アクターズ「第四輪」-ハイライトブルー色の覚悟-
この物語はフィクションです。日本国内では未成年の喫煙行為は、法律で禁じられています。ですが、日本が崩壊してしまった社会なので、各地で法があったりしますが、基本的には誰が喫煙しても良いという背景がこの作品にはある為、描写はその様になっております。
「アクターズ」第四輪
あれから、ピースマンはメビウスの本当の師匠になった。訓練の内容はより厳しくなり、これが本当の喫演者になるための特訓であるのかと思いつつ、しかし辛いなあとメビウスは考えていた。
「おい、メビウス。最近調子どうだ?」
いつもの草むらでピースマンは、メビウスに語りかける。
「最近は輪っかがなんとか安定してできる様になってきました。でも、あの時ピースマンさんが見せてくれたような大きくて密度の高い輪っかはまだ...全然です」
「なあに、何度も言うが、焦るこたはあねえ。それに、厳しい訓練もサボらずについてきてるじゃねえか。小さな丸が積み重なって、それは自信につながっていく。テストとか受けたことねえのかい?」
「テスト...?」
「おっと、『以後』の世代にはわからねえか。こりゃ失敬。ともかく、積み重ねが大切だ。今日もこれから。修行、いくぞ?」
「はい!」
そうしてメビウスは、今日も修行に励むのであった。
「今日の修行はここまで。だいぶ強くなったな。あん時の奴、もう今じゃ余裕で倒せるんじゃないか笑」
「そんなことないですよ...修行が足りなかったから、負ける寸前でどうにかなっただけで、自分はまだまだ未熟です」
「とりあえず、今日はもう家に帰んな。お、そうだ。そういえば初心者向けの『煙技』で、まだお前に教えてないのが一つあったな」
そう言うとピースマンは、タバコを懐から取り出すと、使い古されたライターで火をつけて、煙を吐き始めた。
「おい、メビウス」
「今から俺に、本気で殴りかかって来い」
「ええっ!?」
「いいから」
師匠が言うことだから、何かあるのかもしれない。そう思ったメビウスは、全身に力を込めると思いっきりパンチを繰り出した。
「う、うおおおおお!!!」
するとピースマンはいつもの様に微笑みながら、タバコの煙を縦に、密度を濃くして吐き出したのであった。すると、ピースマンの吐き出した煙の壁は、メビウスの放った一撃の威力を吸収して、その後かき消えた。
「えっ...」
「体に煙を纏わせるとな、守ることもできるが、分散しちまう以上効果が限定的になる。しかし、この『煙技』は違う。煙を高濃度で縦に吐くことで、威力の高い攻撃を吸収する事ができる。まあ、時期に詳しいやり方は教えるから、それまではトレーニングだな。」
メビウスは、自分には知らない煙技がまだ存在することに驚くとともに、あの時煙に攻撃が吸収された不思議な感覚を拳に感じ、物思いに耽りぼうっとしていた。
「ありがとうございます。訓練、これからも頑張ります。」
「おうよ。また来な。そういえば、最近タバコが市場で値上がりしてるみてえでな。俺もちょっと金に困ってるんだ。いざって時に数本、持っとけよ。」
そう言うピースマンを背に、メビウスは帰路へとついた。すると、何やら市場の方が騒がしい。野次馬がたくさん沸いている。女性がチンピラ連中に絡まれているのが見えた。
「おい姉ちゃん!タバコが高えじゃねえかよ!こいつは一体どうなってるんだ?ああ?」
「申し訳ありません、ですが」
「申し訳ありません、じゃねえよ?俺たちもネオニコチン入りタバコがさっさと吸いてえんだよ。なのにこの値段ときた。これじゃ、2、3本しか買えやしねえ。俺たちがどこのどいつか、わかって言ってるんだろうなあ?ああ?」
「ですから」
「とにかくよ、金はちゃんと持ってる!お姉ちゃんは品物を売る!それが商売ってもんじゃねえか?ともかくよ...」
そう言うチンピラ連中の後ろから、長身の男が近づく。そして、男はチンピラのうちの1人に、いきなりキックをかました。
「ううっ...誰だてめえは...って、あなたは...」
「シケモクが煙を吐きやがる」
長身の男はそう言った。口にはタバコを咥えている。只者ではないオーラを感じ取れる。メビウスもそれを感じ取り、寒気を感じた。
「先ほどは、馬鹿どもが世話をかけちまった」
「ところで姉ちゃん」
男は続けて話す。
「このタバコの値上がりは、俺らの敵対組織が不当にやってるんじゃねえかって噂でここにきた。さっきは俺の馬鹿な部下達が迷惑をかけちまってすまねえ。聞きたいことはただ一つなんだ、あんたはそれに答えてくれればいい」
「なんでしょうか...」
「お前んとこの元締めの名前を、教えろ」
「それは...!」
「なあに、ただ名前を教えてくれればいいだけのことよ。後は俺たちの仕事だ。」
「それは...それを言ったら、私はここでこうやって商売をする事が...」
「いいから教えな」
ドスの利いた声が、騒がしかった市場を一瞬で沈黙にした。やはり、只者ではない。
「商売ってのは『信用』が大事なんだ。それの積み重ねで、俺たちはこうやって『仕事』をやってきて来たわけだ。だから、あんたも『信用』、見せな」
「できません...」
「ん?」
「今、お腹に子供がいます...旦那は家に帰らず遊び呆けて散財する始末で、家にはお金も十分にありません。ですから、私がここで名前を話してしまっては、私は...私は...」
そういうと女性は涙を流し始めた。しかし、周囲にたくさんいた野次馬の誰も、手を差し伸べようとはしなかった。
メビウスも、その1人だった。しかし、いつもの様に考えが頭の中にぐるぐると沸いてきてしまった。自分の母をタバコ代のせいで薬さえまともに買ってやれず、死なせてしまった罪。自堕落に生きて来た自分の半生。そして、生半可ではあるが「喫演者」として訓練をつけてもらった事。そんな情けない自分が、ここで唯一できる事は...!
