43 【サイド】クルデラ④
初代聖女の呪いが半分解呪されてから、俺はどうかしているんだ。
ため息を深くつく。
キャサリンの姿が神殿にない。
それだけで、胸の奥がジリジリと焼けつくように焦り、戻って来ないんじゃないかってイライラする。
「誰もそばにいなくていいっていうくせに、突然泣き出したりするからだ」
R15を再現する!
わけのわからない提案をされて、わけのわからないキスもどきや触れ合い、言葉掛けをしていた時のことである。
自分の仕打ちで、まさか泣き出すなんて...
今までの人生は──
泣いて暴れて元の世界に戻れないと嘆く聖女を慰め、癒し、優しい言葉をかけて、体を交わしてきた。
みんな泣き止んで、俺に依存することはあっても、言葉をかけた結果泣き出して、俺を拒絶することなんてない。
それは心にもない「作業」だ。
でも、その作業で、その言葉で、彼女たちはこの世界で生きていくことを受け入れた。
どんどん好みの男性たちをはべらせて、わがままいっぱいになるのがパターンだった。
それなのに、俺からの言葉を聞いてから初めて泣き、暴れたのだ。
なんで傷ついたのか分からない。
何を間違えたのか分からない。
その日以来、予想以外のことが起きるのが怖い。
ふと、あの時みたいに彼女がはなれるんじゃないか不安になる。
......不安?.......違う
苛立っているだけ.......苛立ち?
なんで?
「愛のない言葉なんて、虚しくなるだけじゃないの」
「目?見えなくても、自分のことは自分でします!」
「神殿を解体しましょう。私には不要よ」
全部、違う。
みんな俺がそれをすることを喜んでくれたのに。
……度肝を抜かれた、なんて言葉じゃ足りない。
彼女は、これまでの聖女たちの「支配」を嫌悪する。
目が見えなくなったというのに、俺に許された「お世話」は、おかずを一口大に切ること。
移動の際に手を貸す、転移魔法を使うこと。
それだけだ。
トイレもお風呂も、移動さえできれば俺なんていらない。
俺に、その綺麗なプラチナブロンドの髪も触れさせない。
一人でやるからグジャグジャじゃないか。
俺がもっと綺麗にしてあげたいのに。
俺がもっと綺麗に......してあげたい?
何でそう思うんだろう?
聖女が望まないことをすることはないはずなのに......
そんなこと...思ったこともないのに
そう、もっとそばにいて、もっと綺麗にして、もっとキャサリンに喜んでもらいたい。
「……ねえ、キャサリン。どこに行くの?」
「帰ってきて.......」
気づけば、他の聖女たちと同じように俺は支配されている。
でも、この支配は何の支配だろう。
自由なのに、見えない何かが俺を支配している。
彼女が実家に帰るだけで、足元が崩れるような焦燥感が襲ってくる。
彼女が婚約者と一緒に過ごすかもと思えば、みっともなく彼女の袖を引っ張って止めている自分がいる。
いっそ俺を自由にしないでくれたらいいのに。
前の聖女たちのように俺に命令して。
「そばにいて」
「愛してると言って」って......
みんなみたいに、俺に言ってくれればいいのに。
いや、キャサリンは必要ないから言わないんだ。
俺はキャサリンにとって必要がない
だから、君が他の人と幸せになったら、もう戻ってないんじゃないかと不安なんだ。
だって、アーサー王子は君をちゃんと求めている。
俺は、聖女を求めているけど、キャサリンを求めているわけじゃない。
だから、アーサー王子に奪われるかもしれない。
「一緒になっても.......戻ってきて...」
違う!一緒になんてなってほしくない。
キャサリンは、その俺の気持ちがまるでわかっているように、俺の頭を撫でて子供扱いする。
それが......嫌だ。
だって、キャサリンは俺がいなくても平気なんだ。
彼女は俺がいなくても、少しも寂しそうじゃない。
俺がいなくても、彼女は困らない。
だから、彼女が眠っている時、毎日毎日、何もできなくて、ただ守りの防御魔法をかけ続けたんだ。
俺がいなくなってもこれは守ってくれる。
だって、「守って」なんて彼女は求めてくれないもの。
そんな不安の中で、キャサリンにかつて危害を加えようとしてきた者の誓約魔法を卒業したのだから切れと俺に伝えてきた。
そして、俺に見せるように、キャサリンはアーサー王子に、何度も別れを告げて見せた。
そんなことまで求めてないのに......いや......どこかで求めている。
それを嘲笑うかのように、俺の不安をうまく掬い上げて、初代聖女が俺を乗っ取りはじめた。
抗っても
抗っても....
