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終末世界で旅をして  作者: 黒桐


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10/12

VS.死脈龍フルクウェール

 城の頂上付近、空に漂う三人は城の周辺を埋め尽くす死骸の海を見下ろす。


「でもどーする?あんなデカいの」


 シノハは悩まし気な顔でフルクウェールを見る。問うユイナ。


「作戦は」


「生半可な攻撃では通じない為、全力の魔法の一撃でコアごと消し飛ばす予定です」


「その場合残った死骸は?」


「コアから魔力が与えられず、形を保てないまま同様に消えます」


 零型からの情報にユイナに口を手で覆い考え込む。


「じゃー、とにかくコアをやればいいわけだ」


「はいその通りですシノハ。ですがここまで巨大だったとは、少し想定外です」


 零型の悩ましげな顔。


『聞こえるかしら!』


 イヤホンから鳴る声。ユイナとシノハは同時にイヤホンが着いた耳に手を当てる。


「お」


「! 零型さん。通信機で二人からの連絡です。……はい、こちらも無事で。二人共、このまま逃げ切れるそうです」


「了解です。それにしても、そんな小さいもので……魔法も使わずに」


 興味深そうに零型はイヤホンをじっと見る。


「オトウミコンビも抱えて逃げたりできない? 零型」


「かなり厳しいかと。人の運搬は想定にない設計の形態ですし、飛行術式や防御術式の稼働も現状かなり無茶をしています」


 シノハの提案に零型は難色を示す。ジジッ、と翼から異音が鳴り零型の機体が空中で少し揺れる。


「むー」


「……できればここで決めたいです。龍さえ排除できれば、安全な拠点に、多少の資源も見込めます。……皆さん、作戦があるのですが」


 ユイナは通信を開き、自身の作戦を四人に伝える。


「なるほど……理解しました、それなら」


「でもさぁ、そんな危ない役回りなら私が……」


 眉を八の字に寄せるシノハ。


「大丈夫とは言えませんが……どうか信じてくださいシノハ」


 そんな彼女の手に手を当て、真っ直ぐ視線を通わせたユイナ。


「……おーけー。分かった。頼んだぜ! ユイナ」


 シノハは降参とばかりに少し嘆息するといつもの調子に戻る。


「ウミカとオトギもでは、そのように」


『分かったわ』


『おーけーやでー』


「それでは作戦行動を開始します!」


 宣言と同時、零型はフルクウェールも辿り着かないであろう高い位置の城の屋根まで飛ぶ。平たい屋根の上。着地するスレスレで零型は止まり、


「よっと」


 そこへシノハが降りた。


「頼んだよ!」


 拳を突き出すシノハ、それへ向けてユイナは拳を突き合わせお互いに笑う。


「行きます」


 そして、また空へ飛び出すユイナと零型。二人はそうして飛んだかと思うとフルクウェールへのいる地上へと近づいていく。地上付近、フルクウェール一色と化した城の地上を二人は飛翔する。

 絶好の機会を逃すはずもなくフルクウェールは本能に従い体躯を触手のように伸ばしながら生者であるユイナへ襲い掛かる。


「焼きます」


 それを零型は魔法による炎で焼く。別方向から伸びてくる触手。それを零型は躱し、ユイナへと届かせない。


(まずは、私が囮になってコアを誘導……)


 そのまま二人は逃げることなくフルクウェールと付かず離れずの距離を保ちながら飛行していく。


(振り落とされそう……!)


 縦横無尽に空を駆ける零型。その度に身体に掛かる強い慣性の力。耐えながら。必死にユイナはしがみ続ける。

 あちこちに広がっていたフルクウェールの体躯はユイナを追い、纏まっていく。


「そろそろです!」 「了解」


 城から少し横に離れ、上昇した零型。それを追いかけフルクウェールの体躯が城から離れユイナと零型の方へ向く。空へその体躯を伸ばし生者へ数々の細い触手を差し向けるフルクウェール。それへ向かい空中に留まる零型は手を向ける。


