308話 出陣前の一コマ -出発前にもなにか有りますね-
やっと出発出来るようになりました。
亮二とアンデルスとが分かれて進軍するために城門に集まっていると、留守番役のマデリーネが見送りにやって来た。今回の作戦は王国主導で行われる事が決まっており、白竜騎士団は帝国民と一緒に街に残ることになっているのだった。
「マデリーネ姫。帝国民の不安が出ないように目を光らせて下さいよ。凛々しい姫騎士の活躍を期待します」
「分かっています! 姫騎士の名に賭けて帝国民を守ります。それにしても五百名も残して頂いて大丈夫なのですか? これから戦闘も控えてるじゃないですか」
亮二の掛け声にマデリーネは心配そうな顔を向けてきた。三千名が滞在中の街の治安は今のところ悪くないが、避難が長引くことで不満感が徐々に出始めていた。その為に諸侯軍の五百名を警備と魔物からの防衛として残す事にしたのだった。
「ああ。大丈夫ですよ。王国軍が我が物顔で居ては不安になるでしょうから、マデリーネ姫に全権を委任する事にしたのではないですか。後はよろしくお願いします」
「ご厚意に甘えさせて頂きます。お預かりする兵士達は責任を持って指揮しますのでご安心下さい」
貴重な兵力を割いてまで帝国民の心配をするアンデルスに、マデリーネは感謝の気持ちを込めて頭を下げるのだった。
◇□◇□◇□
「出発する前に、マデリーネ姫にはこちらを渡しておきますね」
「これは?」
亮二が軽い感じでマデリーネに袋を三つ渡してきた。不思議そうな顔をして受け取ったまでは、中身について質問すると亮二から笑顔と共に答えが返ってきた。
「帝国民への食材が入っています。半月分は入ってますから安心して下さい。そのアイテムボックスにはスイーツが色々と入っていますので、疲れたら食べて下さい。あっ! 留守番役の兵達の分は別で渡していますので大丈夫ですよ」
「さ、三千名分の食材が半月分もこの中に? えっ? 王国兵の分は別? すいーつ?」
軽く受け取った袋がアイテムボックスである事にパニックになっているマデリーネに、アンデルスやマルコ、ユーハンなどは同情の視線を向けていた。マルコは苦笑を浮かべながら一緒に見送りに来ていたケネットに中身の詳細を伝えると後を託すのだった。
「よし! 出発する……「お兄ちゃん!」」
ようやくマデリーネの硬直が解けたのをのを確認した亮二が、出発の掛け声を上げようとしたタイミングで賑やかな集団が亮二の元に駆けつけてきた。
「おお。昨日の子じゃん。どうしたんだよ。見送りに来てくれたのか?」
「がんばってね!」「お兄ちゃんどこいくの?」「ぼくもいっしょにいく!」「しんえいたいがんばる!」「カレナちゃん! おともだちいっぱい! しんえいたいにはいってくれたよ!」
「ちょっと待った! 親衛隊? カレナリエン? 説明を熱望する!」
見送りに来てくれた幼女軍団をみて、亮二を含めて和やかな雰囲気が流れていたが、亮二が最初に話しかけた幼女の台詞に目を剥きながら慌ててカレナリエンに説明を求める亮二だった。
◇□◇□◇□
「なにがですか? 問題無いですよね」
「いや! あるよね? 親衛隊を帝国まで流行らせないで! しかも、小さい子供になにを教えてるの!」
キョトンとした顔で問題ない事を伝えてきたカレナリエンに、亮二は立ちくらみを覚えながらもなんとか踏みとどまり詳細な説明を求めた。
「だって、この子達は最初は愛人になるって言ってたんですよ? そっちの方が駄目ですよね? いくらリョージ様が若いと言っても、舌足らずな子供が愛人なんて駄目じゃないですか。噂くらいなら問題無いですが、本人が『私はリョージ様の愛人です』なんて言ったら大騒ぎになりますよ? だからこその親衛隊です! 親衛隊なら『ああ。リョージ伯爵を応援しているんだな』となるのです! エレナと二人で草案を作って、メルタに推敲してもらったから完璧ですよ! 予算も付いているので活動も順調です!」
「ちょっっと待ったぁぁぁ! 予算! 予算って何? えっ? なに? メルタも参加しているの? えっ?」
「そうなんですよ! メルタだけじゃなくてクロも、ソフィアもシーヴもライラも各要職について活動中ですよ! ちなみに予算は王家と高級貴族の皆さんから頂いていますから安心して下さい」
カレナリエンがドヤ顔で胸を張って一気呵成に説明した内容に、混乱した状態の亮二が思わず叫びながらツッコミを入れると、亮二が感動していると思い込んだカレナリエンは嬉しそうに補足するのだった。
嬉しそうな表情のカレナリエンを呆然と眺めている亮二を見て、マルコは事務的な表情を作ると全員に向かって号令をかけた。
「よし。じゃあ、リョージとカレナリエンの漫才も終わったから出発するぞ! 戦いになっても死に急ぐな! 生き残る事を考えていたら必ずリョージがやって来る! 内乱を片付けて凱旋するぞ! 留守番役のお前達も頼むぞ!」
「「「おぉ!」」」
マルコの号令に兵士達は轟くような鬨の声を上げると進軍を開始した。まだ呆然としている亮二を見ながらマルコは苦笑を浮かべると明るい口調で話しかけた。
「後は魔道具で定時交信をするからな。連絡したらさっさと応援に来いよ! では殿下行きましょうか。殿下?」
「ちなみにカレナリエンに質問だが、親衛隊は男子でも入る事は…… 痛ぃ!」
「ほら! 行くぞ! 王子でも関係ないからな! なんで叩かれて嬉しそうにしてるんだよ! 早く行くぞ!」
真剣な目でカレナリエンに質問しようとしたアンデルスにミスリルのハリセンを振り落としたマルコは、アンデルスの首根っこを掴みながら進軍を開始するのだった。
親衛隊…… えぇぇぇ……。