アクターズ「第五輪」-別れと炎のバトン-
この物語はフィクションです。日本国内では未成年の喫煙行為は、法律で禁じられています。ですが、日本が崩壊してしまった社会なので、各地で法があったりしますが、基本的には誰が喫煙しても良いという背景がこの作品にはある為、描写はその様になっております。
アクターズ「第五輪」
メビウスは今日も変わらない日常を過ごしていた。ピースマンに修行をつけてもらって、くたくたに帰る日々。そんな日常に、メビウスは充実感と共にある焦りを感じていた。
ピースマンはいつもの草むらにいた。
「こんにちは、ピースマンさん」
「おう、来たか。今日も修行だな」
「それが、ピースマンさん...話があります...」
「おう、なんだ...おい、メビウス、いつにもなく真剣な目をしてるな。タバコでも一本吸ってまあ落ち着きな。」
ピースマンはタバコを手渡した。メビウスはそれに火をつけると、肺まで煙を入れて吐き出し、本題に入ろうとした。
「実は...」
メビウスは話した。自分が長身の男に脅されていた女の人を助けに入ったこと。攻撃も全く歯が立たず、ようやく入れた一撃も、ハイライトには歯が立たず、負けてしまったこと。そして、その後タバコ屋の女性からもらったタバコが、とても美味しく感じたこと。ピースマンは、相槌を打ちながら、メビウスの話に聞き入っていた。
そして話し終えた後、メビウスにこう告げた。
「それはお前、燻りだ」
「燻り...ですか...?」
「燻り。お前はあの時、勝ちたかったんだ。だが、付け焼き刃ではどうにもならない壁に気付き、敗れた。本当は格好良く勝ちたかったはずだ。正義のヒーローになりたかったはずだ。だが、お前は、そうなれなかった」
「...そうです」
「その悔しさを、忘れるな」
「その悔しさは、燻りとなり、やがてもう一度火種になる。その火を、絶やすな。」
そういうピースマンの顔は、いつにも増して真剣であった。ただならぬ予感を感じて、メビウスは緊張感を覚えた。
「実は俺はな、あの時お前に話さなかった事がある。俺は、東の国を平和の炎で包み込みたい...!」
「え...?」
「正確にいうと、俺は東の国で、革命を起こしたい」
「は、はあ...」
メビウスは即座に理解する事ができなかった。偉大な師匠であるピースマン。しかし、彼の語る夢は、その背中よりもはるかの大きく見えて、メビウスは言葉に詰まってしまった。
「昔、核戦争があったのは知ってるだろう?」
「はい、母から聞いています」
「それで、世界は灰に埋もれた。俺は...俺たちは、そこで、『煙劇団』を名乗って、世界を行脚していた。人気が出た様で、俺らいつしか、こう呼ばれていた。」
「喫演者と。」
「まさか..!?」
「それがどうやら、喫演者の由来になったらしい。今じゃ、ただ裏の連中に金をもらって、戦うだけの連中に成り果てちまったがな...」
ピースマンの顔は、どことなく寂しげだった。
「それで、俺は火種を探し始めた。俺の目指す平和を、灯し続ける火種を...ゲホッゲホ...すまねえ。」
「それで、お前が見つかったわけだ。」
「僕が...そんな...」
「俺がいうんだ、間違いねえよ...」
「俺は、この灰色の世界から蘇る、不死鳥の様な存在を探して、『煙劇団』をやめてから、各地を放浪した。色々な奴がいた。だが、あの時の目のあの火花、散らしたやつがお前が、初めてだった。」
「お前は、世界を見ろ」
「俺がここで話すには尽きない、語り草が沢山ある。お前はそれを、その目で見るべきだ。」
「世界...?」
「世界は広いぞ、メビウス。ここよりずっと寒い国もあれば、とんでもなく暑い国もある。それは、言の葉では伝えきれない、人生を燃やしてきたからこそ言える台詞だ。」
ピースマンはそういうと、煙を大きく吐き出した。
「俺は明日、東の国へ旅に出る」
「そんな...急すぎますよ」
「急じゃねえ。灰の中から火種は見つけた、なら、俺に悔いはねえ。ゲホッゲホ!」
ピースマンはいつも、タバコを吸うとき咳き込まない。なのに、今日はやけに咳き込む。体調が悪いのだろうか。メビウスは不安を感じた。
「だからよ、メビウス」
「お前も、旅立つんだ」
「もう、いい時期だろう。煙技も一応は身につけた。体力もついた。頃合いだ。」
「まだ、教えてもらっていない事が...!」
「うるせえ!!!」
いつも微笑んでいたピースマンが、珍しく怒声を放った。メビウスは戸惑ってしまった。
「お前はもう、『卒業』だ」
「もう学ばせることは何もねえ。俺は明日、東の国に旅立つ。話は以上だ。じゃあな」