お前が共に生きると約束したのは私よね?
そう呼びかけてくる。
ちがう!俺は聖女様を愛してなかった。
愛だと思っていたけど違っていた。
ごめんなさい。
俺が初めて愛したのは........
王を!王の血族を殺せ!
ダメだ!キャサリンが悲しむ。
俺を殺してくれ!
アーサー王子を殺したらダメだ。
必死で耐える目の前に、アーサー王子を守るキャサリンがいる。
アーサー王子になりたい。
俺なら彼女が真実の愛だと間違えないのに!
なのに、アーサーを守る君が憎い。
俺は彼女に向かって多くの攻撃魔法を放つ。
それなのに、俺が......俺がかけた防御魔法が、君を守る。
彼女には鎖がついている。
多くの仲間の鎖だ。
でも、鎖なんてゆるゆるじゃないか。
みんな、俺を倒すために、君のために、アーサーのために俺に攻撃を施そうとしている。
君も、俺を倒したら、アーサーと幸せになるんだろう
俺は飛びついてくるものたちをみんな吹き飛ばす。
こんな弱い奴らが、俺を倒そうなんて!
こんな弱さで、キャサリンを守れるもんか!
そうよ。
王の血族は、聖女を弄んで捨てるだけ。
お前は違うわ。
見返りを求めない。
純粋に私のために愛してくれたのはあなただけ
俺は......
目の前に、激しい治癒の光が光る。
仲間を癒そうとしているんだ。
ダメだ!!
そんなに一気に力を使ったら...すぐ枯渇する。
眩しすぎる。
言わなきゃ.....
「キャサ.....リ...」
ダメって.....
それなのに、俺の体が...止まらない。
キャサリンを攻撃するな!
防御魔法がもたない!
それなのに──
声にならない。
唸り声しかでない。
うわああああああああっ!
「クルデラ!こっちむきなさい!
お前の主人は、初代聖女じゃない!お前を愛しているのも初代聖女じゃない!クルデラの唯一無二は私よ!キャサリンでしよ!」
そうだ!
俺を.......愛してくれる...人...だ。
俺を...守ってくれる...人
俺が......守りたい...人
そして......
キャサリンの目が見える。
やばい!
前と一緒だ!目で初代聖女を押さえ込もうとしている。
ダメだ!今度こそ失明する!
魔力が暴発する。
防御魔法は、内側からは守れない。
俺が...守りたい。
「手......つか...」
俺が愛している。
俺が......
彼女の手が俺を捉えてくるのが伝わる。
手が暖かい。
体の中から何かが弾ける。
いや!お前が愛しているのは、私でしょう!
お前を世話してあげたのは私でしょう!
殺しなさい!
王の血族を殺しなさい!
頭で叫ぶ声がする。
ごめんね、聖女様──
俺は、王とか王の血族なんてどうでもいいんだ。
キャサリンが守れて、キャサリンが幸せで、キャサリンのそばにいられたらそれだけでいい。
キャサリンを愛しているんだ。
聖女様じゃない。
俺が......選ぶのは.....
ごめんなさい。
その考えがふっと頭の中で口にできた瞬間、俺はハッと目が覚めた。
◇
「キャサリン!!」
俺はガバッと起き上がる。
キャサリンは?
どこ?
怪我はない?
どこ?
「......起きたか?クルデラ殿。キャサリンの意識がない。どうしたらいい?」
目の前のアーサー王子は無傷で......
見るからにボロボロになって力なく、ぐったり首を傾けた状態でキャサリンはアーサー王子の腕に抱かれていた。
それを見て、カッとなり、頭の中でどうにもならない気持ちが爆発する。
「離せ!キャサリン!!!」
俺は駆け寄り、アーサー王子の腕の中からキャサリンを奪い、ぎゅっと抱きしめた。
「キャサリン!起きて!起きて!目を開けて!」
俺は震える手で何度も抱きしめて、繰り返し声をかけ続けた。




