アクターズ「第九輪」-世界樹-
アクターズ 第九輪
試練まで残り3日。あれからタバコ葉の説明を受けたメビウスは、力と煙のどちらかに絞って能力を使いこなし、試練を乗り越えることに決めた。調葉師の少女とも相談した結果だった。
「あなたの今の『煙技力』では、まだまだ喫演者たちには歯が立たない。しかし、一時的に力を上げて戦う事ができれば、勝機はある。」
「あなたにいろいろなタバコを吸わせてわかったことがある。それは、今あなたが、70%のクラトス葉のタバコに耐えられると言う事。80%にした途端、一気に立っていられなくなってしまった。」
「あの時は驚きました。たった少しの比率の違いで、ここまで力が急に強まるとともに、使いこなせなくなってしまうなんて」
「だから、試練の際は70%の調葉で行こうと思う。あとの30%は、その煙量を向上させる負担の少ない葉で、煙技をサポートさせる。いいわね」
「はい。僕もそれで行きたいと思っています。」
「分かったわ。じゃあメビウス、早速修行の再開。ここらにある大岩、どんどん砕いていきましょうか」
「ええ...手が痛くなっちゃう」
「何バカなこと言ってんの!修行よ修行!」
「わかりました」
そうしてメビウスは、岩を砕く修行をひたすらにこなす事にした。手が岩を砕くたびに痛むが、試練を超えて北の国へ向かう為。そして何より、あの偉大なピースマンに一歩でも近づく為。修行は夜まで続いたのだった。
「ハアハア...だいぶ砕けましたが...体も砕けそうです...」
「この程度じゃ簡単に砕ける体じゃないわ。今日はもう頃合いね。また明日、ここで修行をしましょう。次は、ここら辺に生えている大木を引っこ抜く修行をしましょう。もう3日しかないんだから、休んでる暇はないわよ」
「わ...わかりました」
じんじんと痛む拳と体を引き摺りながら、メビウスは宿泊所へ調葉師の少女とともに向かった。ふかふかなベットが体の疲れを癒してくれる。そして、温かいお風呂が痛みを和らげてくれるのを感じた。
「ああ...天国ってこんな感じなんだろうなあ...」
メビウスはそう思いながら、ベッドであっという間に眠りについてしまった。すぐに朝がやってきた。鶏が騒がしく朝を告げている。
「もう朝か...」
そしてメビウスは今日も修行をするのだった。そこで、意外なことを調葉師の少女に言われたのだった。
「そういえば、昨日大岩を破壊する修行をしていたのだけど、70%の葉を入れても耐えられると言うことは、肺活量が結構あるみたいね」
「はあ、確かに前よりはちょっと上がったかも」
「タバコ吸ってて肺活量が上がるなんて、なんて皮肉でしょうかね。でも、強くなったのは確か。少し、『煙技力』も上げてみましょうか」
「でも、今のところ僕に出せるのは輪っかと煙の壁くらいです。他に『煙技』も知らないしなあ」
「ピースマンも言ってたでしょう。輪っかは基礎だって。でも、だからこそ応用が効くのよ」
そういって調葉師はタバコを懐から取り出すと、高速で輪っかを出した。
「みてなさい」
そうすると、輪っかは木へと向かっていき、そのまま木に大きな傷をつけた。細い木ではあったが、その木はもう倒れそうになっている。
「輪っかは、こうやって斬撃にも使えるのよ」
「なるほど...でも、こんなこと急にできるかな...」
「あんたは土壇場で『煙技』する力があるじゃない。あと2日でものにしなさい。あと、木が倒れたら切り株も引っこ抜くこと。いいわね」
「わかりました...でも大変そうだ」
「だーかーらー、何度も言ってるじゃない!そんなんだからあなた、70%くらいまでしか使いこなせないのよ!情けないやつ!」
「すみません...」
「なんだか頭に来た。いつもあなたは弱音吐いて、まともに『煙技』する力はまるでない。泣き言言うだけの『喫演者』がお似合いなんじゃないかしら?」
「今日はもう私は帰る。私にも試練はあるし。私だけ試練に通って、あなたは故郷に帰るってことになるんじゃないの?」
「...」
メビウスは何も言い返せなかった。心の中には言いたいことは色々と渦を巻いていたが、うまく言葉に直すだけの『演技力』さえ、今の自分にはないのだった。
「じゃあね。せいぜいそこで泣き言言ってたら?」
