↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ケイト・グレインの記憶 ライラとケインの物語 第1部  作者: 藤花衣


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/4

第2話 リチャード・キャボットという人物

「大旦那さま、ライラお嬢様をご案内いたしました」

 本家のバトラー、ウィルソンが重そうな扉の前で声をかける。


「入れ」中から静かな声がした。

 ライラは一瞬、足がすくんだ。

 この扉の中に入ってしまったら、私はもうもとの自分では

いられない、そんな感覚が襲ってきた。


「お嬢様」

 ジョルジュが後ろからそっと声をかける。

 ライラは、絨毯から足を引きはがすようにして、何とか足を動かした。

「私は外でお待ちしています」

 ジョルジュの言葉に、ライラは不安を覚えたが、

「お嬢様なら大丈夫ですよ」というようにジョルジュがほほえんだ。


「失礼します」ライラはなるべく大きな声を出した。

 そうしないと、すぐに扉に戻って帰りたくなってしまい

そうだったのだ。

 扉が後ろでそっと閉じ、逃げ道がなくなった気がした。


「こんにちは。大旦那さま、ライラです」

「この家でわしを大旦那さまというのは、使用人だけだ。

おまえは使用人なのか」


「……失礼しました。リチャード様」

「まあ、好きなところに座るがいい」


 ウィルソンが紅茶とクッキーを出してくれるが、ライラは緊張していて、

口をつけられなかった。

「どうした。レイモンドの家では紅茶は出んのか」

「いえ、いただきます」


 ライラはゆっくりと紅茶のカップを持ち上げた。暖かさが

伝わってきて、少しほっとした。紅茶はやさしい味がした。

「家には何と言って来たのだ」

「……何も言っていません。体調が悪いので病院に寄ってから帰ると

言ってあります」


「ジョルジュに言われたのか」

「いえ、自分で考えました」

「ほう。少しは自分で考えることはできるようだな」


「今日は、リチャード様にご相談があってまいりました」

 なんとか声が震えないように、精いっぱい背筋をのばす。


 ライラがバルストローネ女子中学校のパンフレットを

おずおずと差し出す。パンフレットは図書室の倉庫を整理する

手伝いをしているときに見つけた。

 知り合いが司書の先生に持ってきたものだが、そのままに

なっていたのだ。

 パンフレットは3年ぐらい前のものだった。


 リチャードは、

『自主独立』の気風を大事にしている

 全寮制

 という文字が入ったパンフレットをしばらく見つめていた。


「この学校がどうかしたのか」

「私、この学校に入学したいのです」


 ライラは、リチャードに、将来は、キャボット家とは関係なく

生きていけるようになりたい。負担になりたくない、と

正直に話した。


「子供がそんなことを気にする必要はない。レイモンドや

ノーラが何か言ったか」

「いいえ」

「では、ほかのものに何か言われたか」

「……いいえ」


 ほう、とリチャードは少し眉をあげた。

 あきらかに二回目は本当のことを言っていないだろうが、

それを理由に泣きつきに来たのではないのか。

 ちょっとライラに興味がわいてきた。


「学校に入学したいのなら、わしではなく、

 レイモンドとノーラに相談する方がいいだろうが」


「叔父様はたぶん賛成してくれると思います。でも、叔母さまは……。

私が引き取ってもらったばかりのころ、私は一人で寝られなかったのです。

毎晩、叔母さまが一緒に寝てくださいました」

「今でもそうなのか」

「いいえ。今は一人で寝ています。でも、私が全寮制の学校に行くと

言ったら、一人で寝られなかったことを言われそうで……」


 リチャードは、少し考えるようにあごをなでていた。

「おまえは、どうしてもこの学校に行きたいのか」

「はい、行きたいです」

 今は、この言葉しか持っていない気がした。


「それなら、わしの答えを言おう」


「今回、叔母さんに何か言われそうだからという理由で

バルストローネに行かなかったら、今後なにかあったときも、

同じことになるかも知れないぞ。それに次に説得するのは

今回よりもっと大変になるだろう。だから、どうしても行きたいなら、

諦めずに説得することだ」


 ライラが帰っても、リチャードは書斎を動かなかった。

 部屋に夕闇の気配が漂ってくる中で、何かを逡巡するように

目を閉じていた。


 しばらくして、リチャードは口を開いた。

「ウィルソン、私立の中学校とは、学費がどのぐらい

かかるものなのだ」

「さようでございますね。学校によって差はあるかと思いますが、

120万ガリンから250万ほどでしょうか」


「ずいぶん、幅があるな」

「まあ、私立でございますから。全寮制となると、おそらく

後者に近いかと」


「ふん。負担になりたくない、というわりには、ずいぶんと

物入りになるではないか」

 それでも、リチャードの声は責める調子ではなかった。


「大旦那さま……」

「何も、怒っておるわけではない。負担になりたくないというのは

本音だろう。でも、子供だからな、費用にまでは考えが

およばなかった、ということだろう」


「では、お認めになるのですか?」

「わしは何も言わん。決めるのは、レイモンドたちだ。

まあ、ノーラを説得できるか、だろうがな」


「おまえは、ジョルジュとは連絡を取っておるのか」

「はあ、折々には」

「……そうか。あの男は、余計なことは言わんだろうな」

確認するように、リチャードはそう言った。



お読みいただき、ありがとうございました。

次回は、ライラの養父と叔母が登場します。

ライラは2人を説得できるでしょうか?


ケインが登場するまでは、なるべく間隔をあけずに

投稿する予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。