第35話 FLY AWAY
光る雲を突き抜けて摂理に抱きついた僕は空を飛んでいた。
ちなみにここで放されたら僕は死ぬ。普通に死ぬ。
…摂理がそのような事をしないとは思っているけれど。
ただ、抱きついて改めて思うのが、
摂理の身体は良く言ってスレンダーだ。
抱きついたのに身体に柔らかさをあまり感じない気がする。
特に胸部に。
…最近の摂理は本当に感がいいというか、
僕の思考をトレースしつつあるので、
今考えていることが知られてしまって、
本当に放されることが無いように今はこのどうでもいい考えは放置しておこう。
彼女はそういうところを結構気にするようだからね。
…特に、お母様との違いを。
―――――僕は、お母様以外の誰にも、完全を望まないというのに。
摂理は完全である必要は無い。
…確かに本物にいては欲しかったけれど、
僕にだって手に入らないものはある。
その唯一の失った宝物そのものが僕の全てだったから。
「ねえ摂理?」
「なっ何ですか?遥さん。」
「ひょっとして今話しかけたら危なかったりする?」
「そっそれは、遥さんがっ、私に顔をうずめたままっ、話すからっ、です。」
要するにくすぐったかったということだね。
先程から顔が赤かったのはそういうことだったのか。
「悪かったね。」
「いえ、何といいますか―――――――――――遥さん、見えました。
アレが、『バグ』です。」
アレが、『バグ』。
黒く、白く、朱く、蒼く、輝くようで、どこまでも昏く、
何処までも透明で、光を通さない。
うねる様に静かで、角張った真球体。
そして―――世界からこれ以上なく浮いている。
アレこそが、『バグ』。
凄く…大きいね。
「降ろしてくれ。」
「近くに寄ると危険ですよ。」
「摂理が判断する場所で構わない。」
「解かりました。」
そして、僕と摂理は少し離れた『バグ』から少し離れた場所に降りた。
「ありがとう摂理。」
「いえ、どういたしまして。」
「遥さん、アレを見てください。」
「アレ?……ああ、あの這空蛇か。」
『バグ』の近くを緩やかに飛行するモンスター這空蛇は、
バグに一瞬引き寄せられそうになった。
それでも何とか逃げようとしてもがきながら体を捻っていたところに、
『バグ』から紐のようなものが伸び寄って、
それは這空蛇に掠る様にしか届かなかったが、
それでも、這空蛇は一気に引き込まれていった。
「…喰われたのかな?」
「いえ、同化したのです。」
「同化?ではあの這空蛇はまだあの『バグ』に?」
「…1兆に1が合わさった所で全体から見れば変わりません。
ある意味喰われたというのが正解かもしれません。」
「アレは、放置していいの?」
「…放置するしかないのです。対処法がありません。
精々拡散しないように隔離するのが関の山です。
もっとかなり小さい物なら、自然消滅を促す対峙法がありますが、
この規模だと…。
『勇者』システムどころか、解放時の天使や世界でさえ、不可能です。
尤も、規模が拡大することは無いので、近づかなければ問題はありません。」
「それほどの、規模の『バグ』の原因に心当たりは?」
「以前も言いましたが、全く分かりません。
ただ、恐らくは、絶対厳守の最上位規約かと。」
「摂理が知りえない以上、摂理以上の世界の規約であることは間違いはないだろうね。
そして、それこそが―――――――――世界の切り札。
バグの発生以外に、僕に直接手を出してこないもう一つの切札。」
「何だと思いますか?」
「発生シークエンス無し、命中100%、範囲無制限、威力∞の何か、だろうか?」
「そんなものがあったら勝てませんよね。
流石にそんなことは―――――」
「別にふざけているわけでないさ。
それでも―――――僕は挑むよ。
僕に与えられた女性達で。」
「力及ばずながら、私も努力します。」
「力が及ばないなどといってほしくないね。
摂理も僕の重要な戦力だ。及ばなくては僕が困る。」
「はいっ。」