「まだ話が...!」
「帰りやがれ!!!」
ピースマンの怒声に、メビウスはたじろいでしまって、そそくさと草むらを去ってしまった。何故あの寛大な、おおらかな人があの様なことを言い放ったのか。分からなかった。走って家に帰るうちに、メビウスは涙が込み上げてきた。短い期間だったけれど、修行をつけてもらい、共に時間を過ごした。修行の合間に交わす言葉は、自分の勇気につながった。あの日立ち向かう勇気になった。
「ピースマンさん...!」
その日は帰ってすぐに寝た。考え事が頭の中に浮かんでは消えていった。
そして翌朝、早朝。
あの草むらに、メビウスは向かった。
あの人が去る前に。一言、言葉を交わしたい。メビウスは真っ直ぐに草むらに向けて走っていった。
「よお、やっぱり来やがったか」
そこには、ピースマンがいた。旅支度を済ませたのか、手持ち鞄ははち切れんばかりにパンパンになっている。
「ピースマンさん...やっぱりいたんですね」
「おうよ。最後の修行の時間だからな」
ピースマンは相変わらず、タバコをくゆらせている。
「僕、言いたいことがあります」
「おう、言ってみろ」
「僕は...僕は、世界に平和の火を灯して見せます!!!」
「ほう...よく言った」
ピースマンはいつもと変わらない笑顔でそう言った。
「お前の灯す平和の火、さぞ暖かいだろうな。メビウスの輪の話をこの前したな。お前、燃え尽きるなよ。いつまでも、火種でい続けるんだ。そして、力を本当に身につけたとき、そのときこそこの世界を、平和の火で包み込むんだ!」
「わかりました...!メビウスの輪の様に、いつまでも熱い火種でいます」
「いい答えだ」
「そろそろ俺は行く。あばよ。」
ピースマンはそう言うと、背を向けてどこかに向かって去っていった。その大きな背中が消えるまで、メビウスはじっと見続けていた。
ピースマンは、何処かに消えてしまった。
「ピースマンさん...本当に...ありがとうございました...!」
メビウスは一人でに、そう呟いていた。これまでの思い出や経験が、頭の中を右往左往する。灰色の日々から救い出してくれた恩義。あの日立ち向かえた勇気、決めた覚悟、どれもこれも、メビウスにとっては大切な思い出だった。
「行ってしまった...」
呆然と立ち尽くすメビウス。そうしていると、あの調葉師の少女が、近くに佇んでいた。
「話は聞いたわよ」
「えっ!?一体いつから?」
「初めから。あなた、あのピースマンに認められたのね」
「でも...僕は全く...」
「ピースマンは『火種』を探して放浪していたの。『煙劇団』として活動していたのもその一環。あなたは、もう燻りじゃない。人を巻き込んで、世界を平和の火で灯す資質が十分にある」
「...」
「だからあなたも、旅立ちなさい。」
「世界をその目に焼き付けなさい。それで、自分の求めた正義の炎を、心に灯すのよ!」
「世界には、ピースマンの『火種』が沢山いる。まずは、北の国に行って、その火種を探すべきだわ。」
「北の国...!?話が急すぎますよ」
それから、私も旅に連れて行くこと。2級調葉師だから、役には立つわ。明日には荷物をまとめて、旅立つ準備をしなさい。」
「いきなりだなあ...でも、ピースマンさんの言う『火種』、会ってみたい。」
「なら話は即決ね。明日、早朝、この草むらで集合。いいわね」
「わかりました」
そうしてメビウスは家に着くと、少ない荷物をまとめて、旅立ちの準備をした。
翌朝。メビウスはリュックを背負い、いつもの草むらにいた。調葉師の少女はすでにいた。
「待ちくたびれたわ。タバコを何本吸ったことか。」
そう言う彼女の足元には、吸い殻が何本も落ちていた。だいぶ長い時間待ったのだろう。しかし、そのお金はどこから...?
「お待たせしました」
「遅い」
「でも、これで準備は万端ね。北の国は遠いわよ。火種、消えないでしょうね?」
「ピースマンさんからもらった火種、消しません!」
「それがあなたの悪い癖」
「火種はいつでも、自然に起こるものでしょう?」
そうして、メビウスと調葉師の少女は北の国へと歩みを進め始めた。
下のイラストは、メビウスとピースマンが「煙技」の修行をしている一シーンを描いたものです。
このお話を読んでいただきありがとうございます。喫煙者なものでしてタバコの銘柄の違いとか煙の技とかで戦う世界があったら面白そう!と思ってこの作品を描き続けています。
文章が読みにくい、こうすると面白くなる、などのご意見などございましたら是非よろしくお願いいたします。




