ハローニューワールド
そう、想定外の一つは、皆で朝早くからジープを走らせピクニックへと出かけたはいいものの、丘の周辺の霧が想定よりもかなり濃かったこと。
立ち往生し、進路を確認し地図を眺める一同。そして────
「「「「!?」」」」
突如、車を包み込むような光が下から差す。一行が地面を見ると、そこには魔方陣ともいうべき不可思議な紋様が地面から辺りを覆うように映し出されていた。紋様はさらに強く輝き、光は増す。
「み、皆さん! 防御態勢を……」
ユイナの声をかき消すように光は全てを包み込み、一行は意識を失い────
◇◇◇
「起きてください! シノハちゃん……起きてってば~!」
「うぅ……まだ食べれるぜ。私は……。うへって、ユイナぁ? もう、朝?」
「寝ぼけてないで起きてください! もうお昼です、いえ、厳密にはどうなんでしょう……ってそうじゃなくて! 大変なんです! 周りを見てください!」
ユイナはシノハを揺らしながら深刻そうに呼びかける。激しく体を振られ寝ぼけ眼のシノハも徐々に覚醒していく。
「う~ん、どうしたってのさ確かキャンプ行くんだっけ……ん? いや、確か行ったんだっけ。それで……」
記憶を頼りながらシノハは身体を起こす。そして、シノハは違和感を覚える。それは、体を起こすために地面に伸ばした手の感触が明らかに人工物ではない草と地面の感覚で無かった為。
「ん……」
重い瞼を開き、視界の照準を合わせる。そして、シノハは目の前の光景を認識する。
「マジ……?」
「ふぁぁ……どうしたん? 二人共ぉ……」
「うぅん……あれ、私寝ちゃってたの……キャンプ、着いたんだっけ……」
二人の傍で寝ていたオトギとシノハも二人のやり取りで目を覚ます。
そして、
「あ、あれ~?」
「う、嘘!?」
シノハ同様、驚きの声を漏らす。
四人の目に映るのはどこまでも高く澄んだ青い空。そしてその下、視界いっぱいに広がる昔のヨーロッパの街の造りを思わせる石造りの大きな街並み。その中央に位置する天を衝く程、大きな城。そして街を区切っている外壁らしきものをいくつか越えた先に見える青く霞む地平の先の山脈。
どうやら今は街中にある小高い丘の上にいるらしく、周りのどこを見返してもその光景が広がっている。
「こ、これって……」
「うぅぅ……目が覚めた時にはもうこれで……」
一足先に目覚めたらしいユイナは何が何やらといった様子で項垂れる。同じく状況が呑み込めず困惑するオトギとウミカ。そして、シノハも同様驚きつつも、一人だけ違う反応を示した。わなわなと震えながら頬を紅潮させ、
「シ、シノハ?」
勢いよく立ち上がると、行動に驚くウミカを他所にシノハは叫ぶ。
「い、異世界転移だーーーーーーっ!!!!」
そう、ユイナの想定外のもう一つは異世界へとやってきてしまったこと。
「そういえばシノちゃんが読んでるのにそう言うのあったなぁ……」
「異世界、ですか……」
「いや、ちょ、ちょっと待ってよ流石にそれは現実離れし過ぎ……」
シノハの言葉にそれぞれの反応を示す、オトギとユイナとウミカ。
「あ」
「ど、どうしたのユイナ……」
何かに気づいたらしいユイナに過敏に反応するウミカ。
そんなウミカへ、ユイナは深刻そうに彼女の方を向き、
想定外の後一つ────
「ラ、ランチョンマットを……忘れてしまいました……!」
そんなことを告げるのだった。小さな丘、風が草原を撫でる。
「お、脅かさないでよ。ていうかランチョンマットって……」
呆れ顔でユイナを見つけるウミカ。
「でも、お料理を食べるならそういうのも大事じゃないですか! ……はぁ、折角可愛いのを手に入れたのに……」
