35 お互いのための別離
その後、散々、色々あった入浴については、ご想像通りの
見た!見てない!
触った!触ってないの大騒ぎ。
おおまかには割愛。
とりあえず、貞操は守った状態で、
私の要望通り学園生徒会室にクルデラに転移で連れてこられた。
「これなら、最初から転移魔法使ってリリーたちのもとに連れてきてくれたら良かったじゃないの!」
そう叫ぶと、
「だから魔力を極力通したくないんだってば。今日だけ特別だからね。俺は、周辺に魔物が溢れ出してるらしいから、すぐに片付けてくる。いい子にここにいるんだよ。逃げても、聖印を追えば分かるから逃げないように」
そう言ってクルデラは去っていく。
これがクルデラの地で、本来は魔術師業務が主だったのだろう。
以前は聖女の守り神のようなうさんくさい仕事しか見ていないので、宮廷魔術師があなたの仕事だったわね。と思わず言いそうになる。
「無事......じゃなさそうですね。キャサリンさん、大丈夫ですか?やっぱりみんなの反対を押し切って神殿に行った方が良かった」
生徒会室にリリーの叫び声が聞こえる。
「何かをされたというわけではないの。クルデラは操られてたから、挑発して、魔力をぶっ放して倒そうとしたら、魔力が暴発しちゃってね。」
「そりゃ、クルデラに喧嘩をふっかけようとした方がおかしい。命が良くあったよ。だけど、その目と首の包帯が気になるんだが...」
アーサーの心配そうな声が聞こえる。
その包帯の下はどうなっているのか?
もしかして、目が見えないのか?
聞きたくても聞いてはいけないんじゃないかという雰囲気を察知して、私はリリーとアーサーの二人だけには、今までのクルデラが置かれた環境や初代聖女に支配された過去、賢者の石のことなど、洗いざらいすべてを話すことにしたのだ。
「それは......王たちは知っていることなんだろうか?」
アーサーは何もクルデラのことも聖女のことも知らなかったのだろう。
召喚のことすら、婚約者の私のことがあって説明を受けたようだが、召喚をすることは国王とクルデラのみしか知らない。
国王も、クルデラが召喚すると言えばただ頷くしかない関係で、力のある魔術師が、国にとって必要な聖女を確保して、保護しているという感覚だったようだ。
「神殿の解体をするから、王には今までの経過を伝えると言ってたわ。その前に、二人に話をしたいと私が望んだのよ。」
私は一息ついて、二人を呼んだ経緯を説明する。
「この目も、首の内出血も、私が完全な聖女になれば治ることよ。ただ、その方法が体の関係になるというとね...」
「当たり前だ!君は俺の婚約者だからな」
アーサーは困惑の声を隠さず、自分の知らないところで、自分の婚約者がクルデラによって怪我をさせられていただけではなく、一線を超えてもおかしくなかった環境に激昂する。
「すぐ王宮で君の面倒を見るよ。神殿は聖女の居住地という感覚だった俺が馬鹿だった」
歴代の聖女たちはみんなそこに神官や魔術師のハーレムを作っている。それは、潔癖なアーサーにとっては驚くべきことだったようだ。
だが、アーサーが思っているように、全てのみんなが神殿をそんな場所だと思って見ていただろうか?
王や周囲のものは、知っていて知らないフリをしていたんじゃないかしら。
良くも悪くも純粋で真っ直ぐなアーサーのことが少し心配になり心が痛んだ。
少し斜に構えて、人を疑い、過去のリリーや初代聖女のように心を弄ばれないようになってほしいと願ってしまう。
「アーサー、神殿ってね。聖女は女なのに、神殿に出入りするのは全員男なの。それがこの国では長い間当たり前だったの。これだけ貞操に厳しい貴族の世界で、それがおかしいということはわかるわよね。
だから、私は、この国のものではなく、偏見がないリリーに私の身の回りを頼もうとしたの。うまくはいかなかったみたいだけどね。神殿がハーレムだって、本当に誰にも知られてないのかしら?」
えっ?と黙り込むアーサーの雰囲気に、困ったようにリリーが話した。
「その.......多分、表向きにはアーサーの反応の通りだと思うの。でも、トーマスや騎士たちの間ではいかがわしい想像が語られていたみたい。
私が、キャサリンの身の回りの世話のために、神殿に来てほしいと頼まれた時にトーマスから止められたのよ。
神殿は男性ばかりで、かつては聖女と男性が体の関係をもつための施設だった噂もあるって。キャサリンが急に世話をしてほしいとお願いをしてくるのはおかしいし、危ないって」
「へぇ、あの馬鹿、成長したようでしてないわね。私が、神官を食い散らかす女に見えるのかしら?全く」
でも、リリーを守ろうとしたところだけは買うけど...
