アクターズ「第二輪」-メビウスの輪-
この物語はフィクションです。日本国内では未成年の喫煙行為は、法律で禁じられています。ですが、日本が崩壊してしまった社会なので、各地で法があったりしますが、基本的には誰が喫煙しても良いという背景がこの作品にはある為、描写はその様になっております。
上はこの物語の主人公、メビウスのイラストです。
「アクターズ」第二輪
眠りから覚めた青年は、昨日の出来事を頭の中で反芻し続けていた。自分が情けない醜態を晒して、しかも老人に酒を奢ってもらう。この社会でそんな事は滅多にない。それはあるとしたら、「哀れみ」だ。
人に哀れまれ、情けない姿を晒し、自分はなんと情けない人間であるか。
「自分が...情けない...」
そう言って、ふと胸元のポケットの写真を取り出した。女手ひとつでこの社会の中自分をここまで育ててくれた母さん。そんな母さんは、2年前病気ですでに死んでしまった。そんな母さんに、自分は...
「変わりたい」
そう考えた青年は、気がつけばあの草むらへと足が勝手に動いていた。今日は日雇いのバイトは休みにした。いち早く、強くなりたい。あの人に、何か教えてもらえるかもしれない。様々な想いが逡巡し、気がつけば青年は草むらにいた。
「おう、若いの」
「まさか本当に来るとはな、なあに、まだ白く濁った俺の目も、小さな火種は見逃さなかったってこった。ガハハ」
周囲を見回していると、1人の少女が目についた。昨日あのチンピラ達の中にいた少女だった。
「お前さん、強くなりたいからここにきたんだろう。あれだけ酒飲んでも、お前の火種は消えねえときた。違うか?」
「はい...そうです。僕は今まで軟弱だった。弱くて何もできない日雇いの金は全部タバコに費やしてしまった、どうしようもない人間です。けれど、ここでなんとしても変わりたい。そう思ったんです。」
「気概は十分じゃねえか。じゃあ、まずはネオニコチンについてここの姉ちゃんに話してもらおうか」
そういうと、あの時の少女が前に出てきて、話を始めた。
「ネオニコチンにはね」
少女はまだ若い。少なくとも20代ではないだろう。下手したら、14-5歳くらいかもしれない。そんな幼さの残る少女から語られた内容は以下の通りだった。
「核戦争から数十年。あれからネオニコチンができて、多くの人は単なる依存症になったのは、あなたもわかっているでしょう。」
自分の弱みを握られているようで冷や汗が出てきた。少女は話を続ける。
「しかし、人々がネオニコチン摂取を続けているうちに、詳しくは分からないのだけど、普通の人の何倍もの身体的能力を発揮する人々が現れたの」
「そして、あなたもきっとそう」
「そんな、だって僕はあの時ボコボコに...」
「俺は見たんだがな」
老人は口を開く。
「あんな状況で、目に火花が散ってる奴は、ネオニコチンの能力をうまく発揮できる奴の証拠だ。長い旅だった。俺はそういう奴を何度も見てきた。」
「それに、あなたは最初輩の攻撃を数回うまくかわした。ネオニコチンで倦怠感が出ている状態で、あれをうまくかわせるのは少なくとも、普通ではない」
「そ、そんなことって」
「要するに、よ。」
老人は笑みを浮かべて青年の肩を叩く。
「お前さん、良い火種になるってこった。この姉ちゃんは調葉師なんだ。お前の才能を見て、わざわざあの連中から離れて今ここにきてるんだ。じゃあ、やることはもうわかるよな」
「...なんでしょうか?」
「『銘柄判定』だよ。聞いたことないか?銘柄を決めて、自分の一本を決めるって奴だ。ちょうど良い、今やってみるか。姉ちゃん、あとは任せた。」
「了解」
すると、調葉師の少女は、青年に向けてこう言った。
「タバコ」
「タバコ、今吸ってみて」
「は、はい、わかりました」
そういうと青年はタバコに火をつけると、自然な形で吸ってみてとのことなのでごく自然に、彼がリラックスする時の様にタバコをふかしてみせた。
「肺まであまり入れないのね」
「後、何か自信がなさげ。おまけにあのお爺さんから色々話を聞いたけど、不完全燃焼感があなたの人生から垣間見える。」
「...」青年は黙って、その通りだと思ってタバコをふかし続けていた。
「あんたってさ」
少女が口を開いた。
「守りたいもの、ないわけ?大切にしてるものとか、他にも色々」
「特にないです...自分は自分で生きていくだけで精一杯だから...」
そういうと、青年のタバコが尽きた。同時に少女は口を開いた。
「あなたの銘柄、判定できたわ。」
「それは一体...」
「メビウスよ。」
「メビウス...?なんだろうそれは」
