アクターズ「第八輪」-調葉師の本領-
上のイラストは、この物語に出てくる「調葉師」の少女です。
アクターズ「第八輪」
翌朝。ちょうどいい空き地を見つけたメビウスは、昔ピースマンから教えてもらった特訓内容を思い出しつつこなし、同時に新しい「煙技」の練習もしていたのだった。
「とりあえず、基礎の輪っか。安定して出せるようになってきた。煙壁も、縦横に出せるようにはなった。密度は低いまんまだけれど」
そうして冷静に自分の煙技の評価をするメビウス。ピースマンに教えてもらった煙技は、わずか二種類。応用を効かせても、せいぜい数種類にしかならないだろう。
「何か、強い煙技が思いつければなあ...」
そう思いながら、村でもらったタバコをふかしていると、調葉師の少女が現れた。
「訓練頑張っているみたいじゃない」
「はあ、なんとか...でも、なかなかうまくはいきませんね」
「そういえば、あなたには調葉師の技能をあまり伝えてなかったわね」
「このタバコ、吸ってみなさい」
「え、それで何かあるんですか?」
「いいから吸いなさいよ。とろいわね」
「はあ...」
そう言われ、メビウスは一度もらったタバコの火をもみ消してタバコ入れにしまうと、吸ってみなさいと言われたタバコに火をつけた。すると、吐き出した煙は濃度も高く、空気中に長く滞留し、ようやく吹いてきた風にかき消されたのだった。
「え...なにこれ...タバコの煙がいつものなん倍も濃く、しかも長く漂っていたよ...」
「カプノス葉100%の紙巻き。身体能力増強は幾分か失われるけれど、『煙技』をするにはもってこいの品種ね」
「そんなことが出来るなんて...!すごい、調葉師!」
「まだ驚くには早いわ」
「あそこに、岩があるでしょう。あの岩、これから砕けるわ」
「ええ!?」
調葉師の指さす先の岩は、人の背丈くらいある頑丈そうな岩だった。とてもネオニコチンによる身体能力増強ができたとしても、メビウスには壊せそうにはない。
「今度はこのタバコ、吸ってみて」
「はあ...」
「力強く吸うのがコツよ」
そう言うと、メビウスはタバコを受け取り、思い切り強く吸ってから岩に向けて力強いパンチを放った。
「おりゃあああ!!!」
ミシミシミシ...音を立てて、自分の身の丈くらいある大岩は、ヒビが入ったかと思うと砕け散ってしまった。
「そんな...ありえない」
「クラトス葉。ネオニコチンの身体能力増強を極限まで高めるタバコ葉の品種の一つ。どう、強くなった実感、湧いたんじゃない?」
「でもそれは葉のおかげだし...」
そう言った途端、メビウスは急にくらっとして、地面に座り込んでしまった。
「クラトス葉の弱点は、そのネオニコチン増強作用の強さゆえの反動。一時的に強大な力を利用できる反面、ネオニコチン受容体の多さと純粋な身体能力に用途は制限されてしまうの」
「そんな...能力があるタバコ葉がある...なんて...全く知らなかった...ゼエゼエ」
「集落で売られているタバコ葉は、質が低い上にかさましでなんだかわからない枯葉が混ぜられていたりするものよ。私は2級調葉師だから、その中から質の良いタバコ葉を鑑別しながら抜き出して、タバコを巻くことが出来る。」
「この集落の市場では比較的良いタバコ葉が売られていたから、こうしてあなたに試してもらうことが出来たわけ。他にも品種はあるけれど、今のあなたにはまだまだ使いこなせないわね」
「そうなんですね...ともかく、こう言うタバコ葉の違いで能力をこんなに変えられるなんて、夢にも思わなかった。あれ...そういえば...」
メビウスはピースマンの戦いぶりを思い出していた。ピースマンには調葉師がついていたり、また鑑別できる技能を有しているような仕草はある様には思えなかった。
「もしかしてピースマンさんが、市場の質の悪いタバコ葉でも、あんなに戦えたということは」
「お察しの通り。ピースマンは、最強の喫演者だったから、どんなタバコ葉でも存分に能力を発揮できたわけ」
「そして」
「あなたは、メビウス。どんなに訓練しても、平均的に能力が上がるだけで、彼の銘柄のピースには到底及ばないのは確か」
「...」
「だけどね、えーと、メビウス。あなたは逆にいえば、自分の一本を選んで戦うことのできる自由さを持っているわ」
「と言うと」
「つまりよ。ピースマンは、どんなタバコ葉のタバコを吸ったって十分に実力を発揮できる強さがあるのは確か。だけど、あなたはまだ未熟で弱い。でも、自分を強くする一本は自分の力で掴み取れる可能性を、秘めている」
「それにあなた、さっき私がタバコを2本渡した時、両方ともタバコいれに火を消した後しまっていたわよね」
「それはあなたがタバコの一本一本を、大切に吸うことが出来る人間だから。だから、試練の日は私が「調葉」したタバコを使って戦いなさい」
「ありがとうございます...」
「そうじゃないでしょ」
「自分で掴んだ一本、大切に吸う、そう返すんでしょうが」
メビウスは、今まで抱えていた自分の弱さへのコンプレックスが少し解消された気がした。もちろん、品種ごとの長所をうまく利用できるような強さと経験は積んでいないのは確かだ。しかし、だからこそ調葉師の作ってくれたタバコが、その可能性を教えてくれた事は確かだった。そして、ピースマンとは違う銘柄の自分でも、自分の一本をつかみ取れる強さがあると言うこと。
「僕」
「僕、今度の試練、絶対勝ちます」
「だから、調葉、お願いします」
「私も忙しいのよ。でも、面白い事が私は好きなんだ。あなたの銘柄と戦い方に合わせた最高の一本、作ってあげるわ」
そうして、メビウスは再び修行を始めた。その横で、調葉師の少女は本を取り出し、品種の知識や鑑別法などについての知識を頭に入れつつも、メビウスの動作を見ながら、どのような一本を巻こうか考えていたのであった。
このお話を読んでいただきありがとうございます。喫煙者なものでしてタバコの銘柄の違いとか煙の技とかで戦う世界があったら面白そう!と思ってこの作品を描き続けています。
文章が読みにくい、こうすると面白くなる、などのご意見などございましたら是非よろしくお願いいたします。