そうして調葉師の少女はそそくさと帰っていってしまった。残されたメビウス。じっと拳を見る。擦りむいた跡や腫れが痛々しく残っていた。
「くそ...!」
メビウスは悔しさをぐっと胸に押さえつけ、『煙技』である輪っかによる斬撃で細い木を切り倒し、その木を引き抜く訓練を続けた。しかし、ある事に気がついた。
「僕は受け身すぎて、言われた修行しかこなしていないじゃないか...!」
そう思うとメビウスは、見上げるほど高い木の前に立っていた。樹齢100年にもなりそうな大きな大きな木だった。
「煙技」
「煙技」
「煙技!!!」
何度もメビウスは輪っかを作り高速で吐き出し、木に傷をつけた。しかし、細い木と違い長年そこに聳え立っていた大木は、びくともしないばかりか、硬い樹皮に浅い傷をつけるだけだった。だがメビウスは諦めなかった。
「煙技!!!」
「煙技!!!」
「煙技!!!!!!」
徐々にではあるが、狙いに正確性が出てきた。浅い傷も、蓄積すればやがて切り込みになり、大木はその葉を次第にガサガサと揺らす様になっていた。
その晩ずっと、メビウスの声は森林の中で響き渡っていた。「煙技」の掛け声と、大木が葉を揺らすガサガサとした音が響き続けていた。そして、気がつくともう明け方になっていた。
「煙技...!」
メビウスは、もはや輪っかの形すらあやふやな、煙を吐き出す。そして大木に当たると、メキメキメキと大きな音を立てて、大木は自分の方に向けて倒れ始めた。
「もう、かわす力も残ってないや...ハハ」
メビウスはもう動けなかった。そこに、一つの声が響いた。
「煙技」
すると密度の高い煙の塊が自分の右側から飛んできたかと思うと、メビウスをしっかりと包み込み、あの巨木の倒れかかる衝撃を抑え、その軌道を逸らした。ズシンと音を立てて、巨木は倒れた。
「全部見てたわよ」
調葉師の少女がそこにいた。タバコを口元に咥えながら、微笑んでメビウスの方を見つめていた。優しい顔をしていた。
「名『煙技』、見せてもらった。あなた、やっぱりちゃんと見どころ持ってるじゃないの」
「見てくれていたんですか...!」
「何、これは調葉師の仕事の一つ。自分の巻いたタバコがどんな『煙技』の小道具になるか、見届ける義務があるわ。それに...」
「あなたはこの大木を、自分の力で切り倒してみせた。タバコを吸うあなたの手元はボロボロだった。それでも、夜通し岩を砕き続け、小さい木じゃなくて、この大木に立ち向かった。それが見れて私、ちょっと調葉師として嬉しくなったのよ」
「なんだか格好悪いですね...」
「だから」
「かっこよかったじゃんって!言ってるの!」
「はあ...」
「あなたに忘れないでほしい事がある。確かに試練はお互い別。目指す目標も違う。だけど、調葉師の巻いたタバコで、『喫演者』は最高の「煙劇」を披露する」
「だから、もう2度と、カッコ悪いなんて...情けないなんて言わせないで。」
「わかりました。僕、今度の試練は自分で乗り越えなきゃいけないって思ってました。でも今違うってわかった。2人で試練を乗り越えましょう。それで、北の国に行って目標は違っても、火種を燃やして自分の思う様に生きる」
「指切りしましょうか」
「はい」
「ゆびきりげんまん、嘘ついたら」
「タバコ千本のーます!指切った!」
「なんだか僕には、嬉しく感じちゃうなあ」
「やっぱり、バカね。でも、千本でも万本でも巻いてみせるわ。それが調葉師だからね」
「あはははは」
そう言って2人は、少しお互いの距離感が縮まったのをなんとなく煙の様にもやもやと感じながらも、宿泊所に向けて帰った。巨木の切り株は、あえてそのままにしておいた。
「大きい木の切り株からは、また新しい芽が出るでしょうから」
「あなたもその芽に、なれるといいわね」
ふかふかのベッドで眠りながら、ちょっとだけメビウスは泣いた。その涙を手で拭おうとする。
「涙が、手に沁みるや」
いよいよ明日は、試練当日。メビウスと調葉師の少女は果たして、試練に合格できるのか。
このお話を読んでいただきありがとうございます。喫煙者なものでしてタバコの銘柄の違いとか煙の技とかで戦う世界があったら面白そう!と思ってこの作品を描き続けています。
文章が読みにくい、こうすると面白くなる、などのご意見などございましたら是非よろしくお願いいたします。