「コア…………おおよその位置を把握、射程に収めます」


 そして、その手の先、空中にいくつもの魔方陣が浮かぶ。


「制限拘束解除、魔力過剰供給開始。全回路開放」


 そして魔方陣は目も眩む程の輝きを放ち。


「術式構築完遂。照射───」


 フルクウェールの放ったものとは比較にならない巨大な白い閃光が放たれる。


「!」


 大気を揺らし轟音と共に視界を白に染める一撃。ユイナはその自身をも吹き飛ばす程の威力を何とかこらえる。


「わっ! ユイナ……零型……!」


 城の屋根、体を攫う強い風に当てられつつも、屋根の尾根を掴み、シノハはユイナと零型、二人の姿を目に写し続ける。城下の街はその攻撃の余波により倒壊していく。

 強力な一撃、フルクウェールの体躯はなすすべもなく焼かれ霧散していき。


「─────!」


 閃光の射程に収まった体躯は逃げることを許されず、塵に還っていく。

 やがて閃光は細い一筋の光となって、そして、消え、収まる。攻撃跡には濃い煙が立ち込め、


「……」


 そしてなお、フルクウェールの体躯は未だに残っていた。半分程の体積になり、そして、その体躯の頂上には生であるユイナに惹かれ釣られたであろう、コアと思しき珠が露呈していた。


「やはり……不足でしたか」


 フルクウェールは零型を危険と感じ取ったのか残った体躯を総動員し、瞬時に、攻撃の代償か異様な駆動音を鳴らし不安定に飛ぶ、零型へ触手を伸ばし襲い掛かる。


「!」


 しかし、フルクウェールの一撃を防いだ時と同様のバリアが零型とユイナの周りに展開されそれに触手は阻まれる。ユイナたちを飲み込まんとするフルクウェール。

 而してユイナは、


「まだです、お願いします! オトギ!」


 状況へ臆することなく、ここに居ない少女の名を高らかに叫ぶ。



 ◇◇◇



 ガタンガタン、と本来レールも枕木がないにも関わらずそれは音を鳴らし揺れる。

 一定に動き続ける、台車の箱の上、少女が投げた爆弾がさく裂し、


「───」


 台車に纏わりつく腐った体躯は振り落とされ慣性に基づき、落ち、離れていく。


「決めなさい! オトギ!」


 それは操作を行うレバーやボタンの点いた台と少女、ウミカの居る箱の間。いくつもある箱台の一つ。動き続けるトロッコの中で器用にスナイパーライフルを構え、発射体制を作り構える少女へ向かって呼び掛けられる。


「任せとき」


 オトギの普段の声色とは異なる、ただ淡々とした口調。

 高い壁の上のトロッコの路線。そこからは城を含めた城下街を一望でき、そして、その中で佇む死骸でその巨躯を形作る化け物もよく、視認できた。

 オトギの視線はただ一つを捉える、それは遠く景色の中で存在感を示す死骸の中の異質なコアと呼ばれた珠。

 宣言の後、一瞬の間を置いて惹かれた引き金。鈍色に輝く弾丸が長い銃の砲身から目に留まるはずもない速度で放たれる。

 空中を音よりも速く奔る弾丸。それは街の上空を飛び、一つの目標へと吸い込まれる。飛来する何かに反応しフルクウェールの体躯はコアへと急激に体躯を集め守ろうとするが───。

