56話
話のストックが無くなったので、ちまちま更新していきます
私たちが最寄りダンジョンを完全攻略した日。世界は消滅したダンジョンと、その原因であろうフルールに強い注目が集まった。
トレンドは私たちの関連で埋まり、朝のニュース番組から夜のワイドショーまで、私たちの事で持ち切りだ。
そんな事件日の翌日。私たちは富士山ダンジョンに通うため、富士山の麓にある家へと来た。
ここはWIOから公式に依頼を受ける特級探索者用に作られていた家らしいのだが、私たち以外の特級探索者が誰も富士山ダンジョン攻略に乗り出さなかったため、半分廃墟と化していたらしい。先日業者を呼び、急ピッチで掃除等を済ませたらしい。
富士山麓の家——仮称、富士ハウス——に来た翌日。つまり、ダンジョン消滅事件から2日後。富士ハウスから、ロープウェイで富士山ダンジョンへ向かった。昔は頂上までのロープウェイが無かったらしいが、今はダンジョン産の素材により実現しているようだ。
「それじゃ早速、富士山ダンジョン攻略行きますか!」
『おー!』
私たちは富士山ダンジョンの超厳重なセキュリティを通過し、ダンジョン内へと足を踏み入れる。
最寄りダンジョンとは違い、1階層はあちこちに監視カメラが付けられている。これはダンジョンのモンスターが一定数を超えると起きる現象——スタンピードを警戒してのことだ。
スタンピードとは、ダンジョン内のモンスターがダンジョン外へと出てくることを指し、特にこの富士山ダンジョンは特級モンスターしか出てこない超危険区域。WIO職員で最低限ギリギリの間引き活動は行っているようだが、何かあっては遅いのでこの対応というわけだ。
ここではどれだけ強いモンスターが出てきても、異世界スタイルでは戦闘できない。その事を念頭に起きつつ、私たちは歩を進める。
「確か1階層は——」
私たちの前に現れたのは、翼の生えたライオンの体躯に、山羊の頭を背中から生やし、尻尾が蛇のモンスター。
「キマイラだね」
言わずもがな、キマイラは特級モンスターだ。
ライオンの体と頭部が近接戦闘を担当し、山羊の頭が遠距離攻撃を担当。蛇の尾は毒などの特殊攻撃を担当している。攻撃力、防御力、スピード、応用力全てが高い水準であり、ついでに簡単な飛行能力まで所有している厄介なモンスターだ。
キマイラは、1級相当のWIO職員が1体あたり10人がかりで戦わなければならない強敵である。
強くなった私たちの力がどのくらい通じるか、試してみるとしよう。
「行きます!加護!」
『身体強化!』
「加速!」
いつもの嘘スキル発声を終えた後、小声で新たなスキルを発動してみる。
まずは、多重思考から発動してみるとするか。
⋯⋯スキルを発動してみると、なんとも形容しがたい状態になる。試しに左手にスマホを持ちながら槍を構えてみるが、そのどちらとも100%の精度で操作できそうだ。いきなり戦闘でどう役立てるかは考える必要があるが、そう悪くないスキルだと言えるだろう。
次に戦場展開を発動してみる。私と相性の良い、雷属性の魔力が豊富な空間をイメージしてみると、パッと見は分からないが確かにそういった空間が出来上がっていた。
『雷纏』を使用すると、普段より遥かに構築時間、魔力効率、効果時間が向上していた。これはかなり応用の効くスキルだ。ちゃんと使っていけば、かなりの戦力向上が見込めるだろう。
「よし、まずは様子見で——『雷神の槍』!」
いつもよりもスムーズに魔法を構築した私は、槍をキマイラに向けて投擲する。
槍は獅子の頭を貫くが、キマイラの活動は止まらない。どうやら、蛇と山羊の頭も潰す必要がありそうだ。
「それなら、こうだ!」
