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55話

 魔法袋に悪魔の死体を——なるべくアークデーモンなどの特級中心——詰められるだけ詰め込み、強制排出とやらに備えた。


 アナウンスから5分後、私たちを白い光が包み込み、目を開けるとダンジョン近くの屋外に出ていた。

 同様に排出されたであろう人達が周りに沢山いる。なお、この事を想定して装備は地球産のものに変えている。


 最寄りダンジョンが建っていた所を見ると、そこには30階建ての摩天楼が姿を消し、跡地にはただの更地が残っていた。


「おいおい、なんだったんだ今の⋯⋯」

「配信タイミングからしても、やっぱり⋯⋯」

「フルールがやったのか?どうなってんだこりゃ」


 不味い。バレてる。

 ここのダンジョンで生計を立てていた人は、ダンジョンが消滅したことで他のダンジョンに行かなくてはならなくなった。慣れ親しんだ狩場を、探索者歴数ヶ月の小娘たちに消された恨みは計り知れない。


「みんな、一旦WIO日本支部に急ごう!」

「まあそうなるよねー。私は早速スキル試しながら行こっかな!気配遮断(ステルス)!」

「私達も行くわよ!」

「はい!急ぎましょう!」


 一旦パニックや暴動を避けるため、私たちはなるべく静かに、且つ迅速にWIO日本支部へ走った。


 あらゆる人達を振り切り、WIO日本支部に着いた私たちは、急いで受付の人に森山さんに会いたいと伝える。私たちの顔を見た受付の人は、すぐさま森山さんを呼び、私たちは応接室で待つことになった。


 数分後、応接室の扉が三度叩かれる。


「どうぞ!」

「失礼します。フルールの皆様、お久しぶりです。それと本日は⋯⋯」

「俺はWIO日本支部長の天宮(あまみや)源蔵(げんぞう)だ。よろしく頼む」


 森山さんの横に、疲れ果てた顔の筋骨隆々イケオジが立っていた。白髪混じりの黒髪を短く整え、清潔感のある髭を生やしたムキムキのイケオジだ。こんな感じの人が日本の支部長やってるんだ。


「よろしくお願いします!私がフルールのリーダー、西条凛音です!」

「私は有紗よ」

「紗々です!」

「芹那だよー!」

「⋯⋯あぁ、よろしくな」


 三人とも、しっかり練習した日本語での名乗りが無事成功したようだ。特にサーシャは紗々(さしゃ)になるので苦戦したが、その甲斐があったようで嬉しい。

 私が三人の成長を喜んでいると、支部長が険しい表情をする。


「早速だが本題だ。⋯⋯お前たち、ダンジョンマスターを倒したな?」

「どうしてそれを⋯⋯」

「⋯⋯世界中にあるダンジョンの中で、この歴史上ダンジョンが消えたのは今回が2ケース目だ。1ケース目は、インドにできたダンジョンでダンジョンマスターを倒した時だけ。状況証拠しか無いが、俺たちWIOはダンジョンマスターが死ぬことで、ダンジョンは機能を失い消滅すると考えている」


 なるほど、今回と同じようなことが過去起きたのか。そりゃ世界は広いし、その世界中にあるダンジョンなら、一つくらいそういう事があってもおかしくないだろう。


「⋯⋯はい。私たちはダンジョンマスターを倒しました。ただ、元のダンジョンマスターの人がデーモンロードってモンスターに体を乗っ取られて、デーモンロードがダンジョンマスターになった所を倒した、って感じです」

「お、おいおい待て待て。⋯⋯悪い、一つずつ状況を教えてくれ。情報量が多すぎる」


 支部長の願いに応え、私は今回の探索で起きたことを細かく語った。


 途中、買い取りの依頼兼証拠として、無数の悪魔死体が詰め込まれた魔法袋を渡した。数も膨大なので査定額は追々、という事になりつつ、私たちは話を続ける。


 そうして全てを語ると、支部長はガシガシと頭を搔く。胸ポケットに忍ばせている煙草に手を伸ばし、未成年の私たちを見てその手を引っ込めた。なんかすみません。


「はぁ⋯⋯何から何まで規格外過ぎるだろうが⋯⋯」

「えへへ⋯⋯何かすみません⋯⋯」

「まあ良い。しかし⋯⋯やはりダンジョンマスターは普通の人間か。たまに探索者の肉体を乗っ取るタイプのモンスターが居るが、今回のケースは特例中の特例だな。それに、デーモンの軍勢⋯⋯考えたくないな⋯⋯」


 支部長は遠い目でどこかを眺めると、気を取り直したようにスっと立ち上がった。


「とりあえず、ダンジョン消滅の件は間違いなく情報が広がるはずだ。WIOからは消滅したダンジョンをメインとしていた探索者のフォローを行おう」

「ありがとうございます!」

「ただ、今お前たちが外をウロチョロしていると、詳細を聞きたい輩が多すぎてパニックが起きる可能性がある」


 それは尤もだ。エリクサーを手に入れてヤバそうな人達に追われたが、今度はマスコミに追われるのは間違い無いだろう。


「だから、お前たちを匿うのと————その強さを見込んで、一つ依頼を出したい」

「なんでしょうか?」

「⋯⋯未だ全容不明。最高到達階層は3階層。⋯⋯日本政府とWIOが共同管理している超危険ダンジョン。特級ダンジョンである『富士山ダンジョン』攻略を依頼したい」


 富士山。それは、ダンジョン発生以後に立ち入り禁止となった日本一の火山である。頂上に超危険なダンジョンがあり、富士山の周囲10キロ圏内の人達は避難を余儀なくされた。その『富士山ダンジョン』の攻略————。


「えーっと、選択肢って⋯⋯」

「勿論ある。俺たちにお前たちの自由を侵害する権利は無い。ただ、富士山ダンジョンは完全に公的な管理が行われた地だ。ダンジョン内のモンスターが全て特級というイカれた強さである事以外は、日本で一番安全な場所だと思うぞ」


 私はアリサたちを見る。⋯⋯あー、これアレだね。新しく手に入れた力を使いたくて仕方ない、って顔だ。みんな特級ダンジョン攻略にワクワクしてる。


「あのー⋯⋯中の様子って配信しても良いですか?」

「⋯⋯⋯⋯まぁ良いだろう」

「支部長!?宜しいのですか!?」

「⋯⋯⋯⋯丁度良い。富士山を解放しろ解放しろと煩いマスコミ共に、富士山ダンジョンの危険性を伝えてやれ」


 ニヤリと笑う支部長は、今日一の笑顔を見せてくれた。

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