アクターズ「第三輪」-絶・希望-
上は今回の登場する「ショートホープ」のイラストです。
「アクターズ」第三輪
それから、青年もといメビウスはピースマンの下で修行を重ねることになった。単純作業かつ肉体労働の多い日雇い労働よりもずっと厳しい訓練をメビウスは重ねていた。
ランニングも筋トレも鈍っていたメビウスの体には堪えた。終わる頃には常にぜえぜえしてしまっていて、そんな感じに一日、一日が過ぎ、気がつけば一週間がすぎようとしていた。
「身体能力に関してはだいぶマシになってきたな。そろそろ『煙技』を教えてやっても良い頃合いかもしれないな。
「『煙技』ですか?でも、まだ僕の身体状態じゃ、それに耐えられないって」
「時には無理してみるもんよ。『煙技』には強い肺活量とテクニックが重要になってくる。今どれだけできるか、メビウスやってみろ」
「はい..」
そういうとメビウスはタバコを強く吸うと、普段よりも多い煙をなんとなく吐き出してみたが、当然うまくはいかず輪っかはできない。
「初めはそんなもんだ、焦ることはねえ。『煙技』の基礎は輪っか作りだ。それがうまく行くようになったら、訓練も次のステップに進もうと思ってる。まあ焦るな。」
そう言ってメビウスはピースマンに輪っかの出し方を教わったのだが、何度も何度も試してもうまくいかず、煙は四散してしまう。
「ひとまず、明日また訓練だな。今日の所はこれでおしまい。」「家で練習して見な、きっとうまくいく時があるから。」
そう言われてメビウスは家で何度も輪っかを出す練習をしたものの、やはりうまくいかず。
「どうしてうまく行かないんだろう」
やっぱり僕は調葉師の人に言われた通り...」
メビウスの頭の中にはそうしたネガティブな考えが頭の中でぐるぐると螺旋状になり、考えから抜け出せなくなってしまった。
「頭の中には、ぐるぐるがいっぱいなんだけどなあ」
そんなことを考えながら、メビウスはとこにつくのだった。
翌朝。その日は晴れで、雲ひとつない快晴だった。
「今日もピースマンさんのところに行かなきゃ!」そうしてメビウスは昨日の思考はなんのその、いつもの草むらにかけだしていった。
「おう、今日は早いじゃねえか。その顔見てると、何か質問がありそうだなって顔してんな」
「実は...」メビウスは自分はピースマンに教わった煙技が全くうまく行かないこと、そして家で練習してもダメであったこと、そんな自分が情けないという事を話した。
「なるほどな...」ピースマンは少し考えると、タバコをふかし、語りかけた。
「それはな、お前が恐れているんだよ」
「僕が...恐れている?」
「身体能力向上もうまく行かない、煙技もできない、そして待ち受けるのはクビ...概ねこんなもんだろう、お前の頭の中の考えは」
「はい...そうです。自分に才能がなくて見捨てられてしまうのではないかって不安で」
「あん時お前、火花散らしたろ」
「あの火花はな、俺の中である燻っていた思いに火をバチバチと灯したんだ」
「それでな、こいつを一人前の『喫演者』として育ててみようと思ったのさ」
「はい...」
「だから、メビウス大丈夫だ。ゆっくりで良い。だが、お前の心の中の火種は、きっとあらゆるもの巻き込んじまって、その際にはきっと輪っかくらいぽっぽっていくらでも出せちまうさ」
「そうですけど...!僕は今まで人生負け続きでいい事なくて...母の薬代も、タバコに使ってしまうような、ドクズです。僕は。」
「お前は、くすぶりだったんだなあ」
「くすぶり、ですか?」
「くすぶりだ。燃えてるんだか燃えてねえんだかわからないそんな存在。だが、今お前はこうして俺に指導つけてもらってるじゃねえか。くすぶりは、何かを燃やすためにあるもんだ。だから、俺に火をつけた火花の様に、お前も燃える理由、見つけていきな。」
「...」
メビウスは今までの経験や価値観が、「くすぶり」というたった4文字の言葉で言語化され、見透かされてしまったと感じた。同時に、自分が強くなる理由。曖昧なままだった燻っていた自分の人生が、どう燃え上がっていくのか、様々な考えがメビウスの脳裏を逡巡した。
「ピースマンさん」
