表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/57

35話

 その日の放課後。


 私は、アリサたち三人と宮園さんを連れて、生徒会室へ向かっていた。


 廊下を歩く足音が、やけに大きく響く。


「リンネ、本当に大丈夫なの?」

「分かんない。でも、やるしかない」


 心配そうなセリナに、私はなんとも言えない笑顔を返す。上手く行くかは、言ってみないとなんともいえないな⋯⋯。


 意を決して、生徒会室の前に立つ。

 一度だけ深呼吸して、ドアをノックした。


「失礼します」


 中に入ると、既に数人の生徒会役員と、担当の教師が座っていた。


 空気が、重い。


「西条さん。話は聞いてるわ」


 生徒会長の先輩が口を開く。


 机の上には、資料が広げられていた。来場者予測、警備体制、想定トラブル——全部、赤字だらけだ。目に入るだけの情報でも、学校側で色々手を拱いていたのが理解できる。


「正直に言うね。このままだと、文化祭は中止になる可能性が高い」


 やっぱり、そうか。私は、生徒会長の言葉をストンと受け入れた。


 ——でも。


「それでも、やりたいです」


 私は、一歩前に出た。


「文化祭、無くしたくないです」


 一瞬、部屋の空気が止まる。


「⋯⋯気持ちは分かる。でも、これは気持ちの問題じゃないの」


 教師が静かに言う。


「安全管理が出来ない以上、開催は出来ない。何かあってからじゃ遅いんだ」


 正論だ。

 ——しかし。


「対策、考えてきました」


 私は、宮園さんの方を見る。

 宮園さんは、ほんの少しだけ頷いた。


「まず、参加できる親族の範囲を、親兄弟と祖父母だけに限定します」

「かなり絞るね。叔父叔母、従兄弟なんかは、親族によっては、かなり近しい距離感の所もあるだろう。そこを削るのは⋯⋯なかなか反発が出そうだけど?」


 生徒会役員の一人が、素早く指摘してくる。これは想定済みだ。⋯⋯というか、私が宮園さんにした質問そのものだ。


「反発は出ると思います。でも、現実問題、どこかで線を引かないと、収拾がつきません」

「⋯⋯続けたまえ」


 私の言葉に、教師が反応を示す。よし、このまま畳み掛ける!


「次に、参加する親族は全員、事前に顔付き身分証を提出して登録してもらいます」

「⋯⋯登録?」

「はい。当日はその登録情報を元に、顔で本人確認を行います」


 少し空気が変わった。教師は腕を組み、難しい顔をする。


「意見としては正しいと思う。だが、個人情報の管理、そもそもの顔付き身分証を登録するフォーマットの整備が難しい。顔さえ割れていれば、当日の顔確認はそう難しくないが⋯⋯」

「そこは外注すれば良いんじゃないでしょうか」


 思わぬ反論に何と答えたら良いか困っていると、すかさず宮園さんが参加してきた。


「外注⋯⋯しかし、そんな費用は無いぞ?」

「私の姉が、フルール⋯⋯天宮たちのファンなんです。姉はWEBアプリの開発会社を経営していて、この手の案件には慣れています」

「しかし、親族とはいえ無償という訳には⋯⋯。それに、こういうのは私たちの独断で決めるわけにも——」

「お金と責任は、私が取ります!」


 不思議と、自然にそんな言葉が口を滑った。私は何を言ってるんだ。

 いやでも、絶対に文化祭は成功させたい。色んな大人の事情があると思うけど⋯⋯それでも!


