外伝 とある勇者の軌跡 golden ax&silver ax
レイウスの身体に撒きついたのは、水中から伸び出した水草のモンスターだった。
「レイウスッ!?」
レイウスが引き込まれた方に咄嗟に駆け出す。
駆け寄った水面からは泡が浮かんでくる。
このままでは危険だ。
水中で準備もせずに入り込んで、
しかも既に息を吐き出して酸欠まで時間が無い。
先程穴に飛び込んだ時の杭を打ち込んでロープを巻き付けて跳び込もうとしたとき、
祠を挟んで反対側の湖からも水草のモンスター禍拿蛇藻が飛び出してきた。
しかもレイウスを掴むように巻き込んで。
「レイウス!!」
まさかそちら側から水中で回り込んで飛び出してきていたとは、
想像もつかなかったね。
もう少しで間違った方向へ危険を冒すところだった。
剣を構えて斬りかかろうとすると僕の背後からも水飛沫が立ち上った。
そこには、――――――――――――――いや、
そこにもレイウスがいた。
一体どういうことなんだ!?
混乱が最高潮に達した時だった。
祠が暗く輝きその中からどこか悍ましさすら感じる程、
何処までも澄み渡った声が聞こえてきた。
「あなたの記憶を代償に、ご友人を助けて差し上げましょう。
あなたが落としたご友人はこちらの強く、賢く、カッコいいレイウス少年ですか?
それとも只のレイウス少年ですか?」
祠から現れた、いや、いつの間に祠の前にいたのは、
蒼い髪を後ろに流した袴姿のこの世の者でない美しさの少女だった。
「あ、あなたは?」
そんな僕の疑問は一蹴された。
「…質問には質問で返さないで頂けるかしら?
お母様とお父様以外にそのような無礼、許した覚えはないですわ。」
何かよくわからないけれど、彼女がドSかつマザコン兼ファザコンっぽいのは理解できた。
というか、第一得体が知れない。
記憶が代償とか、モンスターを手懐けている様子だとか、
絶対『ヤバい』奴だ。
「質問の答えが無いのなら両方要らない…という事にしておきましょうか。」
「ちょっちょっと待って。
今考えるから。」
確かこれってよくあるおとぎ話じゃなかったっけ。
正直者が得をするとかいう戒めの入った。
「では15秒。それだけ待ったら帰りますわね。
10,9,8,7,6,5,4,3,2,1――」
「普通の。普通のレイウスで。」
「元々のレイウス少年でいいんですね?」
「ええ。」
「では、強く、賢く、カッコいいレイウス少年の方は捨てておきますね。
だって…要らないんでしょう?
そちらのモンスター、―――――――――――――要らない方を殺しなさい。」
彼女がそう言うと同時に心なしか若干レイウスよりイケメンそうなレイウスが、
禍拿蛇藻に締め付けられ、何やら折れるような音がした後、
苦しみながら泡を吹いて、そして水底に引き込まれていった。
唖然とする僕の方に、
僕が選んだレイウスの方が投げ出された。
受け止めるのにふら付いてしまった僕に対して彼女は言う。
「折角優秀なクローンを用意してあげましたのに、
そちらの不出来な方がいいだなんて変わっていますのね。
その少年の兄が落ちた時にはその父親は出来がいいのを選んだというのに。」
えっ? どういうことだ。
じゃあ、本物のガレクスさんは…!!
「おしゃべりはここまで。
じゃあ、代償を貰おうかしら。」
そこで僕の意識は途絶えた。
―――――――――――――――――――――――――
SIDE Theophilus ~神々の娘~
「さて、早速ですけど彼の記憶は…、
ってこれはどういうことっっ!?
記憶が、――矛盾している。」
転生した過去を持つことを自覚しているのに、
転生したと記憶している現在と転生する前の過去が重ならない。
そもそも、過去が存在していない…?
いえ、そんなはずはないですわ。
『アレ』しかないのでしょうか?
この程度の男の為にこの『力』を使うのは勿体ないと言えば勿体ないのですわ。
『アレ』を使えば、折角少しは抑え込めるようになった『力』にまた、暴走を許してしまう。
けれども、諺にもありますわよね。
『好奇心はネコを殺す。』『深淵を覗くものは深淵に覗かれる』って。
結局破滅の未来があっても、
誰もそれを逃れることはできない。
逃れようともしたくならない。
亡くなったお母様が手にした『創造』の力。
亡くなっていたお父様が持っていた『改変』の力。
私が手にしていた『破壊』になり損ねた『解析』の力。
本来は神の領域に片足どころが全身どっぷりと漬け込んだ力を、
高々人間一人に使うことでまたあの『嫌な世界』を見続けるのは御免ですけど、
何かが、何かが私に覗けと、
そう囁いている。だから、仕方がないですわよね。
因果と結果を同居させ、
無限と一瞬を同席させ、
最小で最大を分解させる。
「さあ、世界よその姿を顕わしなさい。
神眼、『領域解析』!!」
世界の遍くが最小の情報単位に切り替わる。
私以外の全てが只の形の無い文字列に成り果てる。
あの、『嫌な世界』。
地面も空気も生き物も無機質も誰も彼もが只の圧縮情報記号に成り果てる。
延々とそれを見続けさせられる気が狂いそうになる、
いえ、気なんてとっくに振り切れさせられたほどの苦痛。
「はぁっ、はぁっ。」
私を助けてくれる存在なんてどこにもいない。
お母様もお父様ももうどこにもいないのだから。
私、姫宮雪花は神殺しをやってのけたお母様と、
魔王であったお父様の血と迷宮を継いだ、
世界のただ一人の優越存在。
この苦痛だって、
この孤独だって、
高みにいる物なら耐えなければならない障壁ですわ。
…では、そろそろこの少年の全てを暴いて差し上げましょうか。