気がつくと、体が勝手に動いていた。止められない。そして長身の男の元へ向かうと、メビウスは、震える声で、しかし確かに一言言い放った。
「やめてあげてください」
「なんだ、お前は」
「やめてあげてください。この人、困ってます。お兄さんにもいろいろ事情がありそうなのも分かります。でも、それは『信用』に反するんじゃないですか...?」
「おいなんだこの野郎!ボス、こんな奴さっさとのしちまって...!」
「黙れクズども!!!」
市場に声が反響した。
「お前、『信用』について話したな。いいか、『信用』って言うのは、こっちの世界じゃ易々と口にしていいもんじゃねえんだ。」
「お前には、その覚悟があったか」
「...あります」
「僕はクズだったけど...でも、困ってる人を、見捨てないだけの覚悟は、今はある...!」
「そうか」
そういうと、男はメビウスの方に向かい、言い放った。
「お前の覚悟、見せてもらおうか」
そういうと、男は中程まで吸っていたタバコを強く吸うと、思い切り一撃をメビウスに向かってかまして来た。
「ぐっ...なんて重い一撃なんだ...」
メビウスは受け止めて咄嗟に察した。この相手は、格が違う、と。メビウスは体勢を整えて、師匠との訓練を思い出しを一撃をかまそうとした。しかし。
「効かねえ」
なんと、男はその鍛えられた体で攻撃を食らっても平気でいるのだ。手が反対に痺れ、メビウスは体が震え始めているのに気がついた。
戦慄しているのだ。師匠であるピースマンと共に短い間だが修行した。実力がついたと僅かであったが過信していた。だから、闘えると「思ってしまった」。しかし、それは誤りだったのかもしれない。ここに来て後悔の念が湧いてくるのを感じた。
「いいか」
「『信用』って言うのは積み上げだ。いわば、歴史。若いお前と俺では、積み上げて来た『歴史』が違う」
重たい一撃が何度も放たれる。メビウスは、もはや守ることで精一杯で、反撃する余裕もない。
「そして」
「積み上げて来た『信用』は、やがて高い壁となり、己を守る砦となる」
男の強烈な一撃がメビウスにクリーンヒットした。
「ぐああああっ...!」
メビウスは地に伏せてしまった。苦しい。気持ち悪い。痛い。怖い。本能的な恐怖は、あの時の覚悟をすっかりと流してしまっていた。それはまるで、風に吹かれてあちこちに散っていく紫煙の様に。
加えて、メビウスのタバコはもう中程まで燃えてしまっている。タバコの値上がりのせいで、予備のタバコももうない。
「ダメなのか...やっぱり自分は」
そうやって土に塗れた手を見る。その手は、敗者の手にふさわしい様相だった。
「次の一撃で、終わりだ」
「お前も、シケモクだったか」
そう言って弾き飛ばされたメビウスの方に向かって、男はゆっくりと歩いてくる。
「シケモク...か」
メビウスはシケモクという言葉を頭の中で反芻していた。あの日ピースマンに言われた言葉を思い出しながら。
「お前は、燻りじゃねえ。火種だ。」
「お前の訓練、煙技、全部が燃やす糧になるだろう?」
忘れていた。メビウスは戦いの中、自分が小さな小さな火種であることをすっかり忘れてしまっていた。そして、何より、絶やしてはなるまいと決めた覚悟を、火種の力で燃やすことを決意し、立ち上がった。
「ピースマンさんが教えてくれた煙壁、うろ覚えでも使って勝つしかない...!」
男もタバコを中程まで吸ってから戦いに入っていた。相手も時間に余裕がないはずだ。一度限りの煙壁で、相手に一撃加えることができれば...!
