外伝 とある勇者の軌跡 成果発表
試験会場の待合室に入り時間を潰して、
暫く待っているとレイウスとリアさんがやってきた。
「おはよう、ゼットさん待った?」
「どうせ今来たところだろ?」
「うん、二人ともおはよう。」
それとレイウス、
実際そうだったけど、その言い方はどうなんだろうね?
僕は偶に君が気が利く人間なのかそうでないのかわからなくなる時がある。
ま、いいや。
「じゃあ行こうか。」
一緒に試験官の所に行くとちょうど2人の男の人が受付を開始していたようだった。
そちらに向かうと僕達の前にはあのキーワレがいた。
なんとか生きてたんだ…。
キーワレが試験官の前で収納箱全開放すると、
10体の巨大なモンスターの遺骸が出てきた。
あれ、絶対誰かから買ったりしたんじゃないか?
そう思うけど、流石にそんな失礼なことは口には出さない。
僕達だって卑怯だと言えないことはないラインを渡るわけだし。
「おい、キーワレ、それ自分で倒したんじゃねーだろ。」
でも僕の横には口に出してしまう奴がいた。
「んだぁ? っててめぇかよっ。
てめぇらのせいで死にかけたんだ。
おい、聞いてくれよ試験官。
コイツらのせいで俺の友達がモンスターに殺されたんだ。
こんなやつら当然失格にするよな。」
しまった。こんなことになるのならハミィアナさんも連れて来ていればよかった。証人になったのに。
まあ、まさかキーワレが生きているとは思ってなかったから、仕方ないけど。
そうしていると別の試験官が口を開いた。
「…例え君がこのモンスターの遺骸をどのように入手したとしても我々はそれを問わない。
財力も権力も力であり、それを使いこなし結果を出したのなら問題ない。
結果を出した者には称賛があり、結果が出せぬ者には何もない。
君のお友達はモンスターを倒すという結果が出せなかった、ただそれだけのことだろう。
問題は何もない。
キーワレ・モノディス、計測は終わった。
収納箱に戻して帰っていいぞ。」
試験官のあまりとは言えあまりない言い方に僕達だけでなくキーワレも唖然としていた。
「ん? 君は検査終了したんだ。
早く向こうに行ってなさい。
次がつかえている。いいね?」
「あ、はい。」
キーワレは腑に落ちなさそうな顔のまま横に逸れた。
「次の組。」
「はい。私リア・メスカリウスとレイウス・バハムティア、
…え~っと、」
「ゼトリアス・アルベラティです。」
きっとリアさんはゼットさんとばかり呼んでいて本名を忘れてしまったんだろう。
まあ仕方ない。
「じゃあ、まずこれと…。」
レイウスとリアさんが風呂敷を下す。
その中には4体の髑髏草の遺骸だ。
収納箱に容れて持ってくることもできるとは言われたが、
別にそうしなければならないという話では無かった。
そして僕の収納箱から、
乾燥螻蛄×1
全色海芋×1
粘撒蒲桃×1
レイウスの収納箱からは、
混沌原生生物×1
陽光蘭×1
陽光現生生物×1
そしてリアさんの収納箱からは、
食蛇猫×1
毒蛇太郎×1
4体の髑髏草と合計して12体のモンスター。
規定よりも2匹も多い。
…加えて、
僕達の収納箱の全容量は1つにつき10個。
3人で30個。
収納箱から出したのは8体のモンスターなので、
残り22個。
その全てに取り敢えず大きそうな岩や、石像、
甲冑などを大量に詰め込んできた。
勝負の内容は、
『収納箱に入っていたものの合計の大きさと重さを総合』したものだ。
その総合値に髑髏草は含めれないけど、
比較的軽くて小さめの髑髏草なら別に除外してもいい。
恐らくかなりいい線に行くのではないだろうか?
なにせ『結果』は出した。
この試験は単純な戦闘能力で無く、
収納箱の内容物を増やすために仲間を2人集めるコミュニケーション能力と仲間を選ぶ観察眼。
必ずしも中にはモンスターを詰めなければならないわけではないという認識力、理解力、思考力を問われていたのだ。
その証拠に、
まだ部屋から出てなかったキーワレが、
「そんなの無しだ。そんなのおかしいぞ。」
と叫んでいるが、
試験官たちはかなり満足そうだった。
収納箱に持ってきたものを仕舞った後、
「まだ合格とは言えないが、期待していていいぞ。」
試験官の一人はそう言っていた。
その後にお金持ちそうな女の子とその護衛らしい人たちがやってきた。
頭に花を意匠した飾りを付けた女の子の装備は、
大紅団扇に、魔術的な加工がされたことが明らかにわかる高そうな花をあしらった軽防具。
「大紅団扇…。」
リアさんが少し羨ましそうに見ていた。
大紅団扇は大紅団扇草というモンスターを倒して加工することによってできる戦扇で、
切れ味、防御力を兼ね備えた上で魔法の伝達媒介としても優秀な軽量武器だ。
大紅団扇草自体は高位の冒険者が用意をすれば割と倒せる相手なので、
結構上位冒険者からの供給がある。ただ、値段は非常に高い。
うん、羨ましい。
何がうらやましいって女の子の方じゃなくてそんな高い素材をたくさん採って売れる人たちが、だ。
まあ僕は危ない事はしたくないけどね。
楽して安全に沢山儲けられる方法が有ればいいけどな、
……それはないか。
お金持ちだって皆運だけでお金持ちになった訳じゃないしね。
僕は自分に合った生活でいいや。
これでEランクを取ったら後は農業頑張るぞ。
と、思いながらその女の子を見ていたら目が遭った。
随分と勝気そうな目で、昨日の理知的な女の事が対比的に思い出された。
あの娘もきっと凄い冒険者なんだろうなーと思いながらぼーっと女の子を見ていると、
お金持ちの女の子は直ぐに試験官の方を向いて収納箱を取り出した。
「この伯爵令嬢シャロン・ヤバッカの成果をとくと見ればいいわっ。」
そう言って彼女は収納箱を開放した。
シャロン…、
ああ、なるほど、あの女の子の髪飾りと服装は薬草にもなる純潔無垢花か。
繊維産業にも有益な良く採れる毛木槿の近縁種で珍しいあの花だ。
そう言えばあの系統はダンジョン内ではモンスターになりやすいんだったな。実に残念だ。
あーでもすっきりした。何の植物だったかわからなくてむずむずしてたんだ。
そんな横では、リアさんが、
「ヤバッカ伯爵の娘!?
