片手で他のメンバーの銃の構えを制止させ、片手に持つハンドガンを下げ、ホルダーに入れる。

 ユイナは目を開くソレに対し一歩、足を踏み出す。

 ソレは目を開くとゆっくり顔を上げる。

 息を呑む四人。長い時間にも思えた一瞬の静寂。

 先程の装置の影響かパラパラと埃が窓の光に照らされながら落ちている。

 窓から差し込む陽光の中のユイナとソレ。


「……」


「……」


 こちらを見つめているかの様な動き。ユイナは胸に手を当て大きく息を吸い込み吐くと、

 穏やかな表情で微笑み、話しかけるのだった。


「初めまして、ロボットさん。私の名前はユイナ。貴方の名前は?」


 目をぱちくりと動かす、ソレは。


「……」


 何かを考えているのか、少し間を置いた後、ゆっくりと口を開き───


「どんな時でもはにかむ笑顔でこんにちは! ハッピーな心で貴方の気持ちを痺れさせてあげちゃう、私は何を隠そう自立思考型ゴーレム、零型! これからどうぞ、長ーい付き合い! どうか末永く、よろしくね?」


 機敏で流暢な動作で腕を動かしながら可愛く表情を作りながら、自己紹介? をアイドルさながらの愛嬌で繰り出し、最後にウインクを四人に送る。


「「「……」」」


 そんな、呆気に取られるユイナとシノハとウミカを尻目に、


「わ~」


 とパチパチとオトギは拍手を送った。

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