355話 魔狼の森の主フェリルとの会話 -しっかりと受けますね-
ライラの周りに婚約者が大集合です。
「おめでとう!」「本当に良かった!」「これで婚約者仲間」「お祝いのスイーツを作らないと!」「一〇人まで後二人ね」「領都に戻ったらパーティーだよね」「関係各所に連絡をしておかないと」
「有り難う! みんな! これからもよろしく!」
婚約者達のお祝いの言葉にライラは目に涙を浮かべながら何度も頷いていた。そんな様子を微笑ましそうに眺めていた亮二はだったが、いつもと違う表情で婚約者達が近寄ってくると少し後ずさった。
「な、なに? どうしたの? なんか補食されそうな気分になったんだけど……」
「では。婚約者を代表して私が発言させていただきます。ライラに渡したのを私達にも作って下さい!」
爽やかな笑顔で要望を述べてきたエレナと後ろで一斉に頷いている婚約者達に、亮二は首を傾げながら質問をする。
「えっ? 首輪が欲しいの? なんでまた?」
「いえ。首輪の方ではなくて、リボンが欲しいのです」
「そっか。そりゃそうだな。首輪な訳がないよな」
メルタの発言に亮二は苦笑しながら納得すると、ストレージからミスリル鉱石を取り出すと次々とスキルを使ってリボンを作り始めるのだった。
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「せっかくだからリボンを作るだけじゃなくて、魔力を注いで魔道具にしよう」
「えっ? 魔道具にするんですか?」
亮二がリボンに魔力を注ぎながら呟いていると、一同から困惑の声が返ってきた。そんな婚約者達の困惑した表情をみた亮二は軽く説明を始める。
「魔力と親和性の高いミスリルでリボンを作るんだからいいかなと思ってさ。だから突然の危機に自動的に防御魔法が発動するようにして、ほどいてから魔力を流すと鞭になって攻撃が出来るように作ったよ」
「なるほど。ドレスなどを着て身動きが取れない時リョージ様の魔力が守って下さるわけですね」
エレナが代表して感想を述べると亮二は嬉しそうに頷いた。
「そう! その通り! 俺が居ない時でも守るから、ちゃんと持っていてよ」
「当然です。リョージ様からもらった物ですから大事にしますよ。突然の危機にも守ってくださるなら肌身離さず持っておきますね。そう言えば私の剣は大事にされすぎて、ご先祖様の装備と一緒に宝物庫に収納されてしまいましたね。……ちょっと思い出した事があるので、お父様と少しだけ話をしてきます」
亮二の言葉にエレナは当然とばかりに話していたが、自分のレイピアが宝物庫に強制的に収納されたのを思い出すと、急に無表情になると父親であり国王であるマルセルの元に向かう為に転移魔法陣に向かった。
「手加減してあげてよ! サンドストレム王国にとって大事な王なんだから」
「たぶん大丈夫ですよ? エレナは昔からギリギリのところで手加減が出来るはずの娘だと私は思ってますから」
「それって完全に主観的な意見だよね? 駄目だよ! エレナ! ちゃんと手加減するんだよ!」
亮二の言葉が耳に入っていないようで、勢いよく馬車の中に入っていくエレナを見ながら自国の王であるマルセルの冥福を祈るのだった。
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「じゃ、じゃあ。全員にリボンは持ったよね? エレナには後で渡すとして。ライラの話なんだけど……」
「ん? 僕の話? 丁度良かった。もうすぐお母様がこっちに来るって」
エレナの後ろ姿を見送った亮二が気を取り直してライラに話しかけると、嬉しそうな顔で返事がやってきた。首を傾げながらライラの母親であるフェリルが来るとの意味を確認しようとした亮二に、護衛の隊長が血相を変えて飛び込んできた。
「リョ、リョージ様! 大変です! 後方より巨大な砂埃が! 見張りの兵士によると巨大な魔物がこちらに向かっているようです。私達が時間を稼ぎますので奥様方と転移魔法陣で領都にお戻り下さい!」
「その忠誠心は称賛に値する。だが、あの砂煙には心当たりがあるから安心したらいいよ。魔狼の森の主が、こっちに来てるだけだから。でも警戒は怠るなよ」
兵士の決死の表情を満足気に眺めながら、亮二は隊長に対して事情を説明すると通常の警戒態勢に戻るように伝えた。
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「この姿で会うのは久しぶりだな。リョージよ」
「ああ。そうだね。いつもの人間形態じゃないのは急いでこっちに来たから?」
狼の姿のままで話すフェリルに、亮二が質問をすると犬歯を剥き出しにして笑いながら答えた。
「その通りだ。ライラから番になるとの連絡が来たのでな。魔狼の森の主としては今後一族を率いる者の力量を確認しておかないとな。一族の掟だから気にせずにじっとしておいてくれ」
「へえ。戦わなくてもいい感じだね。じっと見るだけでなにが分かるんだ? ひょっとして威圧してるのか?」
目の前の魔狼の主であるフェリルから威圧を感じた亮二は、逆に威圧を掛け始めた。時間にすると三〇秒ほどだったが、徐々にフェリルの体勢が低くなり最後は伏せの状態になった。
「リョ、リョージよ。試練は合格だから威圧を解いてくれ。全身から汗が吹き出てくる」
弱々しい声に亮二は威圧を解くと、ストレージから紅茶とスイーツを取り出してフェリルにくつろぐように伝える。
「ちょっと休憩でもしようか。メルタ。紅茶を淹れてくれる?」
「はい。畏まりました。それにしても凄いですね。魔狼の森の主であるフェリル様を屈服させるなんて。それも威圧だけで」
感心しながら紅茶の準備を始めたメルタから称賛を受けた亮二が、他の婚約者達からも話し掛けられていると人間形態になったフェリルが椅子に座った。
「それにしても恐ろしい男じゃな。六〇〇年も生きてきて威圧で屈服させられるとはな。思わず腹まで見せるとこだったわ」
「はっはっは。それはぜひ見たかったな。大型魔物を従えるのもテンプレだからな」
メルタの用意した紅茶を機嫌よく飲みながら話している亮二を見て、フェリルは椅子から立ち上がるとその場で跪いて頭を下げた。
「我、魔狼の森の主にして王族種でもある大きな顎を持つ者フェリルは、一族郎党全てリョージ=ウチノに忠誠を捧げる事を誓う。ライラと一緒に一族も可愛がってくれ。妾の操は別の者に捧げておるので伽は出来ぬが、それ以外は喜んで従おう」
「伽なんて必要ないぞ! だが、大きな顎を持つ者フェリル及び一族の忠誠はしかと受けた!」
亮二は跪いているフェリルに声を掛けて忠誠を受け入れるのだった。
完全に王族種と一族が配下になりました。