「お姉ちゃん、メビウスって出たか!ガハハ笑そりゃこの兄ちゃんにぴったりの銘柄だ!!」
「メビウス?を知っているんですか?」
開口一番に老人にその正体がなんであるのかを問う。それもそのはず、核戦争後の時代を生きてきた青年には、銘柄なんて全くと言って良いほど知識がない。以前を生きている老人だからこそ、何か知っているのではないかと思い質問したのだ。すると、少女は語り始めた。
「メビウスは、言い伝えによると本当に普通の銘柄だったそうよ。ニコチン量もそんなに多くない、ごく一般的な銘柄。だからそんなに強くないし、できることも凡庸。はっきり言って、ハズレね。まあ、あなたの性格にはぴったりのタバコだけどね」
それを聞いて青年はがっかりした。甘い思いかもしれないが、連中をいとも簡単に薙ぎ倒した老人が、強くなる方法を教えてくれるかもしれないという一縷の希望に縋ってきたというのに、この結果ではあんまりである。
「じゃあ、僕は...メビウスなんですか...?」
「そうね、メビウス。それもソフト。軟弱さは相性とピッタリね。」
「そんな...じゃあ僕は一体、なんのために昨日夜考えたんだ...強くなること、自分が強くなってできることが増えること、他にも色々...それって全部無駄だったってことですか...!」
失意の青年からは、言葉の弾幕が止まらない。
そんな青年を見ていた老人は、笑いながら青年に語りかける。
「良いか、青年。確かに凡庸かもしれない。普通でありきたりかもしれない。そんな銘柄かもしれない。だがな、青年。普通であるということは、最も色々な人に手に取られて、愛されてきたってことなんだ」
「...!」
「そしてこんな古い話がある。なあに、日本時代の話だがな、メビウスの輪というのがあるんだと。その輪は決して辿っていっても元の位置に戻るっていうそんな性質があるんだと。」
「はい...」
「それは、お前が何度でも諦めないで、その火種を燃やし続けることができることなんじゃねえかって俺は思ったんだ。違ったら悪いな」
「そうですか...」
「それにな、俺は実は夢があってな」
「それは今は言えねえ。でもな、人は俺を見てこういうんだ。」
「ピースマン」と。
「ピースマン...ですか」
「ああ。銘柄の名前で呼ばれるのも、案外悪いもんじゃねえ。どんな銘柄にも、色々な使い道がきっとあるはずだ。」
「だから、お前さん。自分の銘柄、恥じることはねえ。見合った人間になりなよ。なあ。」
「はい...!」
青年の心は、少し安堵していた。銘柄を通り名で呼ばれる存在がいること。そして自分もそうなれるのではないかという淡い期待。加えて、凡庸な能力だからできること...それを自分で考えていくことは、強くなることの第一歩な気がして、最初曇っていた青年の顔は、今は少し明るくなっていた。
「さて」
「そしたら今日から青年のことを俺はメビウスって呼ぶ。俺のことはピースマンとか読んどけ。ピースさんでも、なんでも良い。ともかく、『喫演者』であることがわかった以上、明日から訓練だな!」
「訓練ですか...!?」
「おうよ、まずはジョギング10km、腹筋100回、腕立て50回で、ネオニコチンの恩恵を底上げするんだ。それに、『煙技』も教えてやる。それじゃあ、今日はこれにて解散とすっか!お前も飲み行くか?姉ちゃん、青年!」
「絶対嫌です」
「僕も...明日日雇いありますし...。」
「付き合い悪いな、ガハハ、それじゃあまた、明日このくさむらでみんな集合だ!
これからは厳しいから覚悟してろよ!」
そう言ってピースマンとは別れた。
帰り道、調葉師の少女と道が一緒だったので途中まで帰った。
「ピースマンはね」
「本当は東の国の最強の喫演者だったの。」
「ええ、確かに強いけれど」
「でも、己の思想のために国を出ていって、あなたみたいな存在を探してる」
「だから、あなたは彼を失望させないことね。」
「わかりました」
そう言って、2人はお互い帰路に立っていった。青年...もといメビウスは、明日から始まる厳しい訓練と、自身の能力のことで頭がいっぱいだった。夜はこう言った時に限って長いのを痛感した。
こうして、小さな1人にとって長い月夜がそしてだ多数にとってはあっという間の月夜が明けていった。
このお話を読んでいただきありがとうございます。喫煙者なものでしてタバコの銘柄の違いとか煙の技とかで戦う世界があったら面白そう!と思ってこの作品を描き続けています。
文章が読みにくい、こうすると面白くなる、などのご意見などございましたら是非よろしくお願いいたします。