 そこに、宮園さんが口を挟む。


「姉貴には、天宮がちょっとファンサしてあげればプライスレスになるよ」


 宮園さんがニヤリと笑う。プライスレス⋯⋯恐ろしい響きだ。宮園さんは、続けて教師と生徒会に語りかける。


「学校側的には、全部私が自分でやった事にして、本人確認のサイトなんかも私が用意したものを使って⋯⋯みたいな感じで、あくまで生徒が自主的に無償でやった事にすれば、そんなに問題にならないんじゃないっすか?」

「⋯⋯宮園。お前、それお姉さんの受け売りか?」

「いや、私が考えました。実際、サイトの作り方やらは姉貴に教えてもらって基本は私が作るし、チェック作業は全部生徒側で行う。これなら何かあっても、本当のことだから切り抜けられるっしょ」

「⋯⋯はぁ。分かった。ただし、その仕組みをそのまま使うんじゃない。学校管理下で運用する。責任の所在だけは曖昧に出来ない。あと西条。責任は学校が負う。子供が軽々しくそういう事を言うな」


 教師は頭をガシガシとかいた後、渋々了承した。⋯⋯すごい!


「宮園さん!私もサイト作り手伝うよ!」

「いや、私は元々少なからずコーディング出来るから。何も出来ない西条が居ても足手まとい」


 足手まとい⋯⋯足手まといかぁ⋯⋯。ショックで膝から崩れ落ちそうになるのを堪え、せめて親族チェックだけは手伝わせて欲しいというと、そちらは「人手足りないんだから、手伝わせるに決まってんでしょ」と言われてしまった。ですよね。

 でも、これだと宮園さんの負担がデカすぎる。実質、お姉さんはアドバイザーであり、実作業は宮園さんがするのだ。IT?の事はよく分からないが、お姉さんの会社が何をしてくれるのかは分からないけど、今聞いただけだと宮園さんが大変すぎる。


「宮園さん⋯⋯」

「良いんだよ。私のエゴだから。西条が申し訳なさそうな顔すんなっつーの」


 それは難しい。そもそも、私のせいでこんな事になったんだ。何か報いられると良いけど⋯⋯。文化祭終了までに、宮園さんと仲の良い子に相談してみよう。


 そんなこんなで本人確認の件が教師陣に了承されると、宮園さんが仕切り直して話を続ける。


「今問題なのって、どうせバレないで入れるって思われてることなんで。本人確認をしっかりしてそこ潰せば、そもそも来ようとする人減りますよね」

「⋯⋯その通りだな」


 教師もしっかり頷く。確実に、この場の空気を宮園さんが支配していた。


「⋯⋯続けて。まだあるんでしょう?」


 生徒会長が促す。そうだ。私はこの説明をするために来たんだ。いつまでも宮園さんに頼り切りじゃダメだ。

 私は息を整え、口を開く。


「フルールのライブは、校内でも抽選制にします。全員が見れる前提をやめます」

「それは⋯⋯不満が出るんじゃない?」

「自分で言うのも何ですが、たぶん出ます。でも、それを前提にします」


 私は、しっかりと言い切る。


「人数を管理出来る状態を作らないと、学校側の負担が大きすぎるので」


 教師と生徒会が顔を見合わせる。


 ——手応えはある。


「そして最後に」


 一度区切り、言葉を続ける。


「私たちのステージは配信します。DIVEで、生配信です」


 教師が目を細める。


「配信⋯⋯か」

「はい。来れない人、抽選に外れた人でも、ちゃんと楽しめる環境を作ります」


 数秒の沈黙。


 私は続ける。


「来れないから終わり、じゃなくて、来れなくても楽しめる状態を作ります」


 部屋が静まり返る。


 生徒会長がゆっくりと口を開いた。


「⋯⋯理屈は通ってるわね」


 教師も頷く。


「完全にリスクをゼロには出来ないが、現状よりは大幅に改善されるな」


 そして——。


「条件付きで、許可する」


「——っ!ありがとうございます!」


「ただし。本人確認の運用は学校主導で行う。西条⋯⋯凛音、有紗、紗々、芹那と宮園にも手伝ってもらうが、そこは教師陣が最終チェックを行う。あと、配信も教師立ち会いのもとで実施すること」

「はい!」

「それと」


 一拍置いて。


「絶対に問題を起こさないこと」


 私は真っ直ぐ頷いた。


「はい。絶対に成功させます」


 ——こうして。


 文化祭は、繋がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