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外伝 とある勇者の軌跡 ダメ男とその娘

SIDE Theophilus(至高の愛を受けし者)     ~姫宮雪花~



何、コレ…、どういうこと?

一体どういうことなのかしら?


何で、どうして、此処に『姫宮遥(おとうさま)』の因子が?

この少年には過去も前世も存在せず、

代わりに前神の痕跡と『姫宮遥(おとうさま)』の因子があるのかしらね。


くっ、これは、そういうことなの。

てっきり『未解除の罠』なんて潰しつくしたと思っていましたのに、

よりにもよってこんな悪質な罠を残していたとは、

いえ、それに今まで気が付けないでいたとは、

この姫宮雪花一生の不覚ですわ。


このような不愉快なもの今すぐにでも――――




ザッ、ザッ、ザッ。




足音が背後からする。

一体誰なのかしら。まあ、誰でもいいのですけどね。

結局視え方もやることも『同じ』ですし。


そんな疑問と嗜虐心を胸に、

振り向くと、

其処には情報体ではなく、しっかりとした人型がそこに在った。

お逢いしたことなど無い。

その人は私が産まれる前に死んだはず。


けれど、だからといって、

そんな理由なんかで見間違えるわけなんてない。


情報に歪む世界の中でただ一人はっきりとその存在を主張するその人は、


「お父様っっ!!」


「えっ?」


―――――――――――――――――――――――――――――


SIDE MAIN HEROINE(笑)           ~姫宮遥~


何か面白いことになっていそうな洞窟エリアの祠がある地底湖の場所にやってきたら、

お母様そっくりな女性がいた。背は小さいけど。


そしてその第一声は、

「お父様っっ!!」だった。


正直

「えっ?」

と答えてしまった僕は悪くはないと思う。


「お父様、生きておられたのですね。」


そう言って僕の背に手をまわして抱き締めてくる。

摂理、コレは浮気じゃない。雪花、お父様はそんな男じゃないんだ。

此処にはいない妻と娘に言い訳をしながら目の前の女の子に返答する。


「…いや、生きていたも何も、

死んだことは多分ないけれど。」


「? では、お母様が言っていたのは嘘だったのでしょうか?

はっ、すみませんでした。お母様、実はお父様と別れられておられたというのに、

それを正直には言えなくて、死別した、と。そう言われていたのですわね。

そんな事にも気が付けなかった雪花は悪い子です。」


彼女の家庭がいろいろ複雑そうなことは解かったけれど、

その前に何か、重要なキーワードを聞き逃していた気がする。


「…もう一度言ってくれるかな?」


「お母様が言っていたのは、―――

「いや、最後の所でいいよ。」


「雪花は悪い子です。」


せ・つ・か?

ははっ、僕達の娘と同じ名前だ。

……って偶然じゃないよね。

髪の色は摂理と同じだし。

目の色は僕と同じ。

それ以外はお母様と同じ。

というか、大体僕達の(せつか)と同じ…。


「一応聞いておくけど、ご両親の名前を言えるかな?」


「お父様、何の御冗談ですの?

まあ、お父様がそうせよというのなら別にいいですけれど。

お母様の名前は姫宮摂理。

お父様の名前は――――――――――――姫宮遥、ですわ。」



もしかしてこれは所謂未来から娘がやってきました、とかそう言うの話なのか?


「もしかして、だけど、未来からやって来たとか?

だって僕も摂理もまだこの時間では健在だよ。」


「それは有り得ませんわ。だって前神以外にお父様やお母様を害せる存在が思い浮かびませんし、

それにお母様の最期を看取ったのはこの私でしたのよ?」



「せつかちゃんの中では僕と摂理は何時頃死んだのかな?」


「お父様は神への敗北により消滅。

お母様はその報復の末の神からの蝕みによる損耗と、

復活しそうになった神に対する、その身を挺した逆位相封印による消滅ですわ。」



「え? 神とか僕が普通に封印したけど?」


「……え?」


あ、なんかこの呆けた表情は摂理に似てる。

やっぱり彼女も雪花なのか。


「そういうことでしょうか?」



それは僕が聞きたいところだけれど、

娘にばかり考えさせるのも父親としては何だかカッコ悪いし、

僕なりに仮説を出してみよう。



「雪花ちゃんは時間だけでなく、

別の平行世界からも移動してきたのかもしれない。」


「へっ、………成程。

お父様が神に敗北した分岐から勝利した分岐の世界へと移動してきた、と?」



「仮説だけれど、恐らくはね。

原因なんてものは解からないけれどリバースエンジニアリング的に、

状況証拠的からの分析としてはそのようなものかな。」


「っっ!! お父様、凄いですわ!!」


あー、やっぱり笑うと凄く可愛い。

摂理の可愛い所と摂理の綺麗な所を足して2で割ったような良さだ。

ん? それじゃ只の摂理になってしまうか。



「ところで、アレ、どうする?」


「アレ、ですか?」



「そう、アレ。」


「…悪意ある紛い物なんて要りません。寧ろ不要どころか不快ですわ。」



「まあ、暇つぶしくらいにはなりそうだけれど?」


「…亡くなったお母様にはお父様は日頃から油断し過ぎて、

それも死因に遠からず縁があったと聞きましたわ。

私としてはそのようなお父様の悪癖、

実際に目の前で見て、許すわけにはいきませんわ。」



……まあ、そうだけれどさ。

娘が生まれたら煙草や酒を止める父親ってこんな気持ちなのだろうか?

でも、悪意(コレ)は数少ない僕の愉悦だ。

「今回だけ、ね?」


「………もう、今回だけですよ。」



「記憶の処理だけしておこう。

彼は君に逢う少し手前から何も覚えていない、いいね。」


「あっ、はい。

そのように処置しておきます。」



アレが今代の勇者候補か。

――――――――――――――弱くて話にならない。

優しいとは聞いているが、ただ、それだけだ。

優しいだけなら一般人にだってできる。

ゲームの魔王が主人公の力量に応じた敵を宛がって成長させる気持ちもわかるよ。

破滅的なほどの張り合いが欲しかったんだろう。彼らも、僕も。


弱いものに興味は無くてね、

君には僕と戦う資格はない。

権利と言い換えてもいい。

僕と戦いたければ力を手に入れろ。

それが勇者の義務だ。


正直に言えば勇者たちの相手よりも、もっと相手をしたい人…いや天使…いや、今は神か。

まあ、平たく言えば摂理とか雪花とか雪花とかがいるからこの程度の事は、

今では、暇つぶしの暇つぶしの、そのまた暇つぶし程度の事に過ぎない。


でも、暇つぶしって、―――結構大事だよね?

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