36 絶対一線は超えません
静まり返った生徒会室で、私は一人クルデラを待っていた。
先ほどの会話、アーサーへの別れにこれで良かったのよねと、私の中にはもういないキャサリンに声をかける。
そして、リリーから最後に思わぬヒントをもらい、少し未来がひらけた気持ちがあった。
リリーが、別れ際に気になることを言ったのだ。
「聖印が分離してるっていうのが、そもそも物語にはなかったの。でも、以前話したようにR18な世界じゃないんだよ。普通に恋愛を楽しむ学園が舞台なの。
わたしがやってた世界はどれもそんな内容だった。だから、一線を乗り越えなくても済む方法はあるんじゃないかしら?」
リリーは、なんとか状況を打開する糸口を探そうとしてくれていた。
自分が、天国でリアルゲームをしているのだと思い込み、アーサーとキャサリンの二人を別れさせてしまった。
そんな後悔があるのだろう。
でも、アーサーに伝えたことは私の本心だ。
そこだけは揺らがないだろう。
だからそれに気づかないフリをして、リリーの話を聞いた。
「リリーが話していたじゃない?見せてない、隠されているだけで、R15は、やったとわかる世界観って」
「だからそれを逆手に取るのよ。やったんだろうと思わせてからのやってないが、絶対あるはず!」
そう必死に訴えるリリーに、なるほどね...その手があったわと私も気づく。
「たしかに.....ね。リリー、あなた冴えてるわ」
明らかに一線を超えてるけどそうみせない。
それがセオリー。
それなら、同様に、超えてそうで、越えてない物語があってもおかしくはない。
「アーサー、あんたが想像する超えてそうで超えてないってどんなのよ?」
「ええっ!例えば、二人の服は床に落ちたけど、その下にはガッツリ着込んでいる...とか。二人交わってそうに見えて、布団の下では離れているとか...唇は触れそうなところで終了とか......」
「わかった。それをガッツリ全部試していくわ」
ひっ!
二人が息を呑むのがわかる。
「あのさ、俺、君の話を聞いたけど、まだ婚約破棄するっていってないよね?」
「何言ってるの?あれで別れの言葉は終わりよ。リリーがいいヒントをくれたじゃないの。これから急いで数日以内にいい人を王たちに見繕ってもらって、大きな木の下で未来の妻と愛を語らいなさいな。」
私は最後通告を突きつける。
「私の人生に、アーサーはいらないの。貴方の同意なんて必要なくてよ。この忌々しい目をさっさと治して、神殿解体して、初代聖女を叩きのめしたら、クルデラが悪いことしないように見張りながら、私は人生を謳歌するわ。
もちろん、死ぬまでに二度と召喚されることがないシステムを王になったあなたとクルデラに作らせるからそのつもりで...」
そう言って私は二人を生徒会室から追い出した。
これでいい。
キャサリンごめんね。
私は貴方の代わりにここで生きる。
だから、アーサーはここで切るわ。
そして大きなため息をついた。
「クルデラ?いつまで隠れて聞いてるつもり?」
私は空に向かって声をかける。
「気づいてたん.....ですか?」
私の目の前に人の気配がする。
そして嗅ぎ慣れたクルデラの香りがする。
香りまで閉じ込める隠密魔法、すごいわね。
さすが宮廷魔術師団長だけはある。
「貴方のことだもの。聖女に手厚い癖は抜けないでしょう。
リリーたちと引き合うまでは目を離せないでしょうし、引き合わせたら引き合わせたで、私がどんな話をするのか気になるでしょうし......話が終わったら、どうせここに私を一人に放置することなんて出来ないでしょ」
「深い意味はないんですけどね。でも、邪魔はしませんから、アーサー殿とイチャイチャしてもよかったんですよ?今までだって、初代から続く歴代聖女の激しい世界しか見てないんですから、アーサー殿なら初々しいものです」
「それは嘘でも席を外すと言ってちょうだい。まったく」
全く悪びれない。
おそらく、それらの行為が本来なら愛情を伴うものなのだという感覚がないのだ。
初代聖女に対して恋心を抱いていたのは確かだろうが、そこからその恋は愛に変わる過程がなかった。
それなのに、初代聖女は自分を盲目的に愛していると勘違いした。
それが彼女の誤算か......