…良いうわさは聞かないわね。」
と漏らし、
レイウスが、
「…おい、あれ全部戦扇独特の切り口で仕留められてやがる。
もしかしてあれ全部一人でやったのかよ、…すげぇな。
護衛とか要らねぇじゃねーか。」
冒険者としては一番まともな感想を漏らしていた。
見えただけでも、
銃樹、
催淫萵苣、
口割鳳梨、
感電露草、
食蛇猫なんかが見える。
銃樹、
催淫萵苣、
口割鳳梨、
食蛇猫は大体森にいるから森のエリアに行ったんだろう。
食蛇猫はリアさんも倒していたみたいだけど、
普通は森に住んでる。洞窟にはあまり多くいるわけじゃない。
後は感電露草は山のエリアだろうから、
森のエリアである程度モンスターを倒した後、
一度何かしらの事情で戻ってもう一度ダンジョンに入ったら山のエリアだったか、
山のエリアで進んでいて不調だったから森のエリアに行ったんだろうか?
一応、森のエリアに感電露草がいないとは限らないけどさ。
因みにレイウスのお兄さんのガレクスさんの装備は、
感電露草の幾つか先の進化系である紫雷草から作った電気属性の剣だ。
以前聞いたけど倒す時は相当大変だったらしい。
雷を呼び込んで強化して来たり、
感電露草をまき散らして辺り一帯の雨でぬれた地面を電気が覆う、
『地雷』状態に変えたとか、
一体どう倒したのかは聞いてないけど凄まじい話だ。
更にその先の進化系があるようで、
僕に植物に特化したモンスター学を教えてくれたお爺さん曰く、
死殿草というモンスターもいるらしい。
叔母さんの師匠を殺して叔母さんに引退を決意させた理由の一つでもあるそうだ。
銃樹は弾芽の進化系で、割と正確に狙い撃ってくる銃枝樹と違い、
木の幹や枝に大量の鋭い種がびっしり構えられていて、
敵や獲物が近づくとかなり広い範囲に種を発射する危険なモンスターだと聞いている。
速度も凄まじく目では負えない程で、皮の鎧程度なら簡単に撃ち抜かれるらしいし、
種には毒まであるみたいだ。
おまけに再装填も早い
これに関してはどうやって倒したのかが非常に気になる。
後、催淫萵苣は近寄るものを薬効的、極少量だが魔法的にもエッチな気分にさせるモンスターだ。
しかもかなり大きめの個体だ。淫媚萵苣に進化する直前だろう。
死んだ今でさえその成分が空気に滲み出てこちらまで来ている。
どんな戦闘の末に催淫萵苣を倒したのかが気にはなる。
生きていた時には薬効成分だけじゃなかっただろうし、薬効的な効果も強かった筈だ。
僕はそういう所が見たかったわけじゃない…と言えば嘘になるね。
僕だって一応男だ。
隣を見るとリアさんも顔を赤らめて少しモジモジし初めているし、
レイウス君はそんなリアさんを見て真っ赤になりながらも目を離さない。
審査官のおじさん達もなんか息が荒いし。
そんな中斜め後ろからだとよく解からないけれど、
それを倒してきた女の子だけは平然としているように見えなくもない。
そういう耐性持ちなのだろうか?
試験官達が何かに耐えるような気持ち悪い声で審査を終えたので女の子は収納箱に出した者を戻して帰って行った。
横目で女の子の様子を見るもごく普通にしていて、
寧ろその護衛の方が気の毒そうだった。
体格のいい大の大人の男が耐えながらモゾモゾしているところなんて見たくないけど。
この場に暫くいると変な気になりそうだったので、
僕達もここを出ることにした。
まだここにいないといけない試験官のお二人にはご愁傷様だ。
試験結果発表までまだ日があるので、
その日の夜、食材を買いに市場の方に行くと、
試験場で見たおじさんが裏道の色街方面に全力疾走していくのを見た。
僕は薬草以外にも花も売ることがある。
いや、アブノーマルな意味じゃなくてごく普通のそのままの意味で。
で、顧客というか販売者に卸すというか、
色街で働く女性とあくまで僕の商売上で関わることがあるので場所はよく知っていた。
次の日、とても早いけど精力的な二人組が何人もの女性に金をばら撒いたという話を聞いて、
恐らくその事情を知っていて、
勢力旺盛且つ、結構お金を持っている男性も恐らく見当がついていたので、
少し所じゃなくげんなりした気持ちになった。
因みに、
レイウスは、超分解光花のツタ、若しくはヒゲ見たいなものは途中で贔屓にしている職人に加工を頼んで来たそうだ。
だから会場に来るのが遅くなったらしい。
それを聞いて逆に待たせることにならなかったので良かったなと、少しホッとした。




