37話
なんやかんやあった文化祭も、いよいよ当日。
ついに、文化祭が始まった。
「ふっふっふ⋯⋯我ながら渾身の出来だよ⋯⋯」
私は、お化け屋敷と化した自分の教室を眺める。狭い教室でたくさん怖がらせるため、所狭しとビックリギミックが用意されていて、中々ハードなお化け屋敷になった。
入り口には、私の作ったホラー人体模型が飾られている。中々のクオリティで自画自賛してしまうくらいだ。
「リンネ、おはよ」
「おはようございます!」
「おはよー!」
声の方に振り向くと、そこにはアリサ、サーシャ、セリナの3人が立っていた。まずは私たちのお化け屋敷を堪能しようという事か。
「おはよー!ささ、私たちのお化け屋敷楽しんで行ってよ!」
「楽しみね」
そう言ってアリサたちが教室に入っていく。残念ながら中の反応を楽しむことは出来ないが、三人が出てきた時の反応が楽しみだ。
待つこと約3分。出口から三人が出てきた。セリナは目がキラキラと輝いているが、アリサは少し顔が青く、サーシャは軽く震えていた。
「どうだった?どうだった?」
「めっちゃ楽しかった!」
「私はちょっと疲れたわね⋯⋯よくもあんな短い間にビックリする仕掛けを⋯⋯!」
「怖かったです⋯⋯!これ、リンネさんが全体設計をしたんですよね⋯⋯?」
「そうだよ!私の監修、私の演出がふんだんに盛り込まれたスーパーお化け屋敷!楽しんでもらえて何よりだよ!」
しめしめ。どうやらお化け屋敷は中々のクオリティらしい。異世界で化け物と戦っていたサーシャが怖いということは、一般高校生にはかなり怖いはず。リアルに寝る間も惜しんで頑張ってたので、良い物が作れて良かった。
そこから約2時間、受付役として私はお化け屋敷の前に立っていた。かなりの数、私目当てでやってくる生徒が居たので、全員にお化け屋敷を勧めて入ってもらったが、それはもう皆良い顔で出てくる。何人かリタイアして入口から出てきたくらいだ。
「凛音お疲れ!すごい好評だよお化け屋敷!みんな超怖いって!」
「ふふん。もっと褒めていいんだよ桜」
「よっ!名監督!スーパークリエイター!ホラー界のニューホープ!」
「へへ、よせやい」
お化け屋敷から出てきた白装束のお化け⋯⋯もとい、友人の渡会桜が私に労いの言葉をかけに来てくれた。お化け屋敷の中で見ると中々怖いが、明るい廊下で見るとただのコスプレである。
「着替えてくるからちょっと待ってて!文化祭回ろ!」
「うん!待ってる!」
私と桜は同じシフトを組んでいる。その為、一緒に文化祭を回るよう約束していたのだ。
メイクを落とし、クラスTシャツに着替えた桜と共に、交代の生徒に挨拶をしてから文化祭に繰り出す。色々な催しがあり、興味が尽きない。
幾つか展示物を出しているクラスを見たところで、私たちはアリサの居るクラスに辿り着いた。見てみると、凄い行列である。
これに並ぶのはちょっと面倒だな⋯⋯と思っていた所で、グイッと教室に私を引きずり込む手が。突然の事で思いっきり踏ん張るが、すんなりと教室に引きずり込まれる。私をいとも簡単に招き入れるステータスを持っているということは⋯⋯!
「あ、アリサ!」
「ちょうど良かったわリンネ。人手が足りないの。執事服は在庫切れだけど、男子用のメイド服が余ってるから、リンネはメイド服着て手伝いなさい」
そこには、黒い執事服をカッチリと着込んだアリサの姿があった。紅蓮の髪をポニーテールにまとめ、白い手袋を身につけている執事服のアリサは、身内贔屓を除いてもめちゃくちゃカッコイイ。こんな執事が居たら、主従の関係なんて簡単に飛び越え、仲良くなりすぎてしまいそうだ。
って、ん?アリサなんかとんでもない事言ってなかった?
