第5話 バルストローネ女子中学校にて
デレクが部屋で勉強していると、ドアをノックする音がした。
「だあれ?」デレクが聞くと
「デレク様、ジョルジュでございます」
デレクはドアを開けてジョルジュを部屋に入れる。
「失礼いたします」ジョルジュは礼儀正しく一礼して部屋に入って来た。
「おじい様が見てるわけじゃないんだから、うちではそこまで
しなくていいのに」
「いえ、普段の習慣と言うものは何げないときに出てしまうものです。
それに、キャボット家のバトラーには何よりも品格が大事だと
ウィルソン様からも言われておりますので」
「ふーん、ウィルソンがねー」
デレクは、いつも祖父の後ろでとりすました顔で控えている
ウィルソンを思い浮かべた。正直ウィルソンがうちのバトラーだったら、
かあさんも僕も三日と持たないかも知れないな……。
「デレクさま、少々よろしいでしょうか」ジョルジュの言葉でデレクは
我に返った。
「うん、なあに」
「デレク様、デレク様は過保護すぎて妹に嫌われる兄になりたいですか?
それとも、頼りになる兄と思われたいですか?」
「そんなの、頼りになる兄、に決まってるじゃないか!」
「さようですか、ではライラ様とご一緒にバルストローネ女子中学校の
見学に行かれてみてはいかがですか?」
「学校見学?見学なんてできるの?」
「はい。女子中学校への理解を得るために、随時見学できるそうです」
「ふーん、そうなのか?ライラには言ったの?」
「いえ、ここでデレク様が学校見学にお誘いになれば、ライラ様も
お喜びになると思いましたので。それとも、わたくし……」
「いいよ、ぼくが言う!」
ジョルジュの言葉を遮ってデレクが言う。
「さようですか。ライラさまもお心強いことでしょう。デレク様、
高校生らしい服装でお出かけくださいますように」
「そういうもの?」
「はい。それがよろしいかと」
学校見学当日の朝。
「デレクお兄様、なんで制服なの?」
「え、だめだった?ジョルジュに制服がいいって言われたんだけど」
ライラは、ジョルジュはもう少し違うことを言ったのではないかと
思ったが、何も言わなかった。ライラは私服だ。
学校の受付で名前を告げてしばらく待っていると、「お待たせしました」
一人の女子生徒が現れた。
生徒はイリーナという名前で、生徒会長だという。
「あの、生徒の方が案内してくれるんですか?」
「はい、我が校は生徒が主なんです。ああ、でも先生もちゃんと
いらっしゃいますよ」
確かに後ろに教員らしき人物がいたが名乗りもしない。二人は、
来て早々化『自主独立』の風を感じた。
音楽室の前を通りかかると、音楽室から、透きとおったソプラノが
響いてきた。
「え、これってもしかして、オペラ?」
「ええ、よくお分かりですね。ロイエブルーでもオペラの授業が
あるんですか?」
「えっと、そうじゃないけど……。知り合いにオペラが好きな人がいて……」
「そうですか」
イリーナは微笑んでなにも言わない。
デレクは何だか恥ずかしくなった。
なんで制服なんて着てきたんだろう。
ジョルジュに高校生らしい服装、と言われて、他に思いつかなかった
だけなのに。
ライラが憧れている学校に、兄として負けたくない、と思った
からかも知れない。
伴奏はピアノではなく、ハープだった。
なんだか、すごいところだな、ここは。とデレクは思った。
見学が一通り終わって、二人は学生が使っているレストランに
案内された。食事時はさぞにぎやかなのだろうが、今は閑散として
静かな空気が流れていた。
「どうでしたか?うちの学校は?」
イリーナが二人に聞く。
「図書館がとても立派で驚きました。フレーヌ語の本もたくさん
あるんですね」
「はい。フレーヌ語は必須科目ですから。ライラさんは、本が
お好きなんですか?」
「ええ。私、図書委員をしているんです」
「そうなんですか、ではうちの学校の蔵書は読みごたえがあって
楽しめると思いますよ」
「お兄様はどう思いましたか?」
「ええと、授業のレベルが高くて驚きました。あの、ちょっと気に
なったことがあって……」
「どうぞ、何でも聞いてください」
「あの、寮生活のことなんですけど……」
「ああ、寮生活がご心配なんですね」イリーナは動揺もせずに答える。
兄と話すイリーナを見て、ライラはさっき言えなかった言葉を思い返す。
本当は、図書館じゃなくて、堂々と案内するイリーナが素敵だと思った。
自分もイリーナみたいに堂々と人の前に立てる人になりたい。
「キャボット家の娘」ではなく、ライラ・キャボットとして。
なれるかどうかはわからない。でも、目指したい。叔母は昔
『台風ノーラ』と呼ばれていたそうだ。思い立ったら後先を考えず、
すぐ行動してしまう人だったから、らしい。
だったら、私は『ネコの台風』ぐらいにはなれるかも知れない。
中学校の見学が終わりました。
次回は、家族全員での話あいです。
さて、どうなるのでしょうか?
ケインと出会うまでは、短い間隔で投稿する予定です。