「僕、こんだけやっても輪っかすら出せません。筋トレの方もイマイチです。けれどその内、自分の中にあるくすぶりを、火種にできないか、模索していきたいと考えています。これは、答えになっているでしょうか?」
ピースマンは微笑みながらいった。
「今のお前には満点だ。訓練にもいくらだって付き合って...おっとそれは無理な時もあるが、お前の火種を絶やせねえ様に、俺の着いちまった火で守ってやる。そしたらメビウス、訓練再開だな笑」
「はい!」
そうしてメビウスが訓練を再開しようとしていると、
「おいお前ら、またあったな」
「この前は酷い目に遭わせてくれたじゃねえの」「今、喫演者を高い金で雇って連れてきてるんだ。今すぐ闘うんだよ、その方と!」
ピースマンは根元までタバコを吸い切ると、吸い殻を入れ物に入れて、メビウスに言った。「悪いが、タバコがもう尽きちまったみたいだ。メビウス、あとは任せたぜ。」
「ええっ!?だって僕はまだ『煙技』だってまだ全然...」
「お呼びがかかってるのは、どうやらお前さんみたいなんだよ」
「で、でもうまく行くか」
「火種が爆ぜるかは環境次第。メビウス、いい薪がゴロゴロ、転がってるぜ」
そう言っている間に相手側の喫演者が出てきた。
「俺の銘柄はショートホープ。太く短くが俺のモットーだ。」
「見た感じ、お前も『喫演者』らしいな。だが安心しろ。お前のHOPEは、ここでショートする。」
そう言ってホープを名乗る男は、メビウスめがけて襲いかかってきた。その一撃はメビウスの体に深くめりこみ、大きなダメージを与えた。
「ぐはっ!!!」
メビウスはその一撃をくらい、地面に倒れ込んでしまった。その一撃があまりにも重かったからだ。
「これが...喫演者の力...強すぎる...」
「なあに、太く短くが俺のモットー。次の一撃で、お前の希望の火、吹き消してやる」
そういうと、タバコを強く吸い込んだホープは、もう一度煙を手に纏わせ次の一撃の準備をしている。
「この一撃はガードしないと...確か煙を体に纏わせれば...」
メビウスはタバコの煙を体に纏わせた。直後、ホープの一撃。
「くっ...確かに威力は抑えられたけど...でもこれ以上くらい続けたら死んでしまう...」
「おっと、それ以上は気に入らねえな!なんせ俺は『短気』なんだ。さっさと沈めてやるよ」
ホープの攻撃が続く。煙を体に纏わせる防御法は、まだ習得したてのためかダメージを半減することすらおぼつかず、メビウスの身体にじゃ徐々にダメージが蓄積している。
「くそ...火種になるって誓ったのに...短い期間だけど真剣に筋トレだってしたし、なのに自分は敵わないのか...」
「いや、考えるんだ。煙で輪っかができれば、輪っかができれば奴を一瞬拘束して動かせなくすることができるかもしれない...」
「なかなか『長生き』じゃねえか!どうだ俺の一撃は...ハアハア...太く短く生きてきたせいか、こんな攻撃でも息切れしちまう...だが、お前相手くらいなら問題ねえ!オラオラァッ」
ホープの動きに若干疲れが見え始めた。タバコを強く吸ってから、攻撃に移る間隔が長引いてきた様にも見える。
「ひょっとすると...『煙技』、できるかもしれない...でも...訓練では一度も出なかった...」
メビウスはホープの攻撃の隙を見計らって、煙の輪っかを作ろうと必死に煙を吐き続けていた。だが、そうすればタバコは必然早く燃え、戦闘できる時間も短くなるのは明白だ。
「なんとかうまくできてくれ...!」
心の中で願う。しかし無情にも輪っかはできず、ホープにくらわせられていたダメージ量も許容の限界に近い。視界がぼやける。
「ひょっとしてお前、『煙技』でもしようとしてるのか?でもな、そんなもんじゃ俺は倒せねえ!『煙技』なんてやらなくとも、お前と俺の力量差は明らか!それより俺は早くけりをつけたいのさ!」
そういうと、ホープはタバコを一段と強く吸い込むと、先ほどよりもずっと多い量の煙を腕に纏わせ、とどめの一撃を放った。
「絶・希望!!!」
もはや避けられない。メビウスは体の力が急激に抜けるのを感じた。僕はここで死ぬのだろう。何もうまく行かなかった人生。逃げてばかりだった人生。たとえ付け焼き刃でも、一矢報いれると思ったけれど、無駄だったのか。観念するメビウス。最後のタバコの煙をボワっと吐き出す。すると...
