38話
執事喫茶での強制巻き込まれ事件が終わり、シフトを抜けたアリサが合流。私、桜、アリサの3人で、屋台エリアに繰り出す。チョコバナナなど祭りっぽい屋台が幾つも出ていて祭り気分が凄い。
「アリサ、桜、何か食べたいものある?」
「私は肉が食べたいわ」
「私も。甘いのはまだ要らないかも」
さっき私とアリサに色々と甘い物を食べさせられた桜は、甘くないものをご所望らしい。色々すみません。
とりあえず肉という事だったので、フランクフルト屋に並ぶ。私たちが並ぶと、色んな人がザワザワしていて居心地が良くないが仕方ない。
「いらっしゃいま————リンネちゃまにアリサ様!?」
「うお、ビックリした!もしかして配信見てくれてるの?」
「た、多分この高校で配信見てない人居ないんじゃないですかね⋯⋯あ、ご注文どうしますか?あと、後でサインください。店に貼ります」
文化祭の屋台で何を言ってるんだこの子は⋯⋯。2年生の店員の言葉に苦笑いを浮かべながら、私たちは注文を済ませ、サイン色紙を受け取る。
こんな事もあろうかと、実は日夜サインを考えていた。まさか初サインが文化祭のフランクフルト屋になるとは思っていなかったが。
サラサラと筆記体で『Rinne』と書き、eの右にハートマーク⋯⋯後はフルールの共通サインである筆記体の『Fleur』に花のマークを書いて⋯⋯と。
できた!私の初サインだ!
横目でアリサを見ると、アリサもサインを考えていたのか、綺麗なアルファベットで『Arisa.』と書いている。質実剛健って感じのサインだ。フルールの共通サインの可愛らしさがギャップで良い感じである。
「はいどうぞ。世界初の私のサイン、大事にしてね」
「私のもあげるわ。転売?とかしたら許さないから」
「せ、せせせ、世界初のサイン!?そ、そんなものをくださるのですか!?」
「言葉使いおかしくなってるよ。あ、フランクフルトありがとう。じゃあ頑張ってね〜!」
私たちは三本のフランクフルトを受け取り、店を後にする。店員の子、酷く動揺していたが大丈夫だろうか。
アリサの手伝いでチェキ撮った時も思ったが、サイン会や撮影会を開いて、ファンの人たちと交流する場が欲しいところだ。もちろん、しっかりした大人に任せないと、パニックが起きかねないのでそこは自重する事にする。
いくつか出店を見たところで、サーシャのクラスがやっている焼きそば屋に来た。凄い並んでいたため、かなり待ったが仕方ない。
「リンネさん!アリサさん!あと⋯⋯サクラさん!いらっしゃいませ!」
焼きそば屋と関係あるのか分からないが、捻りハチマキに法被を羽織ったサーシャがお出迎えしてくれた。なんかイメージと違う感じがして可愛い。
「焼きそば食べに来たよ〜!」
「ありがとうございます!3パック買いますか?」
「流石に入んないから、1パックを3人で分けるよ。売上に貢献できなくてごめんね」
「全然大丈夫ですよ!そしたら、仕上げするので待っててくださいね!」
そう言うと、サーシャは鉄板の上で焼かれた焼きそばをプラスチック容器に詰めると、市販の辛子マヨネーズを取り出し、大きなハートを描く。ハートの中を鰹節と青のりで埋めると、その焼きそばを渡してくれた。
ただの焼きそばだというのに、なんとも言えないハピネスを感じる⋯⋯。なんだこれは。これが恋?え?好き。
「サーシャ!これ可愛すぎるよ!」
「えへへ⋯⋯私なりに、何か出来ないかなって考えたんです!食べる時には関係ないですけど、少しでも喜んでくれたらなって」
「サーシャ。今度から家で作る焼きそばでも描いてほしいわ。本当に可愛いわ」
私とアリサは、サーシャの可愛げにメロメロだ。二人でサーシャの頭を撫でると、サーシャは恥ずかしそうにニヨニヨと笑う。なんだこの可愛い生物。保護したい。あ、既にウチの子だった。
「ちょ、ちょっと凛音、有紗さん。紗々さん可愛がるのは良いけど、みんな見てるよ!」
「!」
桜の声を聞き、バッと振り返ると、たくさんの人が私たちを生暖かい目で見ていた。は、恥ずかしい!
