43話
文化祭が終わり、期末テストも終わり。
私たちは、高校生活最後の夏休みに突入した。
今日は夏休み1日目。そして、最寄りダンジョンの最上階——30階層の攻略日だ。
今さらだが、ダンジョンは各階層の移動にワープゲートみたいな物を使っている。そして、そのワープゲートはセーブポイントにもなっていて、階層間の移動を容易にしている。なので、30階層から一気に1階層まで転移して帰還、逆に1階層から30階層までスキップする、という事が可能だ。ただ、自力で到達していない階層のワープゲートへは転移することが出来ない。
そして今回も、ワープゲートを使い30階層へやって来た。WIOの全階層調査以降、民間の探索者としては初めて30階層に到達したらしい。まぁ宝箱も全然無いし、ドロップアイテム目当てならあんまり美味しくないダンジョンだもんなここ。シンプルが故に攻略はし易いが、モンスター討伐の報酬しか稼げないのが難点なダンジョンである。
「今日も始めるよ!フルールチャンネルのリーダー!リンネとー?」
「アリサと」
「サーシャと!」
「セリナだよー!」
『私たち、フルールです!』
『遂に最上位階層きたああああああ!!』
『みんな待ってたよー!!!!』
『50000円:最上位階層の攻略、上手く行きますように』
『3000円:夏休みの楽しみ』
『夏休み?何それ美味しいの?』
今日もコメント欄はワイワイしている。遂に訪れた30階層の攻略なので、みんなワクワクしてるんだろう。
今日は泊まり込みで30階層を攻略する。普段はマッピングと攻略を数日に分けて行っていたが、折角の夏休みなので一気に行うことにした。
魔法袋には十分な量の食料と飲料を入れたし、最悪魔法を使えばどうにかなるので問題無いだろう。
「じゃあ改めて、30階層のおさらいをしよう。サーシャ、お願い!」
「はい!30階層は、このダンジョンで最も広く、出没するモンスターも全て適正ランクは1級です。
主なモンスターは、フレア・ワイバーンや、アイアン・ジャガーノート、ワイトキングなどが挙げられます。
同じ種のモンスターは群れを成すことが多く、たとえばワイトキングは、2級モンスターのワイトジェネラルや、ワイトワイズマン、3級モンスターのワイトナイトやワイトアーチャーなど、下級のモンスターを配下とし、30体規模での群れを成している事などもあります」
「ありがとう!」
サーシャが最寄りダンジョンの攻略ガイドブック——WIOが出版している、モンスターの生息情報などが纏められた本。定期的にダンジョンの構造が変わるため、地図情報は載っていない——を読み上げると、コメント欄がザワつく。
『ぶっ飛んでんなー最上階』
『もよダンの本気って事だろ』
『フレア・ワイバーンなんか、1級のくせにアイツら同士で群れ作ったりするらしいぞ』
『勝てる気しなくて鬱』
『フルールなら余裕でしょ』
なんというか、予想通りのザワつき方をしている。
1級モンスターが仮に外へ出た場合、都市が崩壊するほどの被害を齎すとされている。そんなのがウジャウジャ居る訳で⋯⋯普通は絶望するだろう。なんせ、コイツら戦車の砲撃を受けてもピンピンしてるくらいだ。
まぁ、それでも私たちの方が強いけど。
「良し!じゃあ行くよ皆!」
私は槍を、アリサは盾と剣を、セリナは二本のダガーナイフを、サーシャは特殊弾が詰め込まれた自動小銃を構え、30階層を進む。
ダンジョン攻略開始5分後。セリナが敵を発見した。
「そこの角を左、次の角を右、そっから3つ先の十字路を左に曲がった辺り⋯⋯数は8。多分全部1級かな」
「了解!まずはそこから倒しに行こう!」
『セリナちゃんの神索敵キタ━(゜∀゜)━!』
『相変わらずどういう仕組みで敵見つけてるんだ』
『気にしたら負けだ』
セリナの言う通りに進むと、全身に雷と炎を纏う動く鎧——1級モンスター、ストーム・ナイトが8体立っていた。
「まずはウォーミングアップだよ!1人2体、行けるよね!」
「誰に言ってんのよ。当たり前でしょ」
「おっけー!」
「では行きます!加護!」
サーシャの加護⋯⋯という名の『全能力超向上』が発動され、私たち全員のステータスが跳ね上がる。
特級のアークデーモンが魔王軍の分隊長クラスであるのに対し、1級のストーム・ナイトは、魔王軍一般兵クラスだ。それでも、通常の魔物よりはかなり強かったけど。
私は『雷纏』を自身に発動し、増加したスピードでストーム・ナイトに近付く。槍で鎧の胸部を狙うが、私の突きは鎧に弾かれる。そして、纏っている炎と雷が私を襲った。
⋯⋯ふむ。雷属性には高い耐性があるため、ほとんど効果を発揮しないが、炎属性にはそこまで高い耐久が無いためか、少し熱い。例えるなら、炊きたてのご飯を入れたお茶碗より少し熱くないくらい⋯⋯には熱い。
後は鎧の耐久性が凄い。アークデーモンでさえ貫いたというのに、この鎧が弾くとは⋯⋯中々の防御性能だ。
「リンネさん!ストーム・ナイトの鎧部分は、物理攻撃無効の能力を持っていて、ダメージが通りません!他の部分を狙ってください!」
「はっ!そうだった!」
サーシャの声で思い出した。そう言えば、ストーム・ナイトは攻撃力が大した事ない分、鎧に物理攻撃無効の特殊能力があるんだった。噂では、これもスキルなのでは?と言われているが、真偽不明だとかなんだとか。
そうと決まれば⋯⋯狙うのは、鎧の継ぎ目!