「え?私、メイド服着て手伝えって言われてなかった?」
「そう言ったのよ。時間無いから、ほら早く!」
言われるがまま、気が付いたら私はフリフリのピンクメイド服に身を包んでいた。執事服は結構しっかりしてたのに、メイド服はなんともチープなコスプレ衣装感満載だ。変にコスプレ感が強いせいか、なんか恥ずかしくなってきた。
メイド服を着たまま廊下を見てみると、ソワソワした様子の桜が行列に並んでいた。突然消えてすみません⋯⋯。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
声の方を見ると、女子客に執事アリサがにこやかな接客をしていた。接客された女子は、分かりやすく目をハートにしており、顔も真っ赤だ。⋯⋯なんとも言い難い嫉妬心が芽生えてくる。なんで私以外の女の子に色目を使ってるんだ!という怒りが湧いてきた。
「うお⋯⋯本当に凛音さんだ⋯⋯」
「メイドリンネちゃま、マジ天使⋯⋯」
私が放り込まれた女装メイド喫茶には、メイド服を身に纏う男子生徒が沢山いる。かなり恥ずかしいが、仕方ない。客を捌いて捌いて捌きまくり、後でアリサに怒りをぶつけなくては。
「お帰りなさいませ、ご主人様!」
私は目一杯の笑顔を客の女子生徒——執事喫茶もメイド喫茶も女子客ばかりだ——に向けると、その女子生徒はキャーキャー叫びながらカメラを向けてくる。私はご主人様に『チェキ500円』のプラカードを見せて対抗するが、その生徒はすかさず500円玉を取り出し、チェキを撮らざるを得ない羽目になった。
仕方なく、女子生徒の作った片割れハートに、私のサムズアップを重ねて写真を撮ると、その生徒の目がキラキラと輝く。⋯⋯こんなに喜ばれると、恥ずかしさよりも嬉しさが勝つ。
いつか、写真撮影会とか開いてもファンが喜ぶかもなぁと思いながら、メイドリンネとして接客を続けた。
すると、ソワソワした桜が遂に入店する。執事喫茶とメイド喫茶のどちらに行くか見ていると、あろうことか執事喫茶に向かって行った。
勝ち誇った顔の執事アリサが、横目で私を見るのが見える。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「あ、あああ、た、ただいま、です!」
「ふふ。そんなに緊張されて⋯⋯どうしたのですか?私はあなたの執事、アリサですよ」
「ひゃ、ひゃい!」
おうおうおうおう。私のアリサが?私の桜と?イチャイチャしてるのを、この私が黙って見過ごすとでも?舐めてもらっちゃあ困るなぁ!
私は簡素な仕切りを超え、ルール無視で執事喫茶に乗り込むと、桜とアリサの前に割って入る。
「ご主人様?お屋敷を間違えてますよ?」
「り、凛音!」
「あなたのメイド、リンネが待ってます!ささ、こちらのお屋敷に早くお戻りを——」
「ちょっと。メイドはあっちでしょ?ここは執事の屋敷。こちらのお嬢様は、私のお嬢様なんだけど?」
「ご主人様が間違えた時、正しい道を示すのもメイドの役目ですよ?それに、ご主人様は私のご主人様ですよ?」
私とアリサの間に、バチバチと火花が散る。最も、アリサは私と仲良い桜を使って遊んでるだけだ。なんて罪な女なのだ。
桜は、執事のアリサとメイドの私に取り合われて、目をぐるぐると回している。
他の生徒から「羨ましい⋯⋯」「執事アリサとメイドリンネに取り合いされたい⋯⋯」「早くあれになりたい」といった呪詛が聞こえてくるが、私はそれを無視し、暫くアリサと桜の取り合いを続けた。




