42 最後の戦い
クルデラは、色のあった部分すら再び色を無くしたような、まるで生きていないような表情に乗っ取られて、自分の意識と抗っていた。
時々、頭を振り乱し、床や壁に自分を傷つけながら、私の方に向かってくる。
綺麗な身なりも、クルデラのいつもの香りもしない。
「やばいわ」
アーサーも見送り、みんなとの誓約魔法も解除してもらって、完全に孤立無援、そして武器もない丸腰。
「このままじゃ、私、やられてしまうわ!」
わたしは渾身の魔力を高くあげた右腕に溜め込み、氷の球を作り、クルデラ方向にぶっ放す。
「雪合戦のイメージですよ」
そう言いながら、クルデラが魔術のコツや攻撃の仕方を教えてくれていたのだ。
だが、教えてくれた彼は歴代長寿の魔術師団長、氷玉なんて、作った先から溶かすか、あたる手前で消失する。
クルデラの周りには、防御魔法が貼られているのか当てた球がむしろこちらに戻ってくるので、迂闊に攻撃もできない。
机やドアで、その氷玉を防ぐと、バキバキバキと嫌な音が鳴り響く。自分の氷魔法はそこそこ攻撃力が伴ってきており、当たったものを凍らせ、破壊する。
「これが...当たったら」
そう思うと、怖くてもう攻撃できない。
「これは詰んだわね。」
下手したら、死ぬ。
いや、下手したくても死ぬ!
「とりあえず...逃げる!」
私は教室から走り出す。
でも、クルデラから繰り広げられる魔力の矢は、窓ガラスがどんどん割っていく。
地面が抉られ、その破壊された破片が自分に向かってびゅんびゅん飛んでくる。
「どうするのよ!クルデラ!クルデラってば!」
「ぐああああああっ!殺す!王も...聖女も!」
頭を抱えて獣のような叫び声をあげて、しゃがれ声で喚き散らす。
「これは、クルデラの声じゃないわ。」
背中から汗が滴る。
逃げようとしていたのに、全く逃げられる気がしない。
「クルデラ!戻ってきて!私がいても、あなたが私を殺したら、あなたの元に帰れない」
クルデラの本来の黒目が、時々戻り、苦しそうに瞬きする。
逆に初代聖女の思念が残った目は、赤く鬼のように、般若のように光る。
「これはとんでもない聖女様だわ。」
私が使えるのは氷魔法と、聖女の浄化魔法、そして回復魔法。クルデラが使えるのは全属性魔法。
付け入る隙なんて...あるの?
クルデラが何か詠唱を始めている。
へっ?
なんか大量の光が矢の形になって私に向いてる...
向いて...る??
「うそーーーーーっ!」
その光はどんどん大きくなる。
「ぎゃああああああああっ!みんな!みんな戻ってきて」
わたしは強く願う。
ああ、明日鎖を切って貰えばよかった。
なりふり構わず逃げる中、握りしめた手に...あれ?違和感がある。
「手に鎖が......みえる?」
切ったはずの誓約の鎖が、だんだん光を放ち明確に見えはじめる。
わたしはその手に光り始めた光を思いっきり引っ張った。
「みんな!助けてっ!」
ぐいっと引っ張った鎖からは───
ドンドンドンッ
「いってえ!なんだ!」
「うわあああああああっ!キャサリンなんだよって?なんだこれ!」
「えっ!クルデラ様!」
鎖の先には、アーサー、クルト、トーマス、リリー、トーマスの仲間たちなどが総勢8名。
とつぜん首を引っ張られ、荒れた教室に振り落とされるように投げ出される。
「みんな、まだ誓約切られてなかったの?良かった!クルデラが、初代聖女の思考に乗っ取られてる」
「えっ!」
みんな獣に化したクルデラを前に慌てる。
「王の血筋......許さ...ぬ」
「アーサー、あなたはダメ!初代聖女は王の血族に拘ってる」
私はアーサーの前で手を広げて、アーサーを守りに入る。
それこそ、クルデラがアーサーを攻撃したら、不敬罪で死刑にされてもおかしくない。
「クルデラは物理攻撃に弱いの。前も近距離なら浄化が効いたから。トーマス、みんな、なんとか抑え込んで。怪我させてもオッケー!後でどうとでも治せる人だから」
「わかった。」
先ほどから気づいていた。
「防御......魔法を...私にかけてくれていたの?」
クルデラの攻撃がわたしの元にくる10センチ前で落とされる。それなら、わたしはアーサーを守りながら近づく!