「聞いてたなら早いわね。帰って、やることに似せたことをとっとと試すわよ」
「やることに似せたこと......もうやっちゃえば良くないですかね?何度も言うように、私は呼吸をするように問題なく遂行できますけど」
クルデラは、どうしても私が守る一線に納得できないようだ。
「やらないわよ。やってたまるものですか。愛してた男に騙されて、違う世界に来ただけでも不幸なんですもの......そうね、クルデラに愛とはなんなのかしっかりみっちり教えてやって、しかも一線を越えられない体験をさせてやりたいわね。それを次の楽しみにしましょうか?」
私はあははっと笑い始めるが、クルデラは疑問に思ったように少し考えて答えた。
「うーん、愛って必要でしょうかね?初代聖女だって、王様に恋しなければ、騙されて賢者の石を飲み込む必要なんてなかったんですよ」
「えっ?今なんて言った?」
私は、重要なことを聞いた気がして聞き返す。
「だから初代聖女は、国王を愛したんですよ。でも相手にされなかったそうです。ですが、死の間際になって、この国の聖女がいなくなるのは困るから、自分を本当に想ってくれるなら、自分の代わりに永遠にこの国を守ってほしいと言われるんです。」
「なんですって??そんなの、永遠なんて......愛する人もいないのに?なんて残酷なことを?」
「残酷?なのかな?わからないけど、初代聖女は王に見返りを求めなかったって。
俺もその初代聖女と同じだから、自分の代わりに永遠の命と聖女を絶やさない役割を引き受けてくれと言われただけだし.....」
クルデラは、なんてこともないように話し、それを疑問に思わない。いや、思わないように感情を壊されている。
だって、そんな理不尽、普通は、生きていくのがしんどくなるわよ。だって、ずっと永遠によ。
「俺思ったんだけど、初代聖女は王を愛していたけど、最後は長く生きることが苦しくなったようだった。ここに来た聖女たちは、お気に入りはいても、誰かと最後まで添い遂げたものたちはいなかった。
俺は初代聖女に対して愛だと思っていたけど、歪で愛じゃなかったから、賢者の石が砕けてくれた。それなら愛なんてないほうが幸せだと思うな」
そういわれてしまうと、つぎのことばがでない。
更に衝撃的な言葉が続いた。
「神殿は解体するって君が言うし、アーサー王子とも別れるならこれで歴史も終わりだろうけど、歴代の王たちは、ちゃんと王妃がいたくせに、神殿で聖女と体の関係をもっていたけどね?」
「な、なんですって?それは、いつから?」
「ええっ!いつからかな?初代聖女の時からずっとだよ。前のダリア聖女だって、まだ若かった時には王が来ていたよ。アーサー王子の祖父になるかな?あっ、でもこれは内緒だよ。とにかく、愛がなくても問題はないよ」
それを聞いて、初代聖女の見えない怒りと苦しみ、呪いのようなものを感じていく。
自分をこんな状況にしたことに、初代聖女が恨みを持って、王の子孫である王族に近づいたのか?
王族が浮気がバレないよい場所だと神殿を利用していたのかわからないけど......
私とアーサーだって、ずるずる、友人以上恋人未満で関わって、私がハーレム作ってしまったら、行きずりでそんな関係になってもおかしくない。
ここで断ち切って正解!
まだ、アーサーが純情だったから助かった。
私はほっと胸を撫で下ろし——これでよかったのよね。
やはり、自分の判断に迷いはなかったと思うわ。
そう息を吐いた。




