外伝 とある勇者の軌跡 就職灼熱期
試験結果発表の日、僕達は貸家を引き払う準備をして会場に向かった。
ハミィアナさんはどうやら復帰の伝手が見つかったのか今日の朝に別れを告げた。
試験発表の時間にはギリギリ出来たつもりだったけど、
会場に向かうと14組しかいなかった。
恐らくはそういうことだろう。
果たして合格しているかどうかという心配はない。
最大3人のチーム全体で10体のモンスターを倒すという条件が有りながら、
2次試験を合格できるのは上位10『組』ではなく、
上位10『人』と言っていた。
だから、選抜の母数が14組と言えど、倍率は一気に高くなる。
勿論、Eランク昇進試験対策的なものをしっかりとしておいて、
過去の傾向をしらみつぶしに捜して研究して僕達と同じ解答を導き出した組も幾つかはあるかもしれない。
けれど、それでも勝てる様に大きくて重い岩を選んで持ち帰った。
仮にそれ以上の重量物をもってきた組がいたとしても、僕たち全員が受かるためには、
その組が3人編成なら2組までなら許容範囲だし、
2人編成の組なら、3組までが許容できる。
まあいいか、結果を待つだけだ。
昇進試験初日に受付をしていたお姉さんが告げる。
「ではこの時間を持って2次試験打ち切りを兼ねて結果発表です。
1位、ゼトリアス・アルベラティ
2位、リア・メスカリウス
3位、レイウス・バハムティア
4位、シャロン・ヤバッカ
・
・
・ 」
正直4人目以降は聞こえていなかった。
最後の最後で10位でキーワレが呼ばれていたのは聞こえたけど。
「以上です。
それでは皆さんの収納箱を回収します。
別に持ち帰っていただいても問題ありません。
後1日もたてばただの箱に変わりますので。」
時間制限があったのか。
まあ、そんな便利なものを貸与されるなら、
借りてそのまま猫糞するだけでもいい商売になるし、
妥当なものか。
Dランクになるとまた与えられるそうだけど、Dランクになると、
年会費とか払わないといけないからね。
正直そこまで金が有り余ってるわけでも、
頻繁にダンジョンに潜るわけでもないし、
もう二度と試験を受けることはないだろうね。
受付のお姉さんにカードを渡してランクを更新してもらう。
これで、晴れてEランクだ。
もうFランとは呼ばせない。
じゃあ、そろそろ帰ろうかな。
「お待ちなさい。そこの1位の少年。」
「…。」
こういう時に限って面倒くさそうな相手に絡まれるんだよね。
「ちょっとこのわたくしを無視するおつもりっ!?」
「あっ、僕の事?」
このまま無視して怒らせると面倒くさそうになるので仕方なく相手をするけど、
無視していたことを知られると面倒なことになるので気が付かなかった、という設定にしておく。
「あなた以外に1位の人がいて?」
「う~ん、何だか実感がわかなくて。」
「そうでしょうね。わたくしを差し置いて上位で合格する庶民が3人もいるなんて考えられませんものね。」
あ、この子結構嫌味そうなキャラだ。
でもお金持ちそうだからここは低姿勢でいよう。
「そうですね。」
「ええ、でもあなたが1位を取ったのは事実。
見込みがあるあなたには専属の従者にしてあげますわ。」
えっ、いやいやいや、僕は普通に薬草や花を売る仕事でいいよ別に。
その為に、試験だって受けたわけだし。
勉強だってしたわけだから。
此処は正直に話して興味を失ってもらおう。
「いや、ちょっとルールの裏を着いたわけで…。実はそんなにすごくは無かったり…。」
「では、どんな手法を使って1位をもぎ取ったのか答えなさい。」
あー語気が強くなった。
うん、親の金を使ったとは言え、自分で何とか頑張ってモンスターを倒した人には僕達のやり方は腹が立つだろうけど、
後でレイウス辺りがボロを出しても困るし喋っておこうか。
「かくかくしかじか。」
「なるほど、まるまるうまうまですわね……ってあなたわたくしを馬鹿にしているのかしら?」
冗談が通じない人の様だ。
仕方がないのでやり口を正直に話した。
どうせ、僕にはEランクの試験なんてもう関係ないし。
「成程、皆さんこういう方法だったみたいですわ。」
僕が喋っている最中に何度も声が小さいと指摘をして、
皆に聞こえる様に喋らせた挙句、この晒しプレイ。
リアさんがその横暴さにそろそろプッツン来そうだ。
ここ一番で気遣いができるレイウスが何とか諌めている。
やっぱりコミュ力的に彼はイケメンだ。
「この件は解かりやすく周囲に公開しておきますわ。」
挙句にこれだ。
そろそろリアさんがプッツンする1歩手前まで来てる。
そんな時だった。
「オレ達以外にもこういうことした奴が1人もいないなんてことも無いんじゃねーか?
なあ、お前達も合格してたよな、やってない? そこのお前は?」
レイウスがそう周囲に聞きこんでいた。リアさんが動く前に自分からアクションを起こしたのだろう。
すると、
「あ、あの、僕達もしました。」
そう言った2人組がいた。
「やっぱりあの受付の説明聞いてオレみたいにピーンときたのか?」
「え~と、7年前の年明けから3回目の試験内容と同じだったので、
弟と話し合って前々から考えていた内容を試したら合格できて…。」
レイウス、いい仕事だ。
ちゃっかり自分の手柄にしたことも許してやる。
それにしても、やっぱり試験対策組はいたんだ。
まあ、ある意味Eランクを取るという目的の為だけなら間違ってはいないけど。
「まあ、優秀な冒険者を選抜するという趣旨からは大きく外れていますわね。
このやり方はしっかり周囲に広めて、
試験官側がその対策を込めた課題や別の課題を用意して頂けるようにしておきますわ。
それと…レイウスだったかしら?」
「あ、ああ。」
割と融通が利かない代わりに公明な彼女に対して、
更にレイウスはいい仕事を無意識の内にしてくれていた。
「あなたわたくしに仕えてみる気はない?」
「えっ!?」
しっかりと彼女の興味を僕から掻っ攫っていった。
「抜け穴とは言え、それをあの場で思い付けたのでしょう?