おかげで風呂も着替えもこっちは大変じゃないの。
「おかげさまで、目は見えてないけど、貞操は無事よ。クルデラも全く私には関心がないので、助かっているし、神殿も解体する方向で動くから想像のようなことはないことは断言するわ。ただね......」
私は、一息ついた。
これはキャサリンが望むことではないかもしれない。
だが、もうキャサリンはこの体には戻ってこない。
アーサーは、私を王宮で面倒見たいというけどね......
私とアーサーはそれぞれの道をもう歩かないといけない。
「卒業近いでしょ。明確にしたいと思ったの。
アーサーは、私やキャサリンに申し訳ない気持ちでいるのかもしれない。でも、今の私は目が見えないし、仮にそれが治ったとしても、貞淑が求められるアーサーの婚約者にはなれないのよ。
すでに、みんながなんとなく知っている相応しくない場所に住んで、一線を超えないまでも別の男性と生活を共にしているの。」
アーサーもリリーも、私の言いたいことがわかったのだろう。
「で、でも.......それは」
リリーの悲痛な声が聞こえる。
「アーサー、あなたが傷つけたキャサリンはもうこの世には戻ってこない。同じようなことを繰り返さないようにしてほしい。だけど、このキャサリンの体にいる私と義務感で結婚する必要はないの」
「義務感だなんて......俺は、君と出会ってから支配下に置くと言いながら全く支配しようとせず、優しい君に支えられたし、この国にわけもわからず来てしまった君を支えたいと思っていたんだ。」
アーサーの震えるような声が聞こえるが、首を横に振った。
「アーサー、今度はあなたと共にこの国を支えてくれそうな人を選ばないと。私は、この国の被害者よ。この国に必要と言われる聖女を求めるために、人権を無視して連れてこられたの。だから、この国を支える気持ちにはなれない。
そして、本人は自覚していないけど、この国や初代聖女に歪められたままのクルデラも放置はできないわ」
仮に聖女の完全な力を回復させたとして、クルデラの中にいる初代聖女との戦いも残っている。
初代聖女の遺体も燃やしてしまおうと思っているのだもの。
今度こそ戦いは無傷には終わらない可能性が高い。
「今日呼んだのは、貴方ときちんと婚約破棄の話がしたかったから。その上で、私の大切な友人として、リリーや貴方たちから、クルデラと体の関係にならない方法で初代聖女をやっつける方法を考えてもらいたいの」
そう言い切った時、二人からは重苦しい沈黙が流れた。
「アーサーとキャサリンの関係は私も責任があるから.......二人には、一緒になってほしいという思いは勝手ながらあるの。だけど、二人が決めることだから......」
リリーは申し訳なさそうな声を出した。
そして、私の手に触れる。
「あのね、テンプレが壊れまくった世界だけど、壊れてなければ卒業にはイベントがあるの。卒業式のあとに学園の大きな木の下にいくとね。自分に好感を持った人たちが現れるの。そして、聖女の力を持って、その中の人から一人選んで魔物たちの戦いに勝つとハッピーエンドで終わる話になるんだけど、卒業だけでもその木の下に来ない?その後ゆっくりどうするか考えて......」
「リリー、私はクルデラとハッピーエンドになると言っているわけじゃないの。今の希望としては、一人で生きていくと決めてるわ。ただ、あの状況を放置するのは危険だと思ってるの。
それに、そんなイベントがあるならアーサー、なおのことちゃんといい人を探しなさい」
私は二人にはっきり告げた。
「卒業をもって、私の犬にすると宣言した者たちの鎖を外すわ。好きに生きていって良くってよ。ただし、もう一度ふざけたことをしたら、その時は今度こそ、本物の犬として躾け直すけどね」
そういって見えない目で二人に向かってにっこり笑った。




