終末世界で旅をして(1)
翌日、日も昇り、晴れた空の中天の頃。キャロルは異世界転移で降り立った最初の丘の上に再び立っていた。
ジープの真正面から少し離れた場所にいるユイナとシノハとオトギ。シノハは地面を足踏みする。
「まさか、ここの真下とはねぇ。異世界転移装置」
「正確には亜世界転移装置です。計画の破棄となった際にこの土地の地下に凍結し安置することになったそうです」
そう言う三人から少し離れた場所にいるミライの真下に描かれた大きな魔方陣。ジープのバンカーの上には機械と思しき大きな機材とパソコンが置かれ、ウミカがなにやら作業をしている。
「忌々しい装置よ本当に。通信機の準備、バッチリよ」
悪態と共に息を吐くとウミカが戻ってくる。ジープに向けて横並びで正面を向く四人。ジープの上に置かれたパソコンの画面の左上の小さなワイプには四人が映っており、全体は黒い画面が映っている。
「それでは行きます」
ミライの合図と共に魔方陣が輝きだす。地面が小さく揺れ始め、どこからか吹く風がより一層強くなる。
「成功すればよいのですが……」
ユイナの呟き。次第に地面の揺れが落ち着き始め、風が止むと。
「や~~~~~~~~! 皆ァ! 元気だったかなァ? まずは、生きてて何よりだよォ~~」
「お~博士~」
纏わりつくようなどこか艶やかにも感じる声色を轟かせ、共に二十代半ばの見目麗しい外見の女性が画面中央に現れる。画面ではどこか胡散臭い雰囲気を纏う女性が部屋の中央で椅子に腰かけており。
「もう心配したんですよ! いったいどこで何を!」
ユイナたちと同年代と思しき真面目そうな少女が女性よりも近い距離から画面に割って入り現れた。
「うわ、委員長」
「うわとは何ですかうわとは!」
シノハの言葉を聞き逃さず少女はシノハに噛みつく。
「あはは、すいません、ランちゃん。迷惑をかけてしまって」
「ユイナさん。……はぁ、まったく貴方がいながら……」
手を合わせ謝るユイナ、ランは画面から離れるのを止めると、小さくため息をつき女性の隣に立った。
「博士~、ランちゃん~」と片手を振るオトギに対して、またため息をつきながら軽く返すランと片手で振り返す女性。
「あっはっは。ビックリしたんだよォ? キャンプ用に貸し出した車の信号がいきなり消えて、どこに行ったのかさっぱりだったからねェ。連絡も通じないし。生体番号反応もロストで。まぁ、何はともあれ感動の再開さ。皆元気そうで一安心だよ」
女性は机の上に腕を置き顎を組んだ両手の上に載せる。
「心配をおかけして申し訳ありません、ティーツー司令官」
「いいさ。それより、もう隊じゃぁないんだから司令官なんて呼ばなくていいんだよォ、ユイナくん?」
「すいません……つい名残で」
困ったように笑うユイナ。
「まったく気軽にティーツーちゃんと呼んでくれといつも言ってるだろう?」
「それはそれでじゃないかしら……」
画面の向こうには届かないであろうウミカの呟き。
「それにしてもリモートで通信だなんてどうしたんだい?」
「えぇと、信じてもらえないかもしれませんが……」
ユイナはどう説明しようと懊悩する中、その横でシノハはふぅと胸を撫で下ろす。
「ふぅ……むっちゃ怒られるかと思ったけど、あんま大事になってなさそうな感じでセーフじゃない?」
「いや、一日も行方不明で連絡とらずは大事でしょ……」
「? 何を言ってるんですか。信号が途絶えてから三十分も……それより、そちらの画面、ノイズが酷くて良く見えないのですが、音声も少し途切れ途切れで」
ランは再びカメラに近づいて目を凝らし画面を見ている。ユイナがパソコンのカメラには映らない離れた場所にいるミライに呼びかける。
「あ、すいませんミライちゃん! どうやら通信が悪いらしく……!」
「? 誰と話して……ん、あ、安定していましたね。はい大丈夫です、こちらでも映像はしっかり認識できるように……いや、待ってください、山、街!? そこは一体……貴方たち今どこに……!」
通信は改善されたらしく、画面で正常に現状を把握できるようになり安堵したと思われたランのその顔は段々と言葉を失い、
「お~~~や、おやおや? 何だか面白そうなことになっているねぇ」
画面の先の光景を認識したらしいティーツーは目を丸くした後、怪しげな笑みを浮かべる。
「皆さん、装置が安定しました。長時間は無理ですが、短時間程度なら……」
魔方陣から離れ、四人の元に戻って来たミライ。
「いや、誰ですかその人!」
必然的に画面に映り込み、ランが驚く。ユイナはそんな画面の向こうの二人に向かってどこか困った様子で両手で指を合わせて遊びをしながら、
「その、ですね。長い話になるんですが……」
どこか困り気にポツリポツリとこれまでの経緯を話し始めるのだった。
◇◇◇
「というわけで……」
別世界に興味があるのかパソコンの近くでミライは画面を凝視し、それを気に留めることも無く、ユイナの語った内容にティーツーは興味深そうにチェアに深く腰掛けながら顎を触る。
「なるほどねェ~別世界への転移かァ」
「別世界だなんて……あり得ません」
ランは信じられないといった懐疑的な様子で難色を示している。
「まぁそうなるよね」
