第一村人?と寂れた謎の街
「それにしてもガラガラですね……」
ゆっくりと街中の道路を運転しながらユイナは率直な感想を漏らした。
四人を乗せたジープが走る石造りの街中は閑散としており、人っ子一人いないという状況になっており、それに加えて。
「しかも、なんか近くで見たらあちこち壊れてるっていうか……朽ちてる?」
シノハは辺りをキョロキョロと見ながら呟く。建物は家屋などを中心に経年劣化と思しき倒壊の仕方をしており、鉢植えなどの雑貨用品などもいくつも壊れている。更に、生い茂った蔦があちこちの家を覆っている。
「もうとっくに放棄された街なのかしら……誰も住んでる気配が無いわね」
「こんな大きなとこ、放棄されたとしたら何でなんやろなぁ……ボロい言うても人が居なくなる前でも普通に住めるぐらいにはしっかりしとった感じやで」
「戦争が起きたような跡もありませんし、崩壊も自然的なものに見えますしね……」
同じくキョロキョロと見まわしながら不審な部分を気にする三人。オトギは街の店の店頭だったらしきものに注視する。
「……あれショーケースやろか、もうボロボロやなぁ」
「えぇ、確かに」
ガラスの中に落ちた元は服か何かであったであろう残骸。
「ガラスは普通に残ってるのね。汚れで少し見えにくいけど、私たちの時代と近い精度じゃない? 私たちの時代と照らし合わせたら、ガラスの窓もこう、あっても目玉みたいなのがついてるガラスのはずだけれど……」
そして、シノハはウミカの疑問に確信を持って答える。
「そりゃあやっぱ魔法の力っしょ!」
「また適当な……。……ほんと変なとこ、まるで揃って夜逃げでもしたみたい……」
四人は疑問を感じながらも街の中をジープで進んでいく。主要な大通りをゆっくりと少しの間進むも、やはりどこにも人の影は見当たらない。道路は城に繋がっているらしく、どんどんと城に近づいていく。ウミカは付近を不安げに見回す。
「うぅ、ほんと不気味だわ。装備も支給のグロックのハンドガン四丁にMPのサブマシンガン二丁、オトギの虎徹、それと少しの手りゅう弾にフラッシュバンだけ……弾もそこそこで頼りないし」
「まぁそこら辺は節約で……って誰かいませんか? あそこ」
運転中、ユイナは人らしきものを見つけたらしく手で指し示す。右斜め前方の暗い小さな路地で動く人影。路地の先は光は届いておらず暗く先は見えない。
ユイナはアクセルを踏むのを止め車を止める。
「なんだ! 誰かいるじゃーん! おーい! ナイストゥーミーチュー! 言葉通じるー?」
「あわわ、待ってくださいシノハ。不用意に近づいては……」
車から降り勢いよく元気に人影に向かって走り、話しかけるシノハ。それをユイナは慌てて車から飛び降り、止めようとする。
そんなシノハに反応したのか人影は速度を上げこちらに近づいてきて───
「ボンジュール! ニーハオ! こんにち……は……」
光にその姿を晒す。人影は簡潔に言えば人の姿をしてはいなかった。厳密には人の姿の様ではあるがソレはどうも生きている様子には見えなかった。服はほとんど破れており、肌は変色して大半が腐り落ち、体の部位は所々削れ、よく耳を澄ますと気持ちの悪い呻き声の様なものを上げている。それはまさに動く死体ともいうべき何かで───
「GRRRRRRR!!!」
「ギャーーーーーーーーーーッ!!!」
急に速度を上げシノハへと死体は襲い掛かろうとして、
タン、と銃声音がシノハの悲鳴を遮る。
「!」
死体の左脚の膝ともいうべき部分が消し飛び、カランという薬莢の落ちる音。肉片が飛び散り、死体はバランスを崩し勢いよく倒れる。
「シノハちゃん! 乗って!」
刹那の一瞬で射撃による破壊を決めたユイナは硝煙の吹き出るハンドガンを構えながらシノハに車に戻る様に促す。
「りょ、りょーかい!」
シノハが一目散に車に逃げ込むと同時にハンドガンを仕舞い、ユイナも車へ飛び乗る。
「あ、あれって!」
「取り敢えず、ここから離脱します!」
驚くシノハ、急いでユイナは車の方向転換をしようとするが、
「ま、待って! 後ろ!」
「え?」
呼び止め、後方を指差すウミカ。指の指し示す通り三人が後ろを見ると、そこには先程と同じような動く死体が後ろの道からいくつもこちらへ向かってのそのそと向かって来ていた。
「あ、あわわ」
「ど、ど~なってるん?」
「ど、どうするの、ユイナ!」
「! ……このまま進みます!」
ウミカに問われ真っ直ぐ進むことを宣言するユイナ。アクセルを押し込み、車を勢いよく発進させる。進路は巨大な城の方角へ、動く死体を見送り、車は速度を上げていく。
「こ、これってヤバイ状況!?」
「っていうかここらになんかさっきのやつ集まってきてない!?」
あっという間に過ぎ去っていく街並み、だが、その街並みをよくよく見ると、先程の様な動く死体がこちらへ向かって来ているのが分る。
「あ、あれって、ゾンビじゃん! 間違いないよ! アレ絶対ゾンビだって!」
冷や汗をたらしながら通り過ぎる動く死体を指差していくシノハ。