輪っかが、出たのである。
そのままふよふよと出た輪っかは、渾身の一撃を繰り出そうとして前のめりになってバランスを崩しかかっているホープの体を取り囲み、なんとその動きを止めたのである!
「花丸満点じゃねえか、メビウス」
戦いを見ていたピースマンは微笑みながら、そう言った。
「後は一撃、決めちまいな」
メビウスはそれを聞くや否や、これまでの辛く厳しい訓練や荒んだ人生が走馬灯の様に一瞬よぎり、すでに根元ギリギリまできていたタバコを一気に吸うと、手に煙を纏わせ渾身の一撃を放った。ドスン!!!
「ま、待て、それはない...ぐはっ」
そういうと、ホープは鳩尾を苦しそうに触れながら、地面に倒れた。
「おい、ホープさんやられちまったぞ!?でも見ろよ、あの野郎、もうヘロヘロじゃねえか。立っているのもやっと...俺たちでのしちまえ!」
そういうとチンピラ連中は満身創痍のメビウスに向かって寄ってかかろうとした。
「花丸満点の答案に、チェックは似合わねえ」
そういうとピースマンは、ポケットからさっとタバコを取り出すと、「煙技」を発動した。
それは、メビウスがやっとの思いで出した小さな輪っかとは違い、とても大きく密度の高い、鍛え上げられた輪っかであった。
輪っかは瞬時にチンピラ連中を取り囲むと、ギリギリとその体を締め上げる。
「なんだこれは...体が...痛え...」
「た、助けてくれ...」
「あいにく、俺の花丸は、チェックメイト付きだ。興醒めさせないうちに、とっとと消えな、兄ちゃん達」
「ひ、ひい〜」
そう言って連中は瞬く間に草むらからいなくなってしまった。
座り込んだメビウスに、ピースマンは微笑みながら語りかける。
「さっきの輪っか、うまくできてたじゃねえか。」
「いえ...たまたまうまくいっただけです。ようやく、一回上手くいっただけで。」
「でもよ」
「あんな土壇場で『煙技』成功させるなんて、お前、『喫演者』として花丸満点じゃねえか。中々かっこよかったぜ。」
「...ありがとうございます...これまで何やっても上手く行かなくて、自堕落に生きてて、でもようやく、ピースマンさんのおかげで勝つことができた...」
「俺は薪に過ぎねえよ」
「お前の燃える心が火種になって、俺という存在を巻き込んで自分の力にしちまっただけだ。メビウス、お前は『合格』だ。」
「合格...?」
「さっきタバコねえって嘘をついただろう。あれはお前が逃げ出さないか、そして勝てなくてもいいから、何かできることがあるか考える、その燃える姿が見れるかテストしていた。」
「そして、お前は合格した。今日からお前は俺の弟子だ。明日から修行、厳しくなるぞ笑」
そう言ってピースマンはタバコをふかした。大きな輪っかが青空にぷかぷかと浮かんでいた。それは、メビウスの自分との、そして「喫演者」としての始まりを祝福する様な、大きな大きな輪っかであった。
このお話を読んでいただきありがとうございます。喫煙者なものでしてタバコの銘柄の違いとか煙の技とかで戦う世界があったら面白そう!と思ってこの作品を描き続けています。
文章が読みにくい、こうすると面白くなる、などのご意見などございましたら是非よろしくお願いいたします。