「まだ立てるか」
「これで終わりだ」
そう言って男は、タバコを根元まで吸い終わると、これまで以上の一撃をメビウスに向かって思い切りくらわせようとした。
「煙技!」
そういうと、メビウスは煙の壁を、あえて教えてもらった縦ではなく横方向に向かって作り出した。しかし密度は低い。
「煙技か。しかし練度が低い」
だが、メビウスには積み上げ不足ならではの策があった。密度の低い横向きの煙はすぐに攻撃を受け四散する。しかし、それが一瞬だが目眩しになることを瞬時に思いついたのだ。
「どこだ」
「『覚悟』は、ここにある」
メビウスの渾身の一撃は、男のみぞおちを直撃した。
「ぐっ...」
男は多少ダメージを食らったのかよろけた。ちょうど、メビウスのタバコは尽きた。そして、メビウスは限界を迎え倒れこんでしまった。
「なるほど」
「お前、練度も低ければ力も弱い。銘柄ゆえか...いや、歴史が浅いと言うべきか」
「だが、お前は勇敢だった」
「その『覚悟』は、確かに俺に一撃を与え、そして何より俺の心に届いた」
メビウスは息を切らしながら、答える。
「浅くて低い歴史です...でも、だからこそ、崩れない」
「よく言った」
「お前を『信用』した。俺の銘柄は、ハイライトだ。お前の銘柄は」
「メビウス...です...」
「メビウスか」
「シケモクじゃないってことはわかった。今日はこの辺で終わりだ。もうタバコも燃えちまったしな。おい、馬鹿ども、帰るぞ!」
「はい、ボス!」
そう言って、ハイライトと名乗る男と連中は引き上げていった。その後観衆はメビウスの方に集まって来た。
「おい、兄ちゃんかっこよかったじゃねえか!あの長身の男を引き上げさせるなんてよ!」
「本当はあのお姉さん助けたかったんだけど、あの様子じゃあねえ...すごいよあんたは」
「そんなこと...ないですよ...」
そう言ってメビウスは、家の方に向かって帰ろうとする。すると、
「先ほどは助けていただきありがとうございました...!」
あの女性がお礼を言いに来てくれたのだ。
「いえ、僕は...戦いにも勝てずにあんな有り様で...でも、助かってよかったです」
「ちょっと待っててくださいね」
そういうと女性は、手巻きタバコを一本メビウスに差し出した。
「本当はいけないんですけど...でも、これは自腹ですから!これしか出来ないですが、受け取ってください。」
「そんな...さっきお金がないって...」
「受け取ってください!こんなに怪我して、ボロボロで、それでも何も出来ないこっちの気持ちも、分かってくださいよ...」
「メビウスは黙ってタバコを受け取った。そのタバコは、いつものタバコよりもずっと、重く感じた。軽い一本のタバコのはずなのに。
「お気をつけて!」
「ゆっくり休めよ、兄ちゃん!」
観衆に見送られながら、メビウスは家へと帰っていった。すると、途中調葉師の少女と出会った。
「見てたわよ」
「えっ!」
「無様だったわね」
「...そうだね」
「でもさ、あんた」
「シケモクじゃなかったじゃない。それを自分で証明出来たのは、ちょっぴりカッコよかった。なんてね。またね」
そう言って少女はどこかへといってしまった。
「変な子だなあ」
そう思いつつ、メビウスはもらったタバコをじっと見つめ、ボロボロのライターdw火をつけて一服する。
「うまいなあ」
「こんなにうまいのに...どうして僕は...弱いんだろう...」
月光が穏やかにメビウスの背中を照らしている。風が煙を四方に散らす。メビウスは、喜びと、情けなさと、怒りと、あらゆる感情が頭の中を行き来する中、もらったタバコをふかしていた。メビウスは、もっと強くなりたいと心の中で思った。そして何より、こんなにうまいタバコをもっと吸える様な人間になりたいと、考えた。
メビウスの燻っていた心に、火種が宿る。
下のイラストは、この物語に登場するハイライトというキャラクターの画像です。
このお話を読んでいただきありがとうございます。喫煙者なものでしてタバコの銘柄の違いとか煙の技とかで戦う世界があったら面白そう!と思ってこの作品を描き続けています。
文章が読みにくい、こうすると面白くなる、などのご意見などございましたら是非よろしくお願いいたします。