 それよりも速く、弾丸は死骸の中心にある珠、コアへと着弾し、そして、止まることなく貫いてみせる。

 コアの孔はぽっかりと開き、そこから亀裂が起きる。すぐさま亀裂はコアの全体に広がり、粉々に砕け散った。


「─────────!!!!!」


 つんざぬく悲鳴にも近い絶叫が城下に響き渡る。

 フルクウェールの体躯が徐々に灰色に変色していく。そして、灰色の体躯がパラパラと砂のように崩れ始める。体躯は地面へと勢いよく音を立てて落ち、崩れ、塵の山と化す。

 零型がバリアを解除し、微笑んだ。


「フルクウェールのコア破壊、それに伴う生命活動の停止を確認。お疲れ様でした、討伐成功です」


「! 皆さん! フルクウェール、討伐成功です!」


 零型の報告を受け、嬉しさをこらえきれずに満面の笑みでユイナはイヤホンから討伐成功の宣言を一同に告げる。


「いよっしゃぁぁぁーーー!!! おわ、ととと……ふぅ」


 屋根の上で飛び跳ね、はしゃぐシノハ。


「やったわね! オトギ!」


「ん、大成功や、ウミちゃん!」


 なおも動くトロッコの上で駆け寄るウミカと銃を降ろしグーと指でポーズを作るオトギ。三者三様の喜びを見せる。


「……機体出力限界、着陸します」


 零型とユイナはゆっくりと空中から地面へと降りていく。


「お疲れ様でした、ありがとうございます。零型さんがいなければどうなっていた事か……」


「いえ、皆さんの健闘あってこそです。ナイスな作戦でした」


「いえ……ん、これは」


 かつては体躯をかたどっていた死体が塵になり風に攫われ消えていく。本体から離れた分体も同様に塵になり、光に当たり煌めきながら空へと消える景色が街の空へ広がっていた。地面へと降りるユイナと零型。二人は空を見上げる。


「フルクウェールの体躯を作る死骸が純粋な魔力の塵となりたい気に還元され消えていっているようです。今はただの魔力で形成された塵なので害はありません」


「ダイタモンダストみたい……」


『ねーねー、見える? 何かキラキラしてんだけど』


 ユイナの耳に届くイヤホンからのはしゃぐシノハの声。


「零型さん曰く、フルクウェールの体が魔力へと変わっているためらしく、害はないようです」


 ユイナは三人へと害がないことをイヤホンで伝える。


『へー』


『綺麗やなぁ。キラキラして、いいもん見れたわぁ』


『いや、元はただの死体よね、これ。何かあんまり触りたくないって言うか綺麗な分、複雑な気分なんだけど』


『確かに言われてみれば……』


 イヤホン越しでも複雑な感情の乗ったウミカの声。シノハの声色も下がる。


『えー? ウチ、そこまで悪ぅないと思うけどな。仏さんも最後、こんなお星さまみたいにキラキラなれて』


『……確かに、葬送の一種と考えれば悪くないのでしょうか。どれぐらいの長い間、囚われていたかは分かりませんが、どうか安らかに』


 ユイナはそう言うと、手を合わせ目を瞑り弔う。そして、別の場所、示し合せたようにシノハは片合掌で、オトギは手を組み、ウミカは手を合わせ弔う。

 ユイナの姿に零型が尋ねる。


「それは……?」


 眼を開き、ユイナは少し悩んで話す。


「私の世界での……そうですね。弔いのやり方といえばいいでしょうか」


「弔い……ですか」


「はい、祈りとも言いますか。この場合はただ死んだ方々への、ただ安らかにという気持ちのようなもので。……この世界ではどのように弔うかは分かりませんが」


「……なるほど。良いと思います、記録にもありました。同様にこの国でも宗教観により手を合わせ祈ると、やり方は異なるようですが」


「それは良かったです。……零型さんもしますか?」


「私も……良いのでしょうか、宗教に属していたわけでも……」


「良いと思いますよ。だって、こういうことで一番大事なのは気持ちですから」


「……成程」


 零型は両手を丸く組み、額に合わせ、目を瞑った。ユイナはそれを見て、この土地の祈りのやり方と理解し、それに合わせ、再び少しの間弔うのだった。


「さて、シノハちゃんを回収しないと行けませんね……できますか?」


「はい、魔力が回復する少しの間、待っていただければ」


『取り敢えず、城にまた近づくまでトロッコに乗っておくからそのうち落ち合いましょう』


 ウミカの通信。これから、どこで落ち合うかと考えるユイナだったが再び軽い振動が二人を襲う。


「!? これは……」


「魔力探知には特に反応はありませんが……これは」


 震える地面、そして───。

 水が勢いよく噴き出す音が鳴る。城の方角、どこかの地面から水が勢いよく湧き出たらしく。城の近くで水が噴水のように高く湧いて出ているのがユイナのいる城下街からでもよく見える。


「どうやら、あの時放った一撃が地殻を刺激してしまったようですね」


「地下水でしたか。いえ……ただの水にしてはやけに水煙が多いような……もしかして」


 と、そこで、ユイナのイヤホンに通信が入る。飛び出たのはシノハの声。声色から分かる程はしゃいだ様子で。


『ねぇ皆! 凄い湯気! 温泉だよ! 温泉湧いてる!』

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