「尊い」
「てえてえ」
「何あれ可愛すぎる」
「これが幸せか」
「こんなの見て本当に良いんですか?」
なんか配信のコメントみたいなこと言ってる⋯⋯。私は恥ずかしさのあまり、アリサと桜の手を掴み、早々とその場から退散した。は、恥ずかしい!
人気の無い場所に移動し、焼きそばを啜っていると、シフトが空いたサーシャが合流しに来た。手には焼きそばパックが握られている。
「お待たせしました!」
「全然待ってないよ。あと、この焼きそばめちゃくちゃ美味しい!」
「ええ。サーシャ、ご飯当番の時は焼きそばを所望するわ」
「焼きそば本当に美味しいよ、紗々さん!」
「皆さん⋯⋯!ありがとうございます!」
感無量と顔に書いているサーシャを招き、四人で焼きそばを啜る。本当に美味しい。愛情が入ってるから?それともこのソースが⋯⋯?要研究である。
焼きそばを食べ終わった私たちは、四人で体育館へ向かった。そろそろ、セリナの劇が開催されるからだ。
「わぁ⋯⋯凄い人ですね」
「普通、クラスの出し物でこんなに人集まらんでしょ⋯⋯」
「芹那さん目当ての人が多いってことじゃない?」
「セリナは可愛いから当然ね」
アリサ様の身内可愛いが爆発していらっしゃるな⋯⋯。
とりあえず、人がもっと増えて席が無くなる前に、手頃なところの席を四席確保する。
劇開始5分前には、体育館の席がいっぱいになり、立ち見まで増えてきたようだ。こちらは抽選制では無かったが、体育館のキャパを迎えたらしく、入場打ち切りになっていた。もう少し遅れていたら危ない所だった⋯⋯。
いよいよ劇開始の時間になり、体育館が暗くなる。待ちに待った観客たちは、盛大な拍手で劇のスタートを祝う。私も負けじと、大きな拍手を送る。
「あ、出てきた」
劇がスタートして5分。遂に風の精霊役であるセリナが出てきた。
「やあやあ!僕は風の精霊、ウィンド!旅人さん、何かお困りのようだね?」
「か、風の精霊!?こんなに綺麗な人が居るなんて!」
「いやあ、照れるなあ。そんな事より、いま道に迷ってるんだろう?僕の魔法で、君を案内してあげるよ!」
中性的なキャラクターを上手いこと演じ上げている。セリナの演技に、思わず感嘆の声が漏れた。
周りを見ると、セリナの演技にみんな驚いているようだ。セリナは一見、元気なおバカキャラに見えるかもしれないが、実際はフルールで一番頭が良くて器用だ。今日はセリナのそんな部分だけでも、皆に知って貰えたら十分だ。
それからも、劇は続いた。
「旅人さん、ここは僕に任せて先に行って!」
「そんな、ウィンド!俺たち、相棒だろ!お前を置いて逃げるなんて出来ないよ!」
「良いから行くんだ!僕は精霊さ。君たち人間と違って、死ぬことは無いのさ!またあの泉で会える。だから、早く行って!」
セリナ——ウィンドはそういうと、大きな風が吹き、旅人である主人公を遠くに吹き飛ばした。このシーンは、旅人の主人公が盗賊団に襲われるシーンだ。これまで旅を共にしてきた相棒、風の精霊ウィンドとの別れである。
「ううっ、うっ⋯⋯!」
「ウィンドぉ⋯⋯!」
周りを見ると、ウィンドとの別れに涙を流す生徒も多い。凄い演技力だ。
そういう私も、頬を涙が伝う。いつかの戦いを思い出したからだ。これはウィンドに涙を流しているのではなく、その日のセリナを思い出してしまっていた。アリサとサーシャも同じだったのか、静かに涙を浮かべていたので、三人で肩を寄せ合った。
あの時はヤバかった。実際、セリナが命をかけて逃がしてくれなければ全滅していただろう。幸運だった事に、セリナも無事逃げることに成功し、なんとか四人で再会することが出来たのは奇跡だったと、今でも思う。
そんな、私たちだけは別の思い出を想起しながら、セリナの役——風の精霊ウィンドは、盗賊団から主人公を守り命を落とし、その出番を終えた。




