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終末世界で旅をして  作者: 黒桐


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終末世界で旅をして(2)

「世界を……!?」


 飛び出した予想外の言葉にランは呆気を取られる。


「はい! 考えていたんです! どこにも無いなら私たち自身で作れないかと! ミライちゃんに聞けば世界転移の技術はかなり公に知られていた技術で各国も挙って研究していたらしいのですが、そのどれもが時勢や環境などなどに恵まれず実用的な段階ではなかったと。なら、今なら資材もどこからでも取り放題で各地に残った転移技術の情報を使いミライちゃんの頭脳ならそちらへ行ける転移装置も作れるはず!」


「で、出来るのですか!? そんなこと!」


「やってみせます!」


 覚悟を決めた表情で強く断言するユイナ。他のキャロルのメンバーもそれに同調していく。


「私たちに不可能なんて言葉は不要なのさ……! ていうかどっかで完成してくれたら万々歳」


「頑張ろうなぁ、ミラちゃん」


「お任せください。私の戦闘力は五十三万。向かうところ敵なしです」


「これ教えたのアンタでしょシノハ。……はぁ、やるっきゃないもの……頑張りなさいウミカ……」


 自身の鼓舞を込めたウミカの呟き、ユイナの宣言の後何かしらを考えていた様子のティーツーが口を開く。


「ふむ、確かにキミたちの考察通りその国と同じように世界がパンデミック、もしくは他の要因で滅んでいた場合、情報の保存技術もあるようだからそういった方法でも可能性も無くはないのだろうけれど……」


「えぇ、ですが文明が滅んでいるないしは途絶える寸前という事実はかなり確度が高いと言っても問題は無いでしょう。王国の通信室も内容は不明ですが百年ほど前から受信送信は途絶えていました。それに加え、昨夜、通信魔法でこちらから世界全体に様々な内容を発信してみました『生存者は応答せよ』『物資の取引を望む』『汝の住む国に宣戦布告を行う』など、がそのどれも無反応でした。」


「ちょっと最後」


 淡々と話すミライの最後の怪しげな部分に反応するウミカ。


「結局ホントにウイルスみたいなので出来たゾンビかどうかも分からずじまいだもんな~。フルクウェールと一緒にまとめて消しちゃったから調べも出来ないし」


「まぁ、何にせよどういう理由でこんな状況になったのかは否が応でも向き合わないといけない問題なのは確かよ。滅んだ要因で情報の残し方も変わってくるでしょうし、はぁ」


 シノハのぼやきにウミカはため息交じりに返す。


「ふふ……! だからキミたちは面白い! ランくん! 信じようじゃないか、誰もが不可能だと思ったことさえも可能にしてしまう。それが彼女たち『キャロル』なんだから。今回もやってくれるさ」


 そんな様子を見てティーツーは片眼を閉じ口の端を上げ、ランへキャロルへの希望と信頼を謳う。

 それを受けランは事態を飲み込むかのように強く頷いた。


「分かりました……式典までには。なんて言いませんがせめて必ず帰ってきてくださいね皆さん!」


「はい!」「おう!」「まかせてな~!」「当然よ……!」


「そういえば、世界によって時間の流れが変わっているのにこうやってお互い普通の速度で話せてるのは不思議だよねぇ。お互いが観測し合うことで今は時間が同じ流れになっているのかなァ。だとすると……」


