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49話

「行きます!『全能力超向上』!『全能力超低下』!」

「む?余に呪いか何かを付与したな?残念だが、余にはその類の能力は効果せぬぞ」


 サーシャの定番魔法からスタートする筈が、デーモンロードにはデバフ魔法が効かないらしい。アークデーモンには効いたので、こいつ特有の何かしらの耐性か。


「『疾風迅雷』!『不撓不屈』!」


 続いては、速度強化と耐久力向上のバフ魔法だ。この二つは『全能力超向上』と掛け合わせて使用することができる。


「リンネさん!『魔法威力倍化』!」

「おっけー!いったん初撃は⋯⋯大技ぶっぱ!」


 サーシャから付与された新たなバフ魔法『魔法威力倍化』は、分かりやすく魔法で与えるダメージが倍になるという魔法だ。


 私は魔導神杖に魔力を込める。久しぶりに杖を使って魔法を使うが、やはりこっちの方がしっくり来る。

 魔力の奔流が私の中を巡り、掌から杖の柄を巡る。そしてそれは全て、先端の魔石に集まっていき⋯⋯魔法を構築する!


「『爆雷龍擊』!!」


 雷が巨大な龍を象り、音を置き去りにデーモンロードの上半身を消し飛ばした。


「ぬ、ぬぅっ!」


 しかし、瞬時に上半身が再生する。デーモンロードの言っていた『器』⋯⋯つまり、さっきまで戦っていた、大量吸血済みのレッサー・ヴァンパイアの能力だろう。本当、厄介な能力だ。


 再生したデーモンロードだが、間髪入れずにアリサが接近する。デーモンロードは肉体から剣——バスターソード——を二本作り出すと、それを乱暴に振るう。あんな重たそうな剣を片手ずつで振り回すとは、恐るべき膂力だ。

 アリサはバスターソードの攻撃を盾で受け流した。軌道を逸らされたバスターソードは地面に刺さり、それを抜くのに一瞬硬直が生まれる。アリサは、それを見逃すことは無かった。


「『獅子奮迅』!」

「なにっ!?」

「喰らいなさい⋯⋯『紅蓮斬』!!」


 獅子王盾と連動するアリサの戦技——簡単に言うと、戦士職が使える魔法のようなもの——『獅子奮迅』は、自身の精神力とテンションを大幅に上げ、相手——盾の獅子に睨まれた者——の精神力とテンションを大幅に下げる。効果を受けた相手は、一時的に行動が阻害される。


 そして、紅蓮魔剣に魔力を込めて発動する戦技『紅蓮斬』は、アリサの魔力に感応し、切れ味抜群の炎の大剣を生み出す。その一撃は、あらゆる物を一刀両断するのだ。


 『獅子奮迅』で行動を止められ、『紅蓮斬』で体を縦に真っ二つに斬られたデーモンロードだが、左半身をアリサに投げつけると、残った右半身から左半分の体がニョキニョキ生えてくる。


「紅蓮魔剣の再生阻害効果が発動しない⋯⋯」

「呪いの類いが効かないってやつか。『獅子奮迅』は効いたから、肉体に干渉するデバフや阻害効果は発動しなくて、『獅子奮迅』のように精神起因の効果は受ける、って感じかな」


 後ろに下がってきたアリサに、私はそう声を掛ける。こうなると、残機がどれくらいあるか分からないまま、コイツを倒し続ける必要がありそうだ。


 再生したデーモンロードは、今度は手をこちらに翳してくる。


「喰らえ!デモンズ・エンド・パニッシュ!」


 その言葉と共に、デーモンロードの右手から、黒い稲妻を纏ったビームのような物が飛び出した。


「防ぎます!『簡易結界』!」

「私の後ろに!『魔力障壁』!」


 魔力で遠隔操作できる簡易結界用の楔。それをサーシャが飛ばし、私たちの前に結界魔法を発動した。追加で、アリサが獅子王盾から魔力のバリアを形成する。

 デーモンロードのビームは、サーシャの結界と数秒反発。しかし5秒程度で簡易結界を突破すると、アリサの魔力障壁に到達した。


「喰らい尽くしなさい!獅子王盾!」


 魔力障壁に防がれているビームを、獅子王盾に装飾されている獅子の口が吸い込む。この盾、どういう訳か盾の獅子が魔法を吸い込んだりするのだ。勢いまでは殺せないので、基本的に魔力障壁との合わせ技で吸い込むことが多い。