槍を二本同時に投擲すると、二本の槍は蛇と山羊の頭に向かう。
しかし、蛇頭の瞳が輝くと、槍がその場に落ちる。同時に、獅子の頭が首から生えて再生した。
「よく分かんないけど、『雷神の槍』だと倒せないタイプっぽいな⋯⋯」
「それなら次は私がやるわ。まずは⋯⋯威圧」
アリサから尋常ではない圧が放たれると、キマイラは動きを止める。しかし、獅子頭の目が輝くと、キマイラは威圧の効果に打ち勝ち、動き始めた。
「なるほどね。なら⋯⋯戦域支配」
アリサの声と共に、力とやる気が漲ってくる。これがスキルによる士気向上か。サーシャが使う勇気の魔法に似た力のようだ。
一方、こちらの能力も獅子頭の目が輝いてから、キマイラへの効果が消えたように見えた。
「もう一個の方は今は使えないし⋯⋯私の番は終わりね。じゃあ次は————」
「私が行くね!気配遮断!」
セリナがスキルを使うと、仲間の私たちでも一瞬見失ってしまう。これはスキルの練習をしてもらわないと、怪我させてしまいそうだ。
気配を消したセリナがキマイラの懐に近付くと、いつも通りダガーナイフで奇襲を仕掛けようとする。しかし、蛇頭の目と山羊頭の目が輝くと、キマイラを中心とした爆炎が発生し、セリナはそれを避けるために大きく後退した。
そこへすかさずキマイラが距離を詰め、獅子の頭と体躯で近接戦闘を仕掛ける。かなりのスピードとパワーを持つが、セリナには遠く及ばず、いとも簡単にあしらわれる。それでもたまに来る山羊頭と蛇頭の特殊な攻撃が厄介なのか、決め手に欠けていた。
「結構めんどくさいタイプのモンスターだなぁ」「獅子頭が自身への付与効果解除、蛇頭が他——人でも物でも——への付与効果解除、山羊頭は炎・風・土・水を操る能力。そんな所ね」
「蛇頭には私の『雷神の槍』と、セリナの気配遮断が打ち消された。獅子頭にはアリサの威圧と戦域支配が打ち消された⋯⋯」
結構めんどくさいタイプだ。これ相性によっては特級の人でもキマイラに負けるんじゃなかろうか。レベル制の無い地球では、基本的にスキルによる肉体強化で戦うのが常である。3級より上に行く人は、そもそもの身体能力が極めて高い人が多いものの、人間の身体能力では限界がある。
その為、直接攻撃系のスキルを持ってる人じゃないと厳しい相手だ。私の嘘スキルである身体強化や、銃弾制御の弾道制御を持つ人では厳しいだろう。
セリナがこちらに下がる。
「仕方ない、一旦ここは——」
「何言ってんの。蛇頭の効果が発動する前に——殺しちゃえば良いでしょ」
ニヤリ、と笑うセリナに背筋が凍った。
こうなったセリナは、誰も止められない。
「何かする前に、認識する前に、殺す————『超加速』×——時間圧縮、発動」
◆
へぇ⋯⋯。『超加速』と時間圧縮を掛け合わせると、こんな感じになるんだ。
私は静止した世界で呟く。
ただでさえ速かった『超加速』による高速移動に、異世界で手にした新たな力である時間圧縮を掛け合わせた結果、世界の時間は停止した。⋯⋯正確には、停止したと感じるほどの高速化。
横にいるリンネ達の顔が驚いたままで、少し面白い。少しいたずらでもしようかと思ったが、時間圧縮は私の認識している時間で10秒経過すると効果が終了する。その為、いたずらをする余裕は無さそうだ。
一歩でキマイラの懐に潜り、戦技を発動する。
「『灰塵』」
ほぼ停止した世界で、更に速まる斬撃がキマイラの頭部全てを粉微塵にする。
「デーモンロードと比べたら大したことなかったね。⋯⋯スキル発動後の3秒間動けないのが集団戦だと致命的だから、使い方は考えないとな〜」
私は動けなくなる肉体をサーシャに預ける姿勢を取り、時間圧縮の効果を終了させた。




