44 両思いのテンプレ
はっ!
ガバッと起きようとするが、ダメだ。
またここからか。
布団の中にいる。
そして、ここは見慣れた神殿のベッド。
うーん、力が入らない。
いや、今回は違う。
ちゃんと目が見えてるからね。
ふふっ!私も、成長を感じるじゃないの。
というか、クルデラは?
クルデラ大丈だったかしら?
どこに......って!!
「わあああああああぁぁぁぁ!」
「目が覚めましたか?」
クルデラのドアップが私の横にある。
一緒に寝ている。
もしかして、勝手にいたされたのか?
いや、服は着ている。
着てるけど......なんだ!服を勝手に着替えさせられてる!
ああ、終わった。
クルデラが愛情を理解するまで大切にとっておこうとした貞操が......無惨にもR15に揉まれて、空想と妄想の世界の間で終了の時を告げたに違いない。
「何を目覚めたと同時にごそごそしているんですか?」
クルデラの呆れたような声が聞こえる。
呆れた声を出したいのはこっちよ。
「ええと、どこから突っ込もうかしら?クルデラが無事でよかった、あとは、クルデラの目が二つとも黒目ね。ということは、初代聖女はやっつけたわね。それが一番気になるわ。」
「そうですね。あなたにお礼を言わなくてはいけません」
「私だけの力じゃないわ。みんなよ。みんなに助けてもらったの。誓約の鎖をまだ切ってなかったのね。アレのおかげで、なんとか暴れるあなたを抑え込めたんだから」
「そうですね。知ってます。鎖は、あの日をもって、卒業したのでみんなとの鎖を全て断ち切り、誓約魔法は解除しました。」
「そうなの?でも、確かにもう使わないものね。」
私は、なんだかクルデラの表情が硬く、苦しそうな様子が気にかかる。
「どうしたの?クルデラも無事で、私も無事。あとはみんなにお礼を言って、初代聖女の遺体と神殿の解体に着手ね」
そんなことより聞きたいのは次の話題だ。
何でクルデラが私と一緒に布団に入ってるのよ。
この距離なんだもの。
そういうことよね。私の体を抱きしめてるし.....
そういうこと......よね?
言いにくいし、聞かないといけないわよね。
だが──
「みんなの記憶も、あの時のことは消して戻りました。暴れた後の教室も復元魔法使いました。」
「へっ?そうなの。ああ、でも確かにそうしないとダメよね。あなた、アーサーに向かって攻撃するんですもの。不敬罪になっちゃうし......」
私はみんなの記憶がないことに少しがっかりしたが、同時に納得した。
「みんなにお礼を言えないのは申し訳ないけど、みんなの気持ちには感謝しないとね。
鎖とは関係なく、みんなクルデラを助けるために......」
「違います!」
クルデラは私が話す言葉を遮った。
へっ?
「あなたをみんな助けたかったんです。あなたは、みんなから愛され求められてます。アーサー王子も、あなたのことを求めてるんです。」
クルデラは、私のすぐ横で悲しそうな、真剣な顔で、そして申し訳なさそうに話す。
「記憶を消してしまったのは、不敬罪のせいじゃないです。俺を裁ける人なんていない。魔力を封じる道具すら、俺がみんなに作らせているんですから......」
「へえ、そうなの。クルデラって魔術師なのに神殿にずっといるから神殿長みたいと思っていたのよね。」
「神官も浄化魔法が少しだけ使えるので、その指導を......」
「ああ、それでなのね.....」
なんというか、会話が進まない。
何で今日はこんなにべったりで、元気がないのかしら?
何か私がいない間に......
はあ、やっぱり結局アレよね。
服着替えさせられたってことは脱いでるんだし......
魔力が枯渇したからやっちゃったパターンかしら?
それで私に怒られると思ったのね。
もう夫になるんだから、諦めるか...
いやキャサリンの初めてを知らない間に奪われたなら叱り飛ばさないと...
「キャサリン...」
暗く低い声で、クルデラが私を呼ぶ。
「俺の......わがままです。みんなのところに、行かせたくなかったんです。アーサー...王子の元にも......」
「はい?みんなって、みんな色んな人と両想いになってたし、アーサーともお別れしたの見たわよね」
しっかり別れのシーンまで見せたのにまだ私とアーサーが両思いだと思っているのかしら?
そこまで一人になることの不安感が大きいのかしら?
「意識が戻った時、アーサー王子はあなたを抱きしめていました。俺が......あなたを奪いました。その時のアーサー王子の記憶も...消して、去った場所に戻しておきました。」
クルデラは抱きしめながら、私の背中を撫でる。
ええと......これはどう突っ込もうかしら?
まるでアーサーに嫉妬してるように聞こえるけど、なんでかしら?
「私を今抱きしめているのは...クルデラよね?アーサーはおそらく、抱きしめたんじゃなくて、倒れた私を介抱しようとしただけじゃないかしら?」
「それでも嫌だ」
クルデラが叫ぶその反応に、思わずギョッとして聞き間違いではないかと疑う。
「嫌?!あなたからそんな言葉が出たのは初めてよね。」
どうしちゃったのかしら?
初代聖女が体からいなくなって、色んなことにどう反応したらいいかわからなくて、いつも以上に不安になったのね。
きっとそうだわ。
「ふふっ、大丈夫。そっか、みんなの記憶を消しちゃったのね。今回は仕方ないけど、みんなの記憶をいじるのはだめよ。体に良くなさそうだし.......それで...その抱きしめるなんだけどね」
「だって、キャサリンは体の関係はダメって言ったし、魔力が少しでもうつるかもしれないし.....体もボロボロだけど、魔力通せないし...」
クルデラが急にモジモジし始めて、再びぎゅっと私を抱きしめる手に力を入れる。
先ほどから力をぐいぐい入れられるので苦しい。
だが、聞き逃せない重要な言葉が...
「体の関係はダメっていうのは...ちゃんとそれは守ったということ?」
「嫌がることはしない。」
ぷいっと顔を横に向ける。
おおっ!それはクルデラ、成長したじゃないの。
作業だと思ってるのに、ちゃんと同意が必要と理解するなんて、一気に進歩したわ。
「そうなんだ。偉いじゃないの。ははっ、ごめん。服を着替えさせてたからちょっと疑っちゃって。でも私の裸は......みたわよ...ね?」
「見てません。ちゃんと下着やタンクトップもそのまま着させたままです。」
へ、へぇ。
制服の下なんて、校則にのっとって、色気もへったくれもないしね。
なんだ......そっか。
本当に、ちゃんと私の言いつけを守ったのね。
クルデラは耳まで赤くしている。
そして、まだもじもじしている。
へ?
なんなの?この反応は?
「クルデラ......あなた何隠しているの?はっきり言いなさい。初代聖女の思考が抜けたと言っても、様子が変すぎるわ。」
「ひとつ...だけ、嫌がることをしました」
クルデラが首元に額をつけて、体を離さない。
今度は顔も見えない。
一つだけ?
どこかしら?
何触られたかしら?
クルデラはわかってないけど、すでに同じ布団に入ってだきしめているのすらアウトだからね。
魔力を移すとか、なんとか言ってごまかしてるけど。
でも、これよりアウト...なのかしら?
「あの日、魔力暴走して魔力を通せないから転移魔法が使えなかったんです」
クルデラの声が、私の耳の下でくぐもって聞こえる。
「それはそうよね。前回も魔力暴走後は魔力を通せないからって言ってたし。馬車の準備してないし、どうしたの?私をおぶって帰ったの?」
それは考えなかった。
みんなの記憶を消したなら、誰かの馬車に、事情を話して乗るのも無理だろう。
「馬車は神官にすぐ連絡をしたので、待てばちゃんと手配できました。」
それを聞いてホッとする。
「そう、それならよかった。ずっと抱っこは大変だったでしょう。」
「いえ、魔力暴走はしていましたが、呼吸も安定していたし、少し傷があるのは心配してましたけど......でも...幸せな時間でした。」
「幸せな...じかん?」
「卒業の日に大きな木の下に行けば、カップル成立なんですよね。だから、俺、待ち時間に連れて行きました。あなたを抱っこして.......みんなと同じように。
嫌がられても......あなたに口づけをしました。だってみんなそうしていた。そうしたら、両思いになれるんでしょう」
「えっ!クルデラ??」
クルデラから両思いになれるって言われたんだけど?
聞き間違い?
「たしかに、あのテンプレはそうだけど両思いよ?クルデラが私を好きじゃないと...ああ、ええと、好きっていうのは、肉が好きとかの好きじゃダメで、あなたが意味がないと思っている愛しているの方よ。」
「....,..はい。愛してるんです。
アーサー王子にわたしたくないし、木の下でキスして両思いになって、俺のそばにいてくれるならって。
嫌がるのはわかってます。でも、そうしたらパターンだから逃げられないんでしょう?あとはキャサリンに俺を好きになってもらえるように頑張ったらいいんでしょう?今回はパターンを壊してないって、そう言ってましたよね?」
私は思わずその返答に真っ赤になり、同時に自分を好きだと意識した後、そういう行動に出たクルデラが可愛くて仕方なくなる。
このタイミングでいうしかない!
「そうね。ねえ、じゃあ、こうなったら、もう結婚しかないわね。」
「結婚!」
クルデラは、驚いて私の埋めた首筋から頭を上げて、目をぱちくりさせている。
よしっ!ちゃんと反応した。
結婚に意味をちゃんと見出したじゃないの。
ただし...
「あら、その前にここを解体よ。初代聖女の遺体もちゃんと燃やしてね。私、嫉妬深いの。好きな人の前の女の遺体がそばにあるなんて許せなくてよ」
私がそういうと、「好きな人の...」クルデラは呟き、目に涙が浮かんでこくこく頷く。
「ふふっ、よろしくね。」
私たちはそのまま、目を合わせ、深く口づけを交わしあった。そのまま、長い夜に突入するかと思ったが...
「さすがに風呂に入るわ。でも、今日からは世話させてあげる。そうね、私も世話してあげたいし、一緒にお風呂に入ろうか?あなたも相当臭いわよ」
そう言ってお互い笑い合った。




