外伝 とある勇者の軌跡 記憶喪失男とインテリ少女
ううん、此処は?
何故かベッドの上にいるし。
確か僕はレイウスがどうにかなって、
それで僕がどうにかしようとして…。
あれ、レイウスは…。
「おっ、ゼットも起きたか。」
…横のベッドにいた。
しかも全然元気そうだ。
「…生きてたんだ。心配して損したよ。」
「何だよそれ。でも、お前が助けてくれたのか?
ありがとな。」
「何の事?」
「いや、オレが水の中に引き込まれたのを助けてくれたんだろ。
最終的には迷宮の入り口の近くで二人そろって気絶してたらしいけどな。」
なんだよそれ、全く身に覚えがないぞ。
僕が水の中に引き込まれたレイウスを?
思い出せない。全く思い出せない。
何も、思い出せない。
「おい、ゼット!?
おいリアー来てくれ。ゼットが目を覚ましたけどようだけど変なんだ。」
「だい、じょうぶだ、って。
まだちょっと疲れてるみたいだ。」
「そっか。ならよかった。」
レイウスがそう言うと、ちょうどリアさんがやってきた。
「…大丈夫?」
「まあ、なんとかね。」
僕はそこでリアさんの後ろにもう一人誰かがいるのに気が付いた。
「あの、私、ハミィアナって言います。ありがとうございました。」
キーワレ達に襲われていた女の子だった。
名前はハミィアナと言うらしい。
服は当然ながら新調されている。
まあ、当然だろうけれど。
「いえ、特に僕は何かした訳じゃないしね?
ねえ、レイウス。」
「そうだな。ゼットはロープを垂らした位しかしてないな。
ん? そう言えば引き上げもやっててくれてたんじゃなかったか?
結構役立ってるじゃねーか。」
そう言う病み上がりのレイウスの物言いに間違いはないだろうけれど、
何でこんなに偉そうなのだろうか? まっ、いいけどさ。
「ところでリアさん2つほど質問していい?」
「いいわよ?」
「一つ目、此処は何処?」
「私達が借りてる貸家ね。
ほら、実家は少しだけ迷宮に遠いから、
迷宮に用事がある期間はこうやって貸家を借りてるの。」
実によく解かる説明だ。
「じゃあ2つ目。
試験終了まで後何日?」
「後10日間という所かしら?」
もうそろそろ時間が無いな。
「僕はもう一回ダンジョンに行くよ。」
「流石にそれは無理だろ。」
「ゼットさん、あなた病み上がりよ? 一応。」
大丈夫大丈夫。
「ちょっと岩を集めてくるだけだから。
リアさん達はそれっぽいものを用意しておいて。」
「解かったわ。」
「なあ、リア。それっぽいもんってなんだよ?」
「そうね、あなたの家にある石像でも片っ端から収納箱に詰め込みなさい。」
この期に及んでまだレイウスは試験の解答を理解していない。
「じゃあ、明日の今頃の時間に試験場に集合でいいかな?」
「いいわよ。」
「おう。」
というわけで、
取り敢えず僕は単独でダンジョンに向かい、
前回行った洞窟のエリアに行くことにした。
収納箱の空きスペースになるべく大きそうな岩を探して収納する。
そんなことを繰り返していると、一瞬何かが動いたように見えた。
…多分人型だった。
鬼、じゃないよね?
人型の化け物。
老若男女の区別なく残虐に殺して貪り尽くす恐怖の存在。
…違うよね?
そうやってビクビクしていると逆に帰って注意力が散漫になることはよくある。
今回もそうだった。
何かが僕の上を掠めていって別の何かにぶつかった。
「QUUEEE…。」
「コウモリのモンスターね。もう少し気を付けたほうがいいですよ?」
恐らく先程影の正体で、今僕を助けてくれたのは、
鬼では無くて理知的な少女だった。
「ありがとう。…ちょっとホッとしたよ。」
「そう言う気の緩みは帰ってからにした方が良いと思いますけど。」
「あ、そうだね。
いや、実はホッとしたのはこのコウモリの件でじゃないんだ。
失礼な話になるから止めておくよ。」
「その様子だとわたしをモンスターか何かだと?」
「…実はそうなんだ。君の影を見た時に『鬼』か何かかと…。」
「わたしが『鬼』? あなた面白い人ですね。」
「鬼みたいに角も生えてない普通の女の子でほっとしたんだよ。」
「…『鬼』に角が生えているってどこの情報なのですか?」
「もしかして…、遭遇したことあるの?」
「一応。」
鬼に出会って未だに生き延びているとは意外にこの子は凄い冒険者なのかもしれない。
そう言えば、投石だけでモンスターの急所にえぐり込むような威力と精度とはいえ倒してしまった、
いや、寧ろその速度と命中力が凄いという事なのか。
この女の子と話していると気分が高揚してくるけど、
あまりレイウス達を又しても悪いし…、
「また会えたらその時はよろしく。僕はゼット、君は?」
そう言って別れを告げた僕に彼女は、
「わたしはエルザ。あなたが生きていたらその時は宜しくお願いします。」
そう、答えた。
そこで僕と彼女は別れて、
彼女は奥深くへ、
僕はダンジョンの外の試験場へと向かった。