「ユイちゃんらしいなぁ」
ガックリと項垂れるユイナをオトギはポンポンと背中を叩き慰める。
「いや、大事かもしれないけど! それよりほら、目の前にもっと気にすべき事情があるでしょ! どデカい事情がさ、異世界だよ、異世界!」
シノハはそんな三人に向かって、ピョンピョンと跳ね、はしゃぎながら現状の状況に目を輝かせる。
「そうは言うけれど本当に異世界だっていう確証はあるの? シノハ。もしかしたら集団催眠だなんてことだって……」
「いーや! 異世界だよ! ほら見てバカデカいお城でしょ、あと何か街灯っぽい中に浮かんでる結晶とか、いろいろよく分かんないのがたくさん! アレ絶対魔法とかで作られたやつだよ!」
白を基調とした巨大な城。そしてそこからあちこちから伸びている橋のようなものが街を横断した後、形成されている外壁に繋がりそれに城下の街は囲われている。そして、家屋といった石造りの建物が所せましと建てられおり、それだけでなく街を横断する橋や水路、塔といったものも見えた。
「うーん……でもにわかには……」
シノハの意見に対しウミカは未だどこか信じられないといった様子で状況を疑う中。突如、何かに陽光が遮られたのか周りが影で暗くなり、風が吹き荒れる。そして、四人が咄嗟に上を見上げると同時に鱗に覆われた大きな翼を持つ巨大なトカゲとも言うような生き物がユイナたちの真上を通り過ぎたかと思うと、悠然と空の先へ飛び去っていく。
「……」
「わーー! ドラゴンだよ! アレ、絶対ドラゴンじゃん! テンション爆上がりなんだけど!」
呆然とするウミカとは対照的にシノハはさらに騒がしく腕を振って喜びを体で表現する。
「……なるほど、にわかには信じがたいですが……取り敢えずは自分たちの置かれた状況を確認するために周辺を調査しましょう!」
「いよっしゃーい! さっすが司令塔、話が早いぜー!」
「まぁまずはそれしかないやろなぁ」
「ちょ、ちょっと本気!? こんな右も左も分からない状況で……」
ユイナの決断にシノハとオトギは乗り気ではあるものの、ウミカは後ろ向きな様子で、そんなウミカをユイナは腹はくくったと言わんばかりに精悍な目つきで見る。
「分からないからこそです。情報が無いと後手に回らずを得ませんし、それに」
ユイナは自分たちの後ろを見る。そこにはここに自分たちが来た時にそのまま着いてきたのかジープが草原に鎮座している。ジープの中には食べるはずだったサンドイッチの入った箱や、荷物、布に包まれたオトギ愛用の虎徹などが置かれている。
「幸い物資もありますし、武器も多少は車に予備で積まれてたはずです。もし、危なくなったらジープでそのまま逃げだすことも出来るでしょう! 多分!」
「多分って……」
「せや~、ウチと虎徹ちゃんもおるしそんな心配することあらへんよ。いや~虎徹ちゃん連れて来といてよかったわ」
「いっつも分解せずに持ち歩いてるけどねー。さー! そうと決まれば即準備して出発だー!」
「行きましょう!」
意気揚々とジープの方へ歩き出す三人。
「いやいや、未知の細菌とかそう言うのがあったら! ……あぁ、せめて大気の測定器でも持って来てたら」
「いや、きりないって。ほら、行こ行こー」
「うぅ、はぁ……心配だわ……」
それに遅れてウミカもとぼとぼと歩き出すのだった。
四人は元々ハンドガンなどといった最低限の装備は身に付けてはいたが、ジープに置かれていた装備一式をさらに装着し、準備万端とジープに乗り込む。困難はあれど止まることなく。
「さぁ! 出発です!」
吹かされたエンジン、ユイナがアクセルを踏むとジープは未知の異世界へと車輪を進めていく。