 獅子王盾が吸い込めたということは、あのビームは魔法⋯⋯または、それに近い何かということか。


「何!?余のデモンズ・エンド・パニッシュが!?——ぐっ!?」

「——『灰塵』」


 デーモンロードがビームを防がれた事に驚いている隙に、セリナが音も無く背後に忍び寄ると、風雷双剣による神速の連撃を放った。


 私の雷魔法よりも速い連撃——戦技、『灰塵』——は、瞬きのうちにデーモンロードの肉体を粉微塵にした。


 塵となった肉片のうち、一番私たちから離れた物から、モコモコと肉が生えてくる。そしてやはり、一秒と経たずに肉体が完全再生した。


 しかし、今回はほとんど肉体の全てを再生させたからか、デーモンロードの顔色が少し悪くなっていた。


「はぁ、はぁ⋯⋯れ、劣等種がぁ⋯⋯!」

「『立体簡易結界』!」


 四本の楔から範囲を決め、凡そ3メートルの高さに結界を貼る『簡易結界』。そこに更に四本の楔を増やし、八本の楔によって範囲と高さを指定可能や結界⋯⋯『立体簡易結界』。

 サーシャは、結界の底面をデーモンロードの胸下の辺り、天面を首辺りに設定し、そして面をデーモンロードを囲めるように楔を動かすと、『立体簡易結界』を発動した。


 つまりどうなるかと言うと、背の低い結界が、デーモンロードの首から胸下までの上半身を包んでいた。


「うっ!?な、何を——」

「行きます!『結界転換』!」


 全く同じ大きさの結界同士の中身を入れ替える魔法、『結界転換』。サーシャの横に形成された、アークデーモンを包む結界と同じ大きさの結界に、先ほどまで結界に包まれていた部分——つまり、アークデーモンの首から胸下までの肉体——が飛んでくる。

 代わりに、アークデーモンの肉体部分には、結界に包まれていた空気が来ていた。⋯⋯つまり、アークデーモンの肉体を一部まるまる削り取ったのである。⋯⋯え、エグい攻撃だ。何あれ、あんなの異世界じゃ使ってなかったよな⋯⋯日本に来てから習得したのか⋯⋯。


「!?き、貴様ァ!」

「『立体簡易結界』!『結界転換』!『立体簡易結界』!『結界転換』!『立体簡易結界』!『結界転換』!!!」


 サーシャは魔法袋から鋭いトゲが生えた棒⋯⋯敢えて言うなら鉄製のサボテンを三本取り出すと、それを全て『立体簡易結界』と『結界転換』を使って、アークデーモンの肉体に埋め込んだ。何あれ怖い⋯⋯。


「お?あの症状⋯⋯」

「ネクロファージ・スライムの毒液が針の1本1本に仕込まれてます。こんな事もあろうかと、特注しておきました!」


 ネクロファージ・スライムの弾丸を受けたケルベロスと同じように、デーモンロードの肉体が分解されていく。これは呪いの類とカウントされず、攻撃判定だから通るみたいだ。


 デーモンロードは、ネクロファージ・スライムの毒を理解したのか、すぐさま頭部の上半分だけを切り落とすと、それを遠くに投げた。

 そして頭部の目からビーム的なものが出ると、サーシャの鉄棒と融合した肉体が完全に爆散し、飛んで行った頭部から体が生えてくる。キモい。


「ぬぅっ!⋯⋯器の能力、分かってきたぞ」

「一番大きい肉片から復活するんでしょ?」

「⋯⋯チッ、劣等種も気付きおったか⋯⋯!」


 大方察してきたが、デーモンロードの器になったレッサー・ヴァンパイアの持っていた『死至再生』は、ダメージを受けた際、欠損した肉体を再生する。その時、一番大きい肉片をベースに再生するため、心臓を潰そうが頭を潰そうが、セリナのように粉微塵にしても再生するワケだ。


 幾度もの再生によって、一糸まとわぬ姿のデーモンロードは、それでもニヤリと笑った


「だが気付いた所でもう遅い⋯⋯余の力を、もっと味わうが良い!」

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