「はぁぁぁっ!」
再度接近し、頭部と胴体の隙間⋯⋯首の部分に槍を突き刺した⋯⋯かに思えたが、尋常ではない反応スピードで私の突きを、鎧で弾いた。
そしてカウンターで剣を振ってくる。それを難なく避けると、私は後方に下がった。
なるほど、攻撃力が低く、攻撃のスピードも早くない。だが、防御能力と防御スピードは凄まじいものがある。防御に関してだけ言えば、アークデーモンを超えている。
周りを見ると、セリナは既に2体討伐済み。アリサは1体。サーシャと私が0か。この辺は近接戦闘の経験値の差や、相性なんかが出ている。
「リンネさん!中々手強そうです!」
「セリナはストーム・ナイトの防御より早く、首を落としてるっぽいね」
『リンネちゃまが苦戦してるの初めて見た!』
『すげえ⋯⋯これが1級のモンスターか!』
『28、29階層の1級モンスターよりやっぱ強そうだな』
『サーシャたんも頑張って!!』
『セリナちゃん早すぎてビビったwww』
うーん。どうしよっかなぁ。
私が可能な槍での攻撃は、大抵防がれる。『雷神の槍』も、恐らく物理攻撃判定になるだろう。
であれば、だ。私は私なりにステータスのゴリ押しと行こうじゃないか。
「よいしょっと!」
まずはタックルでストーム・ナイトの体をうつ伏せに倒す。少々熱いが、ダメージはほぼ無い。そしたら、背中から馬乗りの状態で、ストーム・ナイトの兜を両手で掴んだ。
「うおりゃあああああああ!!」
物理攻撃は無効だが、物理的な衝撃までは無効化出来ていない。ならば、鎧そのものを剥がしてしまえば良い。
思いっきり力を込め、無理やりストーム・ナイトを仰け反らせる。鎧自体は物理ダメージを通さないが、中の本体はそうは行かない。鎧ごと引っ張られ、その体を引きちぎられそうになり、堪らずストーム・ナイトは兜を脱いだ。
中身はなんというか、黒いマネキンだ。こんな感じなんだなぁと思いつつ、私は丸出しになった頭部を掴むと、その首を捩じ切る。異世界でセリナから習った、緊急時用の暗殺術⋯⋯首切りだ!
やはり中身の耐久力は大した事なく、私の腕でいとも簡単に事切れた。同じ要領でもう1体のストーム・ナイトも撃破する。
私が2体倒したところで、アリサもサーシャも、2体のストーム・ナイトを倒し終えていた。
「みんなお疲れ!中々手強かったね!」
「これがタンクとして複数いたら面倒臭いわね」
「結局力押しになっちゃいました」
「ヤバい時は私がサクサクッと首落としちゃうから、安心してよ!」
『リンネちゃま、なんか兜引き剥がして頭捥いでた』
『サーシャたんも似た感じのことしててヤバかった』
『アリサ様とセリナちゃんは、シンプルに剣で切り倒してたな』
『え?ストーム・ナイトって雑魚いの?』
『な訳無いだろ。1体いりゃ、戦車の砲弾もミサイルも何も効かないバケモンが、ひたすら人を殺してまわるんだぞ。都市壊滅してもおかしくないって』
『まぁ、相手がフルールだからな⋯⋯』
『それは言えてる⋯⋯』
こうして、1体750万円のストーム・ナイトを魔法袋に入れ、私たちはダンジョンを更に進んだ。