「というか、こちらは貴方たちがいなくなってから通信が来るまで三十分も経っていなかったんですよ!?」
「マジ!?」
ランの発言にシノハ含め四人は驚きお互いの顔を見合わせる。
「恐らく世界同士で時間の流れに差異があるんじゃないのかなァ。いやはや興味が尽きないねェ」
「ですが……」
「だが、状況から照らし合わせればそうとしか言いようがない事態さ」
ティーツーはそう言うと深く腰掛けるのを止め、目を輝かせながら画面へと前傾になる。
「いいかい、キミたちの信号が途絶えた後、哨戒班から奇妙な連絡が来てね。曰く、霧の中で輝く何かを見たと。事故か襲撃か。何事かと調査を送ってみたら地面に刻まれていた奇妙な陣以外は何も無しと来た。その周囲はそれとなく立ち寄らせないように見張らせたは良いものの。手がかりもなしにこれからどう動こうと手をこまねいて困り果てていたところさ」
「悪かったってばー」
「言ってませんが」
手を組み頭の後ろに回しているシノハにランは目くじらを立てる。
「まったく……それがまさか別世界にまで言っていたとは……フフフ……アハハハハハ!!! まったく、こんなことがあるかい!? いつもいつも! ほんとキミたちは目を離した瞬間、厄介なトラブルに巻き込まれるのだから困ったものだよ!」
ティーツーは困ると言いつつそれとは裏腹に愉快そうに部屋に哄笑を響かせている。
「笑い事ではありません! もし仮に事実ならこれからどうすれば……」
「ふー。まぁ、落ち着き給えランくん。まず、大事なのは現状を正しく把握することさ。で、だ。回想の中にあった零型……もといミライという名の協力者。それが今、画面に張り付きながらこちらを凝視している彼女ということでいいのかな?」
「あ、はい。ミライさん。彼女が貴方が話の中にあったミライなのかと」
画角の大半を支配していたミライがパソコンから離れ、キャロルの元に戻る。胸に片手を当て背筋を伸ばしたまま膝を曲げる。
「了。ティーツー。ご推察の通り、私がミライ。この度キャロルに入ることになりました。よろしくお願いします」
礼の一つと思しき胸に片手を当て背筋を伸ばしたまま膝を曲げる動作を繰り出すミライ。ランは首を傾げる。
「えぇと……彼女はなんと言って?」
「ユイナ、訳を頼めますか?」
「あぁ、そういえば言葉は私たちにしか……」
ユイナはミライの発言をそのまま伝える。
「なるほど。ふふ、よろしくね。ミライ。私はティーツー、彼女たちの纏め役みたいなものさ。隣の子はラン」
ランは軽く会釈する。顎を擦るティーツー。
「キミ曰く装置での世界の移動はこちらからそちらからへの一方通行しか出来ないらしいが……この現状では良好に通信も機能しているねェ。それともこれは例外なのかなァ?」
ユイナはそのまま耳打ちで言葉を伝え、
「ええ。推察の通りです。ティーツー。亜世界転移装置の重要な点は世界を繋げるという点です。本来この装置はそうして世界を繋げた上での物質の双方間での行き来を前提としていましたが、今の環境と技術ではそれが不可能だと決定づけられ、別世界から物体を引っ張ってくるだけならばとその方向性で開発されました。ついぞまともに実行されることはありませんでしたが」
ユイナに耳打ちで話すミライの言葉を訳していく。
「なるほど……つまり物体ではない、通信などに使われる電磁波のような類は例外で今の装置でも世界が繋がっていれば双方間を行き来できると」
「そうなんですランちゃん。ミライちゃんの説明を再度詳しく聞いたらそれなら通信ぐらいは出来るんじゃないかと思って。それで聞いてみたらミライちゃんによると座標が固定されてしまってるため、同じ場所かつ、装置も限界が来てるのでかなり小規模なものになるけど可能だって」
「成程考えたねぇ……ははーん。ということは、だ。頼み事が私たちにあるのだね?」
話の筋が読みユイナの言わんとしていることを先に理解しティーツーは口角を上げる。
「流石、話が早くて助かります。その通り頼み事があるのですが、武器を調達してはくれないでしょうか」
「武器を……? あぁ、ユイナさんたちの時と同じようにこちらから武器を転移させるのですね」
「その通りです! ランちゃん。場所は魔方陣の中心に置いてもらえれば問題ないそうですが……」
「勿論いいとも。存分に役立てるといい。仲間たちに用意させるとも」
「よっしゃー! これでこっちの世界じゃ無敵よー!」
右腕を突き上げ飛び跳ねるシノハの言葉にランの眉がピクリと動く。
「そちらの世界……あの、ユイナさん、いえ皆さんはその、もう、その戻って来ることは出来ないんですか? こちらの世界に……」
不安げにユイナを見つめるランにユイナは面と向かって答える。
「現時点では不可能に近いでしょう」
「……」
「ですが、昨日、皆で決めた作戦があるんです」
「……?」
ユイナはキャロルのメンバーを見る。
「ユイナの案なんだよー」
「聞いたときは驚いたわぁ」
「はぁ、でもやるっきゃないものね……」
シノハはにへらと笑い、オトギは微笑み、ウミカは不安げながらも覚悟を決めた表情で、ミライは通常通りの無表情で。
ユイナは両手を大きく広げ、目を輝かせながら意気揚々と宣言する。
「この世界を巡って、それで、そちらの世界への転移装置を私たちで作るんです!」




