第1話 11歳ライラのお願い
ライラは、バトラーのジョルジュと車に乗っている。
行先は、キャボット本家。
会いたい人物は、リチャード・キャボット。
夕方というには少し早い時間だった。のんびりと、でも少しずつ
夕暮れがやってくる。
リチャード・キャボットは、養父レイモンドの父であり、
キャボット家の大旦那さまだ。ライラは両親を亡くし、
叔母ノーラと養父レイモンドのもとへ引き取られた。
叔父も、叔母も、義理の兄も、ライラには親切にしてくれる。
でも、「ライラはキャボット」ではない。
子供の耳にでも入る話がある。
資産家のキャボット家に養子に入れるなんて……
うちの子供とは、もう遊ばせられません。
あなたに万が一怪我でもさせたら、大変だ……
いいおうちの子になったんだから、
世界がちがうんでしょ?
おじょうさまとは、遊ぶなっていわれたから……
そんなことを思い出しながら、ライラは外の並木を眺めていた。
並木の影が、フロントガラスを流れていく。いつもは景色を
眺めるのは楽しいのに、今日はややくすんで見えた。
リチャードには、前に一度だけご挨拶したことがある。
ことさら大きな声を出すわけでもない。いばっているわけでもない。
でも、いるだけで圧倒されるような、『大きくて、怖い人』。
そんな印象だった。
できれば会いたくない人物だった。
ライラは、中学校への進学で迷っていた。
叔父は賛成してくれそうだが、叔母は反対するだろう。
義理の兄も反対しそうだ。
そんなライラを見て、バトラーのジョルジュが、
本家のリチャード大旦那さまに相談してみてはどうか?と言ってくれた。
会いに行くなら、本家のバトラー、ウィルソンから
伝えてもらえばいい。と。自分が大旦那さまに直接連絡しなくて
済むなら、とライラは連絡を取ってもらうことにした。
当日は、ケイト・グレインの絵本を、カバンに入れていくことにした。
両親が買ってくれた絵本は、ライラのお守りがわりだ。
そこで、今日会うことになったのだ。会いに行くことにはしたが、
本当に来てしまってよかったのかしら?
やっぱり、帰るって言った方がいいかしら?
スカートのリボンをいじりながら、ライラは答えの出ない問いを
続けていた。
「ライラお嬢様。そろそろつきますよ」
ジョルジュに声をかけられて、ライラははっとする。
もう後には戻れない。そういわれた気がした。
車から降りて、重い金属のノッカーをそっと叩いた。
音は思ったよりも低く、屋敷の奥まで響いた気がした。
すぐに品のいい男性が応答に出てきた。
「……」
「ライラお嬢様でいらっしゃいますね。お待ちしておりました」
ライラが名乗る前に、相手がたずねた。
ライラは緊張しながらも、「はい」と答えた。
「ジョルジュも中で少し休んでいくといい」
「ありがとうございます。ウィルソン様。では、お言葉にあまえて」
ライラとジョルジュは、キャボット本家に足を踏み入れた。
屋敷の中は、少しひんやりとした空気が漂っていた。声を出すと、
どこかに吸い込まれてしまいそうだった。
「おまえのような子供が何をしに来た」
家具が話せるなら、そんなことを言われそうだ、とライラは思った。
次回は、ライラとリチャードとの話あいになります。
さて、リチャードはライラにを何を告げるでしょうか?