その頭脳、欲しくなりましたわ。」
「え、いや、違うんだ…。」
いいぞ、レイウス。
君が惹きつけてくれている間に僕は帰るとするよ。
じゃあね、さよなら。
「それは、だな、あの、そうそう、
あそこにいるゼットって奴が考えたんだ。
段取りも細かい所も全部、そう、全部だ。なあ、リア。」
「え、うん、そうだったわね。」
ゼット、裏切ったな。
僕は君の事を命を助けあった親友だと思っていたのに、
その親友を犠牲にして自分は生き残ろうなんてなんて酷い奴だ。
君は人間的に最低な奴だな。
「じゃあそこのゼットと言う人、
私の従者にしてあげますわ。
理由は先程このレイウスに言ったのと同じ内容よ。」
「いや、僕は、ほら実家のお仕事が…。」
「このヤバッカ伯爵家令嬢シャロン・ヤバッカに仕える事より大事なお仕事なの?
あなたの家は。」
「いえ、そう言うわけではありませんが…。」
あ、伯爵家…。
これは敵に回したらいけない奴だ。
だから、こんな曖昧な回答になってしまった。
その隙を敵に畳み掛けられた。
「なら決まりね。
あなたには頭脳だけでなく、
私と婚約破棄したガレクス以上の冒険者にもなってもらいます。」
うわー、衝撃発言。
よりにもよって、元婚約者があのガレクスさんとは。世界は狭いな。
ほら、レイウスもリアさんも口を開けたまま固まってる。
「差支えなければそのガレクスさんの説明をしていただけませんか?
あ、あくまで基準として。」
「いいですわ、未練なんてものはもうないですが、
わたくしの元婚約者ガレクス・バハムティアは現在Bランクの冒険者で、
それまでの試験は全て首席で合格。
そして竜人の時期長としてクリアリプルス側に取り込むためにわたくしと縁談を汲んでいた男ですわ。
まあ、あなたたちのような有象無象とは似ても似つかぬ格が違う男ですわ。」
うわ~なんか未練が無いどころか、凄く未練たらたら感が凄い。
恐らくクリアリプルスに取り込まれることへの反発でなった現在の婚約者と弟を目にしてよく言ったな。
知らないって凄い。
それに同じ両親から生まれたレイウスを前に似ても似つかぬって…。
レイウス達の方を見れば、
またお兄さんの格下扱いを受けたことで場違いな闘志を燃やしているし、
流石にリアさんは気まずいのか僕が見て解かるくらいに冷や汗を書いている。
今日はダンジョンに潜る予定も無いので臼杵時の服を着ている。
そのせいで衣服が透けているくらいだ。…うん、Cはあるな。ハリもある。ふむ、エロい。
ある意味民族と国家の酷く政治的な場面に立ち会っている。
亜人独立国家ザイオンヒルとクリアリプルス王国。
そのどちらにも身を埋めていない竜人種の長。
ある意味今の宙ぶらりんな立ち位置のおかげで得られる利益もある。
釣られる前の魚じゃないとエサはもらえないからね。
その結果が、今代においても同種間の婚姻を選択、か。
その判断をシャロンさんとの婚姻前までに澄ましておいてくれれば今僕が被害を受けることも無かった筈だ。
救いは当事者の片側がまるで気づいていないことだ。
きっとガレクスさんを美化しているからなのかもしれない。
そう熟考しながらも僕の目線はリアさんの胸元から逸らさない。
何故かその視線にシャロンさんが気が付いたのか、
「あなた、少し胸が大きいからって薄着でアピールするなんて、わたくしに喧嘩を売っているのっ!?」
「喧嘩を売っているのはどちら様かしら?」
全く関係無い所に炎が飛び散っていった。
流石にリアさんもここでブチ切れたら収拾がつかない。
シャロンさん+リアさん>>>>僕+レイウス
という戦闘能力的な図式が簡単に出来上がる。
最早回収不可能だ。
僕とレイウスは互いに命を預け合ったもの特有のアイコンタクトによる直感で、
互いのするべきことを行うことにした。
「リア、その、オレはおっぱいが大きい方が素敵だと思うぜ。」
「バカッ!!」
レイウスはリアさんをなだめようとして1次試験を堂々と突破したハイキックでレイウスを蹴り飛ばし、
一方僕は、
「まぁまぁ、シャロンさんも標準はありますよ。」
「訂正しなさい。」
まさか、流石にリアさんはもしかするとDはあるかもしれない。あっ、冒険者ランクの話じゃないよ。一応。
そんな冒険者ランクなど霞む女性限定のランクを前にしてシャロンさんに巨乳だなんて言うのは、
あまりにも白々しくて口が裂けるような事態でもなければとてもじゃないけど言えない。
「…すみません。」
「いいわ。でも次からは間違えないことね。
ゼット、あなたは私の従者なのだから、シャロンお嬢様、若しくはお嬢様と呼ぶこと。いいわね?」
「あ、はい。」
一方僕は就職が決定した。