 急に差し込まれたティーツーの疑問。


「! 通信によってあちら側の時間を遅らせることになり、したがってこちらへ帰ってくる時間も……!」


「う~ん。遅らせるという言い方はちょっと違う気もするけれどねェ。それにこれはあくまで考察の一つ……」


「ならこんな悠長に会話してる場合ではないじゃないですか! 武器の調達ですよね! 何が良いのですか!?」


 一刻を争う様にランは画面へ近寄ると武器の選定と催促をせかしだし、オトギがそれに当てられ気圧されつつ話し出す。


「わぁ。……えぇとなぁ。魔法で頑張れば銃は修復や複製ぐらいは出来る感じで、弾の方は大体量産できそうなんやって」


「……魔法というものはそこまで可能にするものなのですね……ではなく、それで」


「それでなーミラちゃんの話だと決まってる容量みたいなのがあるんやて、それが……」


 慌ただしくしているランにシノハは口を尖らせる。


「もー、せっかくの一日ぶりの通信なんだからもうちょいゆったり話しててもいいじゃんかー」


「あはは、まぁまぁ。ランくんもユイナちゃんと話したいのを堪えて話してるのだから大目に見てくれたまえ」


「なっ!」


「? ランちゃんが私と、ですか? 皆と、ではなく?」


 ティーツーの不意の発言にランは言葉を失いユイナは首を傾げる。


「あ、ええと、ほら……!アレですよ! ほら、この前貸してくれた本。その感想を、と思っていたので! もう全く間が悪いんですから!」


「「「……」」」


 たどたどしく言葉を並べ立てるユイナに特には何も言わないキャロルの三人。


「あぁ。なるほど、ふふ! 帰ったらたくさん話しましょうね、ランちゃん!」


 納得したと、笑顔を綻ばせるユイナ。


「え、えぇ。……もう、委員長!」


 ランは恨めし気にティーツーへ抗議の呼びかけをし、ティーツーは『やっちゃった』とばかりに、舌を少しだし茶目っ気らしきものを見せる。


「? 事前に聞いていた情報ではそちらが委員長だと」


「あぁ、それはあくまで彼女の愛称みたいなものさ。この場合の委員長は少々意味合いが異なる単語でね。私は纏め役といったろう? 正確には私が委員長なのさ。彼女は補佐官」


 疑問のミライに手ぶりで説明をするティーツー。


「貴方、一体彼女にどういう説明をしたのですか!?」


「えーよくない? 別にあだ名くらい」


「よくないです!」


 シノハのあっけらかんとした態度に眉を吊り上げていくラン。


「複雑なのですね」


 何か納得したらしく一人ミライはひとりでに頷く。


「何だい、これ」


「なんか、またキャロルがやらしかたっぽいよ」


 部屋の先は通路になっているらしく、部屋の奥側のガラス窓の先に通路を通ろうとして立ち止まったらしき何人かの少女や女性がこちらを覗き込んでいる。


「失礼。部外者は部屋近辺には立ち入り禁止ですよ! 即刻立ち去る様に! ……おほん、つまり武器は対獣想定で……」


 それを蜘蛛の子を散らすようにランは追い払い、姿勢を戻しオトギとの会話を続けていく。


「少し時間がかかりそうだね。ユイナくん。ミライくんをいいかい?」


「分かりました。ミライちゃん。ティーツー委員長が……」


 何かしらの考えかミライとの会話を所望するティーツー。再びユイナが通訳の体制に入る。


「なんでしょう」


「なに、ある程度、事情を話しておこうというだけさ。強化人類については聞いているね?」


「はい」


「実は私も強化人類でね。彼女もまた、強化人類なのさ」


「なるほど……」


「強化人類は戦争下で生み出され浸透した科学技術だが、それを行う企業や国によってその製法も多く異なってね。それによって強化人類と一口に言っても種類は様々なんだ」


「ふむ、それではあなた方も……?」


「いや、同じさ。私たちは全員。今は無き驚異の技術力を誇った組織によって作り出された強化人類の一種でね。その通称はA.R.I.C.E」


「アリス……」


「私たちに共通するのは全員女性かつ、第一次第二次性徴にかけて爆発的な成長をとげ、そしてその期間のみ、その常人離れした力を行使できるという性質でね。それをこちらの世界の童話の主人公の少女の名前に当て嵌めてアリスと、そう呼ばれていたのさ」


「理解しました。つまり、貴方の長というのはアリスたちの長ということなのですね」


 納得が言ったとばかりに声色が上がるミライ。


「長なんてガラじゃないさ。さっきも言った通り纏め役でね。戦時中から各地に散らばった同胞たちを集めていて、まぁそんな同胞たちと連合軍に与したりといろいろあったが、今では戦争も終わり、普通に戻り行くそんなアリスたちのただの姉的な存在さ」


「いえ、言葉では単純ですがその労力は筆舌に尽くしがたいものだったでしょう。感服に値します」


「あはは、そう面と向かって言われると気恥ずかしいものだねぇ」


「はい、それではそのように」


 横ではオトギとの会話を終え、ランが背を正す。


「まぁなにはともあれ、だ。そんな私としてはキャロルもまた大事な仲間でね。彼女たちを任せたよ? ミライ」


「はい、お任せを。完璧にそちらへ送り届けてみせましょう」


 胸に手を当てティーツーの要望に涼し気にそれでいて強い眼差しと共に返すミライ。


「武器の提供、感謝します。ダメ元でしたがまさか貸して下さるとは」


「あっはっは。まぁ確かにここ倉庫にある武器は個人所有以外、一応あくまで保管、もしくは自衛の場合でのみ使用が許可されているからね。もしバレたら大目玉でも済まないだろうけれど、まぁ何とかしておくさ」