激しい光線がガンガン飛んでくる。
それを、アーサーに向かわないようにひたすら受け止める。
目の前で防御壁が割れる音が何度もする。
いつのまにクルデラはこんなに守る壁を作ってくれていたんだろう?
「でも、あなたが攻撃していたら意味がないじゃないの!トーマス!私が攻撃を受けている間に抑え込んで!」
トーマスや仲間たちは、これから騎士団に所属する鍛えられた男たちだ。
私に攻撃し続ける初代聖女の支配されたクルデラにそっと後ろから近づき、地面を一斉に蹴り飛びかかる。
だが、その瞬間
ドシャッ!!
みんな一斉にクルデラが作り上げる強風に煽られ吹き飛ばされ叩きつけられる。
「オールヒール」
わたしは手のひらに力を集め、癒しの力を吹き飛ばされたみんなに解き放ち、彼らの傷が癒やされるように力を注いだ。
傷ついた体はみんなみるみる間に回復していく。
「すげえ!」
誰からともなく歓喜の声が上がり、白い暖かい光が床全体を照らし出す。
「キャサ...リ...」
暴れていたクルデラが、その光に目を細め、うめきはじてる。
今だ。
私は走り出し、激しい魔力の攻撃の中、クルデラの防御魔法に守られ、無傷でクルデラに飛びつく。
それに合わせて、みんなも慌ててどんどん飛びつき、みんなで押さえ込む。
「クルデラ!見て!」
わたしは大きな声で叫び、上からのみんなの抑えられる圧の中でクルデラに叫び続けた。
「ここにいるから!帰ろう!一緒に帰ろう!一緒にいよう!初代聖女から離れて。あなたが共にいるのは、私でしょ!」
クルデラの獣のような呻き声は、攻撃的なままだ。
わたしはクルデラの顔を掴み、再び至近距離でクルデラの目を見つめる。
「クルデラ!こっちむきなさい!
お前の主人は、初代聖女じゃない!お前を愛しているのも初代聖女じゃない!クルデラの唯一無二は私よ!キャサリンでしよ!」
浄化する。
これで、私の目が見えなくなっても、絶対浄化してやる!
「手...つか..」
クルデラの声だ。
クルデラが手を使えと自分に抗って声をかけてくる。
戦っているのはみんなだ。
私は再び手に魔力を最大に集める。
クルデラを掴んだ顔をつたい、目、髪、体、手足が、激しい光に包まれていく
全力で、全細胞、全魔力、全体力を使って浄化の光を解き放つ。
「最大...出力っ!」
私は体から放出する魔力を全て浄化に変えるんだ!
「消えろ!初代聖女!クルデラを......わたしのクルデラをかえせっ!」
そう叫んだ瞬間、目も開けられない光が弾けた。
私の意識も、力も、前と一緒。
みんな一斉にその光に当てられて....
「キャサリン!キャサリン!」
みんなが呼ぶ声が聞こえたけど、クルデラの声が聞こえない。
「クル......デ...ラ?」
クルデラが目を覚ましたら、おかえりって言ってあげたいのに。
よく戻ってきたって、
初代聖女に負けなくてえらかったよって
しっかり褒めてあげたいのに.......
「ど...こ...」
私は、再び魔力が暴発してそのまま意識を失った。




