40話
「いやー、愛花がリンネちゃまのクラスメイトで、しかも私の妹⋯⋯!こんな奇跡あるの?って感じ!しかもしかも、抽選も当たるなんて!」
「ちょ、ちょっと姉貴⋯⋯うるさい」
「もー!姉貴なんて言わないで!昔みたいに、お姉ちゃんって呼んでよう!」
「うわー、キツいなぁアラサーのキャピキャピした姿⋯⋯」
「まだ私は25なんですけど?アラサー呼ばわりしないでくれない?」
「四捨五入したら30じゃん⋯⋯」
体育館前方の席。そこには、凛音のクラスメイトである、宮園愛花と、その姉である宮園恋花が座っていた。
ギャルギャルしい見た目の愛花と異なり、恋花はバリキャリOLのような、デキる女の見た目をしている。初見では、二人を姉妹と思う人は少ないのでは無いだろうか。
愛花は、恋花の軽々しいトークを雑に返しながら、フルールのステージを待っていた。
「しかし、素直じゃないねえ愛花も」
「な、何が⋯⋯」
「リンネちゃまと私の家に来た時、凄いツンツンしてたじゃん。本当はライブ楽しみにしてる癖にぃ〜」
「違うし。姉貴がどうしても見たいって言うから、こんなヤバい大人一人で、高校生ばっかの体育館に放っちゃダメだと思っただけだし」
「ど、どういう意味!?」
「そのまんまの意味だよ。通報されて文化祭に支障きたしたら、私が頑張った意味無くなるし」
「ひ、酷い!!」
およよ、と泣きつく恋花を、愛花は引き剥がす。
「見て見て!フルールのライブ配信、同接20万超えてるよ!」
「⋯⋯文化祭の中継だよね?これ」
「そんだけ期待度が高いって事でしょ!」
恋花が鼻息荒くなる中、愛花は心の中でガッツポーズを握っていた。
(当たり前でしょ!フルールのライブなんだから!同接30万超えてもおかしくない!)
そう。愛花は隠れフルールファンだ。
それも、最推しはリンネ。つまり、クラスメイトの西条凛音が一番好きなのである。
(ああ、本当にお姉ちゃんの言う通りだ⋯⋯なんで凛音ちゃんの前だと素直になれないんだろう⋯⋯!本当は仲良くしたいのに⋯⋯!)
愛花は、凛音がフルールとして活動する前から、西条凛音のことが気になっていた。しっかり会話した事は無かったが、普段桜と共にしている姿などを見て、そのどこか掴めない性格が気になっていたのだ。
そして、凛音がフルールのリンネとして活動してから、一気に愛が溢れた。たまたまだったが、フルールの初回配信から凛音たちを見つけ、そこからずっと追っている最古参の一人である。
「早く始まらないかなぁ」
「姉貴、ソワソワしないで。恥ずかしいから」
「仕方ないでしょ!楽しみすぎるんだもんー!」
◆
「うおおおおお!!」
「フルール!フルール!フルール!」
「リンネちゃまあああああ!!」
「アリサ様あああああああ!!」
「サーシャたんんんんんん!!」
「セリナちゃあああああん!!」
ステージに上がった私たちに、止めどない大歓声が降り注ぐ。
まさに、爆発という表現が正しいほど、凄まじい歓声で空気が震えた。
——凄い。
この体育館に何人入るか、数では理解していた。しかし、それを実際にステージから見るのと、そうでないのとでは、まるで違う感情を抱く。
そして、彼らはそこに居る。配信のように画面越しではなく、目の前に居るのだ。なんだか、胸の奥が少し暖かくなる。
「みんなーーー!!今日は私たちの文化祭ライブに来てくれてありがとうー!!」
「今日は楽しんで行こうー!!」
「暴れるわよ!!」
「楽しんで行きましょう!!」
「わああああああ!!」
「フルール!フルール!フルール!」
マイクを握り、私は叫ぶ。合わせて、セリナ、アリサ、サーシャも叫んだ。
それだけで、歓声がもう一段階大きくなった。
——ヤバい。楽しい。
私は言い表せない高揚感に包まれながら、1曲目の曲名を叫んだ。
「それでは聴いてください!!1曲目、ハートビート・ダイブ!!」
「ハトビ!?」
「ハトビきちゃああああああ!!」
「サブリミナルのカバーアッッッッッツ!!」
「うおおおおおお!!!」
歓声を掻き消すくらいの音量で、ハートビート・ダイブの音楽が流れる。
現役探索者アイドルである『サブリミナル』の代表曲、『ハートビート・ダイブ』は、認知度も盛り上がり方も、ライブに相応しい音楽だ。
イントロに合わせて、体が自然に動いた。
ステップ。ターン。視線。
全部、体に染み込んでいた。
セリナが大きく跳ね、サーシャが柔らかく手を伸ばし、アリサが鋭く踏み込む。
四人の動きが、ぴったりと重なる。
「わあああああああ!!」
「最高おおおおおお!!」
「生きてて良かったあああああああ!!」
『ミョーホントゥスケ!化繊飛除去!ジャージャー!ファイボ!ワイパー!』
『うりゃおい!うりゃおい!うりゃおい!うりゃおい!』
『よっしゃー行くぞ!』
『タイガー!ファイヤー!サイバー!ファイバー!ダイバー!バイバー!ジャージャー!』
なんかめちゃくちゃ統一されたアイドルのコールが聞こえる。けど、それも楽しい!恥ずかしさなんか、どっかに行った!!