「そ、それぐらい私にも分かるわよ……っていうかゾンビってなんで」
「この街の住人の人が成ったんだよ! 間違いないよ! 別に魔法と剣の世界じゃそういうモンスターだっているし! 理由は分かんないけど皆死んでソンビになったんだよ!」
「ま、まだここが異世界だって断定できたわけじゃ……」
「……な~」
「な、何よ、オトギ」
慌てふためくシノハとウミカ。それを遮るようにオトギはシノハの服を引く。
「ウチはそういうのよー分からんけど……アレもゾンビなん?」
「「え?」」
後ろを見ていたオトギによって再び指差される後方、ゴクリと、生唾を飲み込みながら再び二人は後ろを見る。そこには通路の角の先からゾンビがまるでミンチのように混ざり合い、引っ付き、まるでそういう一種のワームかのようにゾンビで出来た一本の触手ともいうべきその終端の見えない何かがこちらに向かって蠢きながら向かってくる光景が見えた。
「「ギャーーーーーーーーーーッ!!!」」
「!」
叫ぶ二人、ユイナもバックミラーでその光景を見ながら歯噛みする。体高は四、五メートルほどの大きさを持つゾンビの煮凝りとも言うべき見た目の触手。それは着実にのたうち回りつつユイナたちへ向かってくる。
「オトギちゃん! お願いします!」
「! おおきに、任せとき~」
ユイナの命令、内容を察したオトギはいつも通りのゆるい返答を返しつつも、それとは正反対の機敏な動きで持っていた長物の包まれた布を解く。中から現れたそれは遠距離を攻撃することを目的とした狙撃用の銃、即ちスナイパーライフルとも言われる布が巻きつけられたデネルNTW───
「やるで~虎徹ちゃん」
弾を瞬時に装填し懐からイヤーマフを着けると車の上で器用に発射体制に入るオトギ。シノハは持ってきたリュックからユイナに無造作に一つだけイヤーマフを着けると耳を塞ぎ、ウミカも耳を塞ぐ。
僅かな静寂の後、オトギによって引かれる引き金。それにより銃に装填された弾は爆音と共に敵に向かって発射される。反動で軋む車体。舞うオトギの切り揃えれらた長い黒髪。弾は真っ直ぐゾンビの塊に向かって飛んでいき、その前面を容赦なく木っ端みじんに消し飛ばす。
大きく前面が削がれたゾンビの塊、進行するスピードもガクンと落ちる。その光景にウミカとシノハは顔を合わせる。
「「やった!」」
イヤーマフを外しながら親指を立ててグーとハンドサインを作るオトギ。シノハはユイナのイヤーマフを外しながら結果を伝える。
「当たった! 動き遅くなってる!」
「その様ですね! ……?」
ユイナは正面へと意識を戻し、疑問を持つ。目と鼻の先程に近づいた城。近づいたことでより実感するその見上げるのにも苦労しそうなほど、異様な大きさの城。その周囲はぐるりと舗道された地面から下へと降る階段へと繋がりその中心に城があった。何より、その城は敷地ごと朽ちてる様子の見えない美しい概観で。その敷地を横切ろうとして死体の体が見えない何かに弾かれて、敷地に入ろうとして入れないという光景。
「あの! 前の!」
そんなユイナの言葉に三人は前を見る。
「んー? ってアレ。なんか弾かれてる」
「ほんとね……」「おー……」
「……」
一瞬の逡巡の後ユイナは覚悟を決める。
「決めました。あのお城に突っ込みます!」
「え」
階段の先、城の中へと続くであろう開いている門の数々のその一つ。そこへ向かって唸りを上げ、跳躍し飛び込むジープ。
「「ええええぇぇぇ!!!」」
強い衝撃音の後、そのまま階段へと着地し、車はガタガタと激しく揺れながら滑り落ちるように、真っ直ぐ門へと向かって走っていく。
「あばばばばば……あ、み、見てゾンビ! ホントに城の敷地に入ろうとして何かに阻まれて入って、こ来れないみたい!」
揺れながらシノハは、階段の上で変わらず見えない何かに阻まれユイナたちに近づけないゾンビを指差す。
「お、お、ほんとや、やや、なぁぁぁ」
「理屈ははは、分からないけど、ふ、ふぅ……な、何とかなったじゃない、い」
長い階段を駆け下り、ブオンと音を響かせ跳躍する車、勢いのままそのまま開いていた門に突っ込んでいく。
そのまま門を越え城の中に入るとそこは緑が茂る中庭らしき場所の様で、
「あ、す、すいません。止まれません! このままぶつかります!」
「「嘘ーっ!」」
車はグルグルと回転し、ガタン、と跳ねると、側面が下に向き、横転しつつ回っていき、中庭の奥の壁に勢いよくぶつかって止まるのだった。
「お、おぇ~~~」
「う~~~」
「は、吐きそう……」
横になった車体からいち早く降り、ふらふらと歩き出すシノハ。オトギとウミカもふらふらと車から抜け出し、横になる。ユイナもまた車から抜け出し、仰向けになると、
「全員、無事にゾンビの群れ? から生還……取り敢えず作戦は成功……です……」
そんなことを言い、
「そうだけど、釈然としないわ……ウプ」
と、口を手で覆いながら、ウミカはそんなぼやきを漏らすのだった。