「胃が痛いです……」


 飄々としたティーツーの横で険しい表情のラン。


「本当にありがとうございます……。オホン、それではまた! 報告が出来るようになったら再度行いますので!」


「が、頑張ってくださいね!」


「いい報告を期待しているよ? キャロル」


「はい!」「はーい!」「は~い!」「はい!」「はい」


 そして。



 ◇◇◇



 丘の上。強い閃光の後、迸る稲妻のような光と漂う煙の中から加工された重厚な鉄鋼の箱や木箱などなどがその顔を覗かせる。


「おお~! 武器きたー!」


「物体の転移、成功。転移の余波により時空間穿孔の保持状態の安定不可。断絶。転移術式を終了。装置を停止します」


 ミライの足元に再び浮かんでいた魔方陣が消える。ミライは閉じていた眼を開け、その身体を脱力させる。

 シノハは我先に飛び跳ね武器の元へ向かい、ユイナたちもそれに続く。要望してきたものが問題なく来たか一同は転移してきた物品をくまなく確かめ始める。


「弾に銃に盾に……うん、取り敢えず問題なさそうね。一応全部来てる」


「おおー! ホントにデザートイーグルの50……」


 シノハはケースに入った銃に目を輝かせ取り出す。


「おおー一回使ってみたかったんだよねー! まー欲言うならプファイツァーとかの方が良かったけれどーこれもこれで」


 そんなことを言いながら銃に頬ずりするシノハにウミカはやれやれと言った表情で見かねる。


「贅沢なんだから。というか弾も抜いてるでしょうけど危ないわよ」


「むー……というかその台詞はあっちでしょ」


 そんなことを言いながら目線を視界の隅に向けるシノハ。ウミカが釣られて視線を向けると。


「はわ~~~武器ちゃんがたくさんや~HEIAP弾ちゃんも~これで虎徹ちゃんがもっと輝くわぁ~~!」


 そこにはいくつもの銃や弾を抱えながら恍惚とした表情でゴロゴロと地面に転がるオトギの姿。


「……うん、オトギの偏愛はもう諦めてるから私……」


 半眼でオトギを見やるシノハとウミカ。その間にミライが興味深々に横で覗く中、てきぱきと確認していたユイナが立ち上がる。


「うん大丈夫そうです! それじゃあ、次にすべきことは、準備。ですね!」


 にこやかに告げるユイナに一同は目を合わせ、頷く。それに続くようにどこかでチチッと小さな鳥の声が響いた。



 ◇◇◇



 そして一週間後。深く青い空が広がり、その下にはなだらかな草原がとこまでも続いていた。奥では霞み青みがかった連峰が視界の右から左まで埋め尽くすように並ぶ。


「皆さん準備はばっちりですね!」


 草原へと続く、高い城壁の間の開いた門の手前にはこれでもかと荷物が置かれたジープに乗り込んだユイナたち。ミライは空中に地図の様なものを浮かび上がらせる。


「最初の目的地は大渓谷スリャーダ。かつて有史以来数々の貿易地点となったあそこならば何か手掛かりがるやもしれません」


 草原の周りではフルクウェールの居なくなった影響か鳥のような生物やウサギにも似た生物といった生き物たちが散見される。鳴り響くエンジンの始動音。閉じられた地図。


「行きましょう! 目指すは大渓谷!」


「よっしゃー! やったるでー!」


「おっきな滝あるんやろなー見れるとええなぁ」


「はぁ……お願い、人じゃなくても何かしらの実入りを……」


「はい、行きましょう」


 未知なる世界への態度は五者五様に。風と共にジープは唸りを上げ発進する。

 轍は新たな世界への一歩を知らしめるかのように刻まれ、五人は進んでいく。

 ユイナはフッと口元を綻ばせながらアクセルを踏む。

(どんな世界だって皆と一緒なら!)

 そよぐ風、舞う葉がこれからの五人の行く末を示したかの様な澄み渡った空に吸い込まれていく。


「素敵な土産話を持って帰りましょう! この終末世界で旅をして!」

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