「ドキドキ止まらない」
『リーンネ!リーンネ!』
「胸の奥が騒ぐよ」
『アーリサ!アーリサ!』
「踏み出した一歩が」
『サーシャ!サーシャ!』
「未来を変えてく」
『セーリナ!セーリナ!』
「怖くてもいいんだよ。震える手を取って」
『サーシャ!サーシャ!超絶可愛いサーシャ!』
「一緒ならどこでも 行ける気がするの」
『セリナ!セリナ!超絶可愛いセリナ!』
マジでいつこの完璧なコール練習したんだ。歌詞割り言ってなかっただろ。
そんな事も過ぎりながら、私はパフォーマンスを続ける。
手を伸ばし、横並びに並んだメンバーを見る。皆、最高の笑顔だ。異世界で命を賭けて戦っていた私たちが、今は。こんな場所で、歌って、笑って、歓声を浴びてる。⋯⋯最高の気分だ。
サビに入るので、伸ばした手を戻し、耳に当てて前に出る。
「ねえ聞こえてる?」
「君のビートが」
『フゥフゥ!』
「私のリズムと」
「重なってく」
『フゥフゥ!』
横一列に広がって⋯⋯両手を上げてジャンプ!サビは、観客もメンバーも、全員で歌うんだ!
『ハートビート・ダイブ!』
皆で、両手を上げて飛ぶ!ここがとにかく最高だ!
『飛び込んで!
君とならどこまでも行けるよ!
この世界、全部キラキラに変えて
最高の今を更新中!』
『ハートビート・ダイブ!』
『止めないで!
加速する想いは止まらない
一瞬だって逃したくないから
ねえ、手を離さないで!』
四人で並び、手を前に挙げる!最後の決めポーズで、観客のボルテージは最高潮だ。
そして、二番とラスサビを歌い切り⋯⋯曲が終わった。
一瞬の静寂が訪れ——そして。
『うおおおおおおおおお!!』
体育館が、歓声で揺れる。
見るまでも無いが、1曲目は大成功だ!
「はぁ、はぁ⋯⋯ヤバいねこれ!」
「く、癖になりそうです!」
「当然の結果ね」
三人が小声で喜びを噛み締めている。アリサは余裕の態度だが、よく見ると頬が緩んでいた。
「まだまだ楽しもう!」
私は笑う。その笑顔に、アリサたちも太陽のような笑顔を返してくれた。
「みんなー!ありがとー!!」
「フルール最高だったよー!」
「ありがとうフルール!!」
「クソ痺れたぜー!!」
私の声に、観客席から大きな返事が聞こえる。
「いつの間にか完成してたコールがすっごい気になるんだけど⋯⋯それは置いといて。みんな、盛り上がってくれたかー!!」
『イエーーーーーイ!!』
マジで楽しい。一生コールアンドレスポンスやりたい。やらんけど。私は恥も外聞も捨てて、会場を盛り上げることに全力を注ぐ。
「体育館右側の席ー!」
『うおおおおおおお!』
「体育館左側の席ー!」
『うおおおおおおお!!!』
「最前列と体育館の二階席ー!!」
『うおおおおおおおおおおおお!!』
「みんな最高だぜー!!」
「なんかリンネ、キャラおかしくない?」
「ハイになっちゃってるわね」
「楽しいから仕方ないですよね」
うっ。アリサ達のツッコミで、少しだけ現実に戻ってこれた。このままだと、あと1時間くらいコールアンドレスポンスで遊ぶところだった。危ない。
私は仕切り直すようにマイクを持ち、観客に宣言する。
「次の2曲目で最後です!」
『ええええええ!!』
「ごめん!もっと練習して、いつかもっと沢山歌えるライブをするから!」
本当に今日のライブが出来て良かった。絶対またライブしよう。心の底からそう思いながら、二曲目のイントロを流し始めた。




