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第36話 アンタに苦痛を持ってきた。それだけが生き甲斐なんだ。

「摂理、アレは『バグ』の幼生体ではないよね。」


「ええ、勿論違います。姿が似ているのは偶然です。

別に収斂進化でもベイツ擬態でもありません。」



「そうか、関連性は無いんだね。」


「この付近にいて、薄い黒の靄でできた球体を見れば、そう思う気持ちは理解できます。」



「僕の勘違いにフォローをありがとう。」


「その言い方は少し卑屈ですよ?」



「なら、改めるよ。」


僕達の前に現れたのは、薄い黒の靄でできた球体。

モンスター、苦痛生成器(ペインメイカー)。


「苦痛生成器(ペインメイカー)はその名の通り、

感覚に直接痛みを送り込んできます。

近づけば近づくほどその力は強くなります。

凡その生命体の天敵です。」


「で、倒すには?」



「倒すって、今の話を聞いてましたか?」


「近づくのが駄目なら、離れて攻撃すればいい。

摂理もそちらの方が得意だろう?」




「…私頼りでしたか。解かりました。

そちらの方が安全ですし、ね。

…えいっ。」


そう言うと、摂理は頭上の天輪を投げた。

天輪は真っ直ぐ見当違いの方向に飛んではいったが、

風に吹かれるように軌道を修正すると、

苦痛生成器(ペインメイカー)の中心を切り裂いていった。



「それ、そう使うんだ。」


「…他にはオシャレ以外に特に効果はありませんけど。」



「……天使のイメージが少し崩れたよ。」


「じゃあもっと壊してもらってもいいですよ。

遥さん専属の天使は私ですから、天使=私と思っていても不自由は無いのではないでしょうか。」



「それは困る。」


「えっ?」



「他の天使との戦闘も考える必要があるからね。

世界と戦うなら。」


「あっ、そういうことだったんですね。私はてっきり―――――

っっっっっあ”ぁ”ぁ”っっ。」



突如摂理の顔が苦痛に悩まされ体勢を崩して座り込む。

…もう1体いたのか。

摂理がいつもの様に顔を真っ赤にさせながらわざわざ恥ずかしいことを言い、

青くなったりホッとしたり、忙しそうに表情を動かしていたその直後、

近くの茂みから、もう1体の苦痛生成器(ペインメイカー)がいた。

いや、少し違う、これは、


「獄痛生成器(ヘルペインメイカー)。

まあいいさ。僕も遠距離攻撃ができないわけではないからね。」


そう言いながら僕は薙刀を投合した。

その刃先は真っ直ぐ獄痛生成器(ヘルペインメイカー)の核を貫いた、

筈だったが、大きく揺らいだだけで、獄痛生成器(ヘルペインメイカー)は再びそこで持ち直した。


「は るか さん、核は 脆弱 ですが、

霊格が 高く無いと、 効果が、 ありま せん。」


「苦しいなら喋らなくてもいい。

…有益な情報をありがとう、摂理。」



ポイントで作った上に多くの魂と血を浴びた僕の愛器(なぎなた)も、

それなりだとは思っていたけれど、獄痛生成器(ヘルペインメイカー)には届かなかったようだ。


この場で他に霊格を少なくとも薙刀よりは持ちそうなものは…。

――意外とあるものだ。


僕はゆっくりと摂理に覆いかぶさる獄痛生成器(ヘルペインメイカー)に歩みを進める。


「無理です 早く 逃げて くだ さい。」


「摂理、喋らなくてもいいと言ったはずだよ。」


歩みを進めるにつれて2次関数どころか3次関数的に痛みが身体を苛んでいくけれど、

問題は何処にも無い。


「はるか さ 」


「痛みを耐えるだけ。それだけでいいなんて簡易にも程がある。」

そう、ただ痛みを耐えるだけ。

ただそれだけで簡単に攻略できる。

お母様を失った空っぽの入れ物に幾ら痛みを詰め込もうと、

そんなものは何もなさない。


僕が痛い?

僕が苦しい?

僕の生存本能?

そんなことは―――――――


「本当に、どうでもいいことだ。」




獄痛生成器(ヘルペインメイカー)にあと数歩というところで、

肌の表面が裂けた。痛みが身体にフィードバックされたようだ。

これは流石に困るかな。


「摂理、後で再生させておいてくれるかな。」


「はる か さ ん あなた は…」

摂理が倒れ崩れ落ちた。

意識が遂に消えたようだ。


1歩、

更に1歩、

僕は足を前に進める。

獄痛生成器(ヘルペインメイカー)はゆっくり後退していくけれど、

その動きは遅い。

更に1歩前へ進む。


そして、

「お前に出来るのは嫌がらせだけか。

下らない。実に下らないね。

死ぬほどの苦痛程度では僕は死なない。」

僕の全(おかあさま)ては既に無い。


「精々、罠部屋での嫌がらせ程度がお前にはお似合いだ。

しっかり働いてもらうよ。

そこでならお前の存在もしっかり生きてくるだろうから。」

僕は、その核に手を伸ばし、

思い切り握りつぶした。










暫くして摂理が目を覚ました。下にはランチマットを敷いてある。

まさか、こんなことに使う羽目になるとは思ってもいなかった。


「大丈夫そうだね。」


「そこは、大丈夫?と聞くところではないですか?


…ふふふ、有難うございます。助かりました。

最近ヘタレな遥さんが多かったですけど、

今日はとてもかっこよかったですよ。


ですが、こうも思ってしまいました。

遥さん、貴方は本当に生き物ですか?